【短期集中&不定期連載】「高校生はメシを食え! -メシは柔道部員の基本的人権なり-」第1回

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第1回「高校生はメシを食え!」

編集長(筆者)は、怒っている。物凄く怒っている。

怒りのスタートは春。ある地方に取材に行ったときに会場で聞いた話である。曰く、弟さんが強豪校の寮に入ったのだが、食事風景を目にして驚愕。「おかずが少ない!これでどうやってご飯食べてるの?と涙が出た」と。美味い不味いではなく、少ないんだ、と。到底運動している高校生が体を作れる量じゃないと。

そういうものなのか、と比較的若い世代を対象に、機会があるごと「寮メシ」の話を聞き始めた。すると出てくる。結構なものだ。

「おかずが少な過ぎてタンパク質が取れない。ご飯も食べられない。先輩に聞くと『お前知らないのか。ここではこうする』と冷凍庫を空けると親から仕送りされた冷凍食品がぎっしり。学費・寮費結構納めているのに…」(高校)

「味がひど過ぎて、鶏肉を水道で洗って、ポン酢など自分で用意した調味料につけて食べていた。2人3人ではなくほぼ全員がやっていた」(高校)

「朝食におにぎりが支給されるが、米が変な色、においもきつい。学校で同級生に見せたら『とても食べられない』と言われて悲しかった」(高校)

「朝食のおかずは生卵と納豆のみ。どちらも山積みされているだけなので、出遅れるとおかずはない」(大学)

「仕方がないので生卵を確保しようと1年生で深夜に冷蔵庫に向かうと、鎖が巻かれて鍵が掛かっている。背に腹は代えられないので皆で破壊して食べた」(大学)

「洗濯が終わると夜遅い。そこで食堂に行ってももうご飯も汁もおかずもない。外の店も開いていない。1年生はご飯が食べられない」(大学)

「夕食のおかずは学食のあまりものが鉄板。油ものが多かった」(高校)

「おかずが少ないので、小遣いを出し合って食材を買い、部屋で電熱調理器で料理して食べた。規則違反だとめちゃくちゃ怒られて悲しかった」(高校)

「カレーですらまずい。希望がなかった」(高校)

「大学1年時に過食・偏食で体調を壊した。栄養士さんに相談したら、高校時代にきちんと食べられなかった強迫観念が大きいと指摘された」(大学)


これ、昭和の話ではない。もっとも古い話でも7,8年前である。つまり“いま”の話である。「量」「味」「質(栄養素)」とレイヤーに差はあるわけだが、どれもありえない。もし本当ならば、まさしく、冗談ではない。


アスリートにとってもっとも大事な時期に体が作れない、採るべき栄養素が揃っていない、運動量に対してカロリーが足りていない。問題点は色々あるわけだが、敢えて言えばこんなことはすべて“些細なこと”である。


「子どもはメシを食ってナンボ」なのだ。子どもってのは、旨いメシをたっぷり食って、あったかい布団でぐっすり眠る権利がある存在なのだ。

すべてはそれから。能力の高低も、努力の量も、問われるのは「食って、眠る」が満たされてからである。選手を集めるだけ集めて、いざ入れたらロクにメシを食わせることも出来ない。そんな甲斐性なしの学校は「いますぐ強化をやめるべき」だ。


指導力の高低など関係ない。本末転倒だ。一種傲慢だ。強い選手を育てた実績が、虐待まがいの「メシが足りない」悲劇を浄化することなど一切ない。食わせられないんだったら、選手は地元でやらせるべき。自分の家で腹いっぱいメシを食わせて、それぞれの地元の学校で頑張らせばいい。強い選手も散るし、普及の観点からは一極集中・限られた強豪校だけが強い世界より断然マシだ。もし、強い学校で指導を受けるためにはマズいメシを我慢しなければいけないというのであれば、それは脅迫であり虐待だ。


思うに。最初は手作りのステージがあっていい。学校から「柔道部を強化していいよ」と言われる、あるいは学校が指導者を連れてくる。そして特待で入学枠を作る。練習場所も提供する。学校の寮も提供する。ただ、強化はこれだけで終わりじゃない。きちんとメシを食わせなければいけない。そこまでを必須のインフラとして捉えられる学校がまだ意外に少ないのではないか。そして、有能な指導者はバイタリティもコミュニケーション力も営業力もあるので、家族や地元、父兄の協力を取り付けて、「なんとかしてしまえている」のではないか。


ただ、それは本当に持続可能なのか。実は極めて属人的なものなのではないか。指導者がいなくなったらいきなり無に帰するものなのではないか。あるいは9年、10年と経ち指導者の「旬」が過ぎ、バイタリティが落ち始めたときに維持できるものではないのではないか。もしくは出入りの「業者さん」の好意に甘えるあまり、実はWIN-WINではない、ビジネスとして持続可能なものではないのではないか。


もちろんケースバイケース、中には「寮母さん」が誰もがうらやむおいしいご飯を出し続けている素晴らしい例もあるが、意外と多くが「今なんとかなっているだけ」の危ういバランスに立っているだけなのではないか。バイタリティある指導者の力技でなんとかなるステージはもちろんあっていい。ただ、子どもを越境させ、大量に預かるステージになったらもうそれは許されない。考え方を変えるべきだ。学校側に、それを認識させるべきではないか。


何か、やらなければならない。子どもに声をあげさせる機会を作らねばならない。彼らが「少しの間だけ我慢すれば」「きっと俺が弱いからいけないんだ」と耐えるその3年間は、実はアスリートの体を作る上で取り返しのつかない大事な時間なのだ。


きっかけはもう1つ。引退したもと日本代表選手にインタビューする機会があったこと。彼曰く「後悔はない。ただ、もし高校時代まで時計の針を巻き戻せるなら1つだけ、『食事』をやりなおしたい」と。作るべきときに体を作り切れなかったと。同じ場所で食事していた野球部はOBからの「ちょい足し」の鯖缶がいつもあり、物凄く羨ましかったと。高校卒業後のキャリアほぼすべてが怪我との戦いだった彼の言葉は、重かった。


こんなことをさせていてはいけない。こういった事例が本当に、いまだに現在進行中であったとしても、子どもたちが声を上げることは難しい。親だって、預けている学校の悪いところは言いたがらないだろう。そして何より、ネガティブな方向(たとえば調査・糾弾)の問題提起は非生産的だ。

そこで、2つ考えた。

「きちんと食わせているチーム」の寮メシを紹介する!

おそらく強豪校ということになるだろうが、「きちんと計算して食事を摂らせているチーム」のご飯を紹介する。形としては「食レポ」。記者が朝昼晩と3食同じものを食べて、そして「そのチームで一番食べる選手」と同じ量を食べて、味・量・雰囲気、人気メニューなどを紹介する。もちろん私も食べる。これを見て、栄養学的に「高校生の運動部員はどんな食事を食べるべきか」を皆に知ってもらい、子どもたちに「俺たちは、食えていないのではないか?」あるいは「俺たちは恵まれているのではないか?」と気づいてもらい、声を上げてもらえばいいのではないだろうか。企画のタイトルは「高校生はメシを食え!」


思いつくなりすぐさま携帯に手を掛けて打診したところ、国士舘高等学校と東海大相模高等学校の2チームが快諾してくださった。行きます。すぐに行きます!


ただ、編集長(私)では荷が重い。量を食べることがかつてのアイデンティではあったがもともと軽量級だし、年も年だし、1年越しのダイエット目標を達成したばかりだし、決定的に絵が面白くない。「味」についても旨いものを食べることが好きなだけで語彙が薄い。

「食レポ」は小林大悟が担当。料亭「一よし」長男で体重140キロ。

そこでeJudo編集部の最終兵器・小林大悟に登場願った。体重140キロの重量級、これならあの学校のあの選手やこの学校のこの選手にも、見た目も食べる量も負けはしないだろう。そして彼は、秋田県は由利本荘市の江戸時代から続く名門料亭「一よし」の長男なのだ(編集長註:めちゃくちゃ旨い店です。私は生ある限り、なるべく多く訪問すると決めています)。彼がこれまでの人生でただ1度も大きい怪我をしたことがないのは、おそらく幼少の砌から旨いものを食べ続けているから。おそらくメシに関しての語彙も厚かろう。これ以上の人材はいまい。


さっそく命じたところ「いま人生最重量で、まさに今日から痩せようと思っていたところですが、こうなった以上はやります!命を削るつもりで頑張ります!」と、体重に似合わぬ可憐な言葉。こういうことをいう重量級が実際はまったく行動出来ないのは誰もが頷くであろう業界あるあるなので、さほど罪悪感も持たず「すまんなあ、俺だと見た目にも全然面白くないんだ」となるべく申し訳なさそうに声を掛けて気持ちを昂らせ、同行してもらうことにした。「食レポ」は彼が行う。もちろん私も食べる。差し入れも持っていく。

ここで、告知をふたつ。

告知①:「うちの寮メシ、食べてください!」という学校がありましたら、ぜひ声をおかけください!

編集長古田・ライター小林で、全国どこにでも伺います。この取材を通じて早くも「あそこのメシが旨い」と複数校の情報が入ってきております。たぶん相思相愛です。ぜひ「うちにも来てよ」と言ってください!

告知②:「うちの商品を、差し入れに贈らせてください!」というスポンサー様、ぜひお知らせください。

この記事は所謂「記事広告」ではなく義憤に駆られていきなり始めた素の記事なので、現状スポンサーは一切おりません。いかがでしょうか。差し入れを高校生がばくばく食べる様、写真で紹介します。

そして企画の2つ目。

②実際どうなのか?「あなたの寮メシ体験、教えてください」アンケート実施!

あなたの寮メシ体験、教えてください

冒頭、「寮メシ」について収集したコメントを紹介したが、果たしてこれは本当なのか。過去の記憶はバイアスが掛かるもの。私に話すときに話が大きくなることもあるだろう。飯の話だけにまさに盛ることもあるだろう。まず実態を知ることが大事ではないだろうか。

というわけで「あなたの寮メシ体験、教えてください」アンケートを実施する。あなたは寮メシに満足していたのか、不満だったのか、十分食べていたのか、そうではなかったのか。どんなメニューが人気で、自分はどんな食べ方をしていたのか。どんなエピソードが思い出深いのか。ぜひ本音で語ってもらいたい。

「昭和」の話は要らない。欲しいのは「いま」に繋がる話。集まったエピソードは、eJudo記事にてまとめて紹介予定。柔道部以外の運動部のエピソードも大歓迎である。

第1回はここまで。次回は寮メシ訪問に先んじて、管理栄養士としても有名な日本大学・松本恵教授に「高校運動部員に必要なメシ」について教えてもらいます。

高校生よ、メシを食え!!!!!

文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

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