
短期集中&不定期連載「高校生はメシを食え!」。
第1回では、「寮メシ」について実態を明らかにせねばと義憤に駆られた編集長(筆者)が、きちんとメシを食わせている学校の「寮メシ」を紹介することを決意。フードファイターとして編集部の体重140キロ小林大悟を召喚し、編集長との凸凹コンビでターゲットの学校に赴き、高校生と3食をともにすることとしたいきさつを紹介した。
第2回では、高校生の「寮メシ」いかにあるべきか、科学的な根拠を得るべく日本大学文理学部体育学科教授&柔道部長の松本恵先生に、教えを請うた。
そしてこの第3回がいよいよ本番。高校生との寮メシフードバトル、第1回目は東京都・国士舘高校柔道部にお邪魔する。いわずと知れた超強豪。インターハイでは17回、全国高校選手権では11回といずれも歴代最多優勝を誇る名門である。
前回の松本恵先生の教えによると、食事をしっかり摂れるかはそもそも練習の段階で決定づけられるという。となれば練習も見逃すわけにはいかない。6時からの朝練にお邪魔すべく、20分前に梅ヶ丘駅で140キロ小林と待ち合わせ。差し入れの鯖缶とみかんを詰め込んだキャリーを携え、早乗りして小林を出迎え、国士舘高校に急ぐ。15分あれば余裕で着くはずだ。
しかし小林が歩けない。世界選手権期間での「+5kg」とおろしたてのサンダルが致命傷級に効き、早歩きがきついのだという。さすがに焦る。しかし責めても仕方がない。ヒューヒュー息を荒げ、「きっと贅肉が呼吸器を圧迫しているんです。こんなはずじゃないんです。本当にすみません申し訳ありません」と謝り続ける小林を電柱ごとに立ち止まって待ち、彼が心折れない絶妙な間隔をキープして最善パフォーマンスを引き出すように心がけ、なんとか開始1分前に国士舘高校に到着。小林、よくついてきた。そして凄く面白い絵だった。最後に「さあ、あとはこの坂を登るだけだぞ!」と声を掛け、励ましたときの絶望的な表情がとても良かった。意図せず珍道中感も出て、企画の先行きも明るいというものだ。
というわけで以降のルポは、食レポパート担当の小林君にいったんお任せ。小林君、宜しくお願いします。
【朝練】 6:00
皆さまこんにちは。eJudo編集部の小林大悟です。古田編集長の指名で、この企画では毎回強豪校の高校生と3食をともにさせていただきます。宜しくお願いいたします。
梅ヶ丘駅で待ち合わせ。涼しい東北の環境から一転、灼熱の関東に召喚された私の体は汗が止まらず、すでに一雨浴びたかのような状態です。
程なく合流。差し入れはかなりの重さのはずですが古田さんは車を運転されないので、キャリーケースに隙間なくミチミチにサバ(缶)とみかんを詰め込んで徒歩で現れました。機材まで背負い込んでとんでもない重さのはずですが、この方は実は基本的に脳筋、いや、なんでも肉体で解決される方なので特に驚くにはあたりません。
超重たいカートを引きずっているので多少減速されることを期待したのですが、肉の少なさの為せる業か、関東の暑さに順応しているゆえか、古田さんのスピードはいつも通りの快速。常に大量の重り(脂肪)をぶら下げている私はついて行くのがやっとという有様で、国士舘高校に到着した頃には満身創痍でした。
国士舘高校。息を整えつつ眺めると、キャンパス風、とでもいえば良いのでしょうか。立地は世田谷、建物もモダンでいかにも都会の学校です。秋田の僻地から着いたばかりの私にはいささか気が引けるアーバンな雰囲気。「こっちね」とまたしても早足で消えてしまう古田さんを追いかけて道場への階段を上ると、百瀬監督と井上寮監が出迎えてくださいました。

<6/23 国士舘高校朝練>
6:00 柔軟体操
6:05 受け身、打ち込み50本
6:15 給水
6:16 寝技打ち込み(取り稽古) 15分
6:30 給水
6:31 寝技打ち込み(取り稽古) 15分
6:50 終了
朝早いので物凄くテンションが高いわけではないのですが、皆黙々と、隙なく体を動かしています。稽古は実に本質的。当たり前ですが、「打ち込みのための打ち込み(練習のための練習)」で時間を消費する選手など1人もおりません。実戦的です。試合で使う技術を、具体的に取るために、適切な負荷を設定して研いでいるという印象。高校選手権81kg級王者の佐藤選手は得意の横三角からのバリエーションを、2年生のエース候補・長野慎大選手は「足抜き」を、黙々とこなしておりました。


【朝食】 7:00
道場のある建物から道一本隔てたところに寮があり、その下が食堂。朝練終了からほとんど間なく、皆ここに移動して朝ごはんとなります。
この企画では、松本恵先生のご協力を得て、食事風景のそこかしこに「▶松本チェック」を頂くほか、1日の食生活の寸評(カルテ)も頂きます。第1回目は、3年生の佐藤光晟選手(81kg級)、竹久保吉宏選手(73kg級)、2年生の長野慎大選手(100kg超級)に協力を頂くことが出来ました。3人のカルテは、記事の最後に掲載します。こちらもぜひご覧ください。



<朝ごはん>
※ビュッフェ形式
ご飯
サラダ (キャベツ、レタス、ブロッコリー、トマト、コーンなど)
ベーコン、ソーセージ
チキンカツ、アジフライ
味噌汁
やまかけ(長芋)、オクラ
中華丼の具
納豆
ヨーグルト
朝ごはんはビュッフェ形式。毎朝あるものとしてはまず野菜。キャベツやレタスのほか必ずトマトとブロッコリーがサラダバー形式で用意されており、ドレッシングもかなりの種類から選択することが出来ます。さらに、やまかけ(長芋)とオクラ、ヨーグルトも常備。ほかにも温泉玉子、納豆に各種ふりかけと、ご飯のお供がこれでもかと用意されており、飽きることなくメシを食える工夫がなされていました。
朝食としては少し重め(一般人基準)ですが、チキンカツに魚のフライとタンパク質も十分。味付けも変に凝らないスタンダードなものとなっており、好みに関わらず誰でも美味しく食べられるものでした。なにより、ご飯が美味しい。これは実は、量を食べるために一番大切なポイントです。予想を上回る充実した食事、そして予定外の百瀬監督とのフードファイトにより、私は満腹で動けなくなったのでした。




ご飯(「ねばねば丼」=納豆2個、卵2個、おくらスプーン2杯、とろろ)×2杯
ブロッコリー5つ、アジフライ1つ、チキンカツ1切れ、ソーセージ4本

▶【松本チェック!】それぞれのトレーニングや授業のタイミングに合わせて食事をとることができるのは素晴らしいですね!

写真を見ると、1人一杯推奨のヨーグルトも、そこそこの量あるような。
▶【松本チェック!】ソーセージの脂質含有量はたんぱく質量よりも多いって知ってました?
▶【松本チェック!】乳製品はカルシウムの重要な供給源。でも、ヨーグルトなど発酵食品の摂りすぎは下痢の原因にもなります。大丈夫かな?


ご飯(丼大盛り4杯半=百瀬監督合わせ)
ベーコン(たくさん)、ソーセージ2本、中華丼の具、アジフライ1枚、サラダ、ブロッコリー2個、ヨーグルト。


中華丼 並×1
とろろオクラ丼 並×1
ソーセージ3本、味噌汁、ヨーグルト×1

ご飯大盛り1杯、納豆、卵。
ブロッコリー5個、ソーセージ2本、チキンカツ1切れ、ヨーグルト。


昼食 13:00
<昼ごはん>
焼き鳥丼
大学芋
味噌汁

13時から昼食。焼き鳥丼、大学芋、味噌汁。内容としては丼なのですが、ご飯のおかわりは自由となっており、私としては焼き鳥一口を少量に抑え、その間にいかに米を食べるかがポイントとなります。高校生たちも漏れなく鶏を寄せ、ご飯をおかわりしながら食事していました。朝のフードファイトの影響が残る私は牛歩。しかし濃いめで甘辛い味付けのおかげで箸を止めることなく、しっかりおかわりもしたのでした。
▶【松本チェック!】お昼のビタミン不足が気になるところ。野菜や果物が摂れないときは、100%果汁ジュースや野菜ジュースをプラスしてもよいですね。






焼き鳥丼 並×1
のりたまご飯 並×2
大学芋×2、味噌汁。
佐藤選手は焼き鳥丼2杯、長野選手は焼き鳥丼2杯にご飯を2杯。
続いて調査編。こちらは再び古田編集長にお願いします。
味・価格・栄養! 国士舘高校の「寮メシ」を預かる崎広社長に聞く
どうも皆さま、再び古田です。
小林も私もお昼を頂いてお腹いっぱい。ここで、国士舘高校の「寮メシ」を担当している“業者さん”である、株式会社アドバンス(http://advance.sx3.jp)の代表取締役・崎広直希社長にお話を伺うことが出来ました。
いかにきちんとした「寮メシ」を紹介しても、追随出来ない高嶺の花なら世の高校生を救うことは出来ません。なぜ、どうやって、安価に、安定して、旨い「寮メシ」を提供出来るのか。きれいごとではない本音の事情を知りたいところ。このパートは私が担当。前回同様、小林と机を並べて2人でお勉強であります。
崎広社長、まず株式会社アドバンスとはどんな会社なんですか?

崎広:「食」の専門会社と理解いただければと思います。東京都内を中心に、約30か所の学校などに給食サービスを展開しています。給食以外にも、「ロッキンジャパン」などイベントでの食事提供、あとは産業給食といういわゆる「弁当」を作ったり、キッチンカーを派遣したり、変わったところでは、アーティストにお願いされた料理をPV・MV用に制作したり、「誰それ監修のカレー」みたいなものを商品として実際に作ったり。
幅広いですね!
崎広:とはいえ、つまりは「食のことしかやっていない」んですよ(笑)。とにかく「食」が専門ですね。
「目の届く範囲で経営する」ことがモットーとのことで、現在の地域的な守備範囲は千葉から東京、藤沢まで。国士舘高校との関わりは5年前から。他大学のテニス部や野球部などスポーツ関係の給食サービスを提供していた経験があり、縁あって国士舘高校の学食と「寮メシ」を提供することになったという。
「寮メシの経済学」
さて。今回の企画は栄養や食習慣を考えるものであるとともに、全国の運動部高校生に「きちんとメシを食わせる」ことが目的である。“こうやって栄養を摂るといいよ!そのためにはこの商品がいいよ!”というような健全キラキラ広告記事の「足し算」情報ではカバーできない本音で話を聞かねばならないのである。建前ではイカンのである。避けて通れないのは、なんといってもコスト。まずここから聞かねば意味のある記事にはならない。保護者・指導者にとっても間違いなくもっとも気になるところだろう。社長、国士舘高校の寮メシは幾ら払えば食べられるのですか?
崎広:朝食660円、昼食550円、夕食825円の、計税込み2030円で提供しています。
食べた感覚からすると明らかに安い。量・質。高校柔道部員に1人に必要なカロリー・栄養を、家庭で賄うよりも下手すると安価なのでは?
崎広:そういっていただけるとありがたいですね。国士舘高校ではむしろ、結構「いい値段」を頂戴しているという認識です。私ども、ポリシーとして、「吉野家などの大手チェーン店と同じものを3割安く、同等以上の品質で提供する」ことを目標としています。
なぜ、安価に安定して食事が提供できるのか。まずはそこには徹底して「無駄を省く」という経営努力があるという。
崎広:以前は港区に本社を設けていたのですが、当然ながら家賃や光熱費だけでかなりのコストが掛かる。事務員の人件費負担も大きい。ですので、本部を廃止しました。各店舗、つまりはこの学食も「店舗」ということになりますが、それぞれにパソコンやプリンターなどの事務機器を配置して、個々に事務所機能を持たせる形にしたんですね。そして店舗からの報告をまとめるのにそこまでの場所は要らない。本社はシェアオフィスとして貸し出すことで、家賃収入を得る形に切り替えました。必要な時は自分たちが現場に行く形で運営しています。基本的に各店舗で仕事は完結。従業員には、売上・仕入れ・人件費を店舗ごとに毎日記録させ、利益を可視化することで「自分で経営する」意識を持ってもらっていますね。
まずはこの経営努力が大前提ということ。なるほど。そして、聞くところだと、「学食」つまりは、学校所有の設備を使っていることが決定的であるという。
崎広:学校の設備を使わせて頂けるかどうか、これは非常に大きいんです。お客様にとっては「同じ額を払っているのに、なぜ内容に差が出るのか」ということになるかと思いますが、通常の店舗で発生する電気・ガス・水道・家賃というコストが既にクリアされているわけですから、それは差が出てきます。さきほどお話しした「吉野家などの大手チェーンと同等の品質のものを、3割安く提供する」というのもそこです。逆に言えば、学校が所有する設備を使用しているのに、3割減らして提案出来なければ、それはプロではない。
もちろん仕入れにも万全の努力を払っているという。米の価格の高騰が世を騒がせている昨今、5年前の仕入れ価格230円/kgが現在は約800円/kgになっているが、仕入れの奔走でうまく吸収出来ているとのこと。また、クオリティに関しては「原価計算」でフェア度を測って欲しいともお話しされていた。アドバンス社は原材料費を売上の50パーセントから55パーセントに設定している。「うちは基本スーパーの価格で原価計算をさせます。例えば鶏肉は今キロ800円で売られていますね、本当に100グラム使えば80円ですね、その半値で提供しているのがうちですよ、これでいかがですか」と。
「学校の設備が使える、そのぶんは子どもの食事の質にきちんと還元します」という社長の顔には、自信がみなぎっていた。
寮メシの「おいしさ」と栄養について
ところで。「寮メシ」に関してかつてのプレイヤーたちから情報を集めたところ、「少ない」というレイヤーのほかに、「おいしくない」という意見がたくさんあった。しかし朝・昼と食べた国士舘高校の「寮メシ」は、こういう言い方をするのは僭越だが、普通においしい。なぜ、おいしいんですか?
崎広:おいしいと言っていただけるのは嬉しいですね。ただ、正直言って、そこに物凄く特別な工夫はないんですよ。本当に味の話だけで言えば、“基本に忠実であること”これが大事ですね。例えば、今の日本の調味料って、昔と違って完璧なものが多いんです。皆さん調味料に隠し味とか何か加えたりすることがあると思うのですが、本来はそこに何かを入れると崩れるはずなんですよ。プロがベストを期して作ったものなんですから。それを材料も含めて、定められた通りに、ケチらずにきちんと使うということに尽きますね。たとえば野菜200グラムに対して何かが100と決まっているんだったら、それを50にしたりすることはしない。・・・ところがここで薄めちゃう人たちがいる。業界用語で「伸ばす」というんですけど、だいたいみりんとか砂糖醤油を入れて伸ばしてしまうんです。でもそうすると、味はボケてしまうんですよ。
基本に徹底して忠実に。なるほど。そしてもちろん、それこそ大手のチェーンのメニューは研究し、「おいしいもの」は常に追及しているという。他に、「おいしさ」についてはいかがですか?
崎広:あとは、最初に話した「目の届く範囲で(事業を)展開する」ということですね。これは経営管理の面でも衛生管理の面でも大事なのですが、もちろん「おいしさ」ということにも直結します。食を扱うからには、目の届く範囲で仕事をする。過去の色々な経験からも、これが物凄く大事かなと思います。現場に乗り込むこともしますし、全店舗、毎食写真に撮って報告を義務付けています。写真に味はついていないですけど、見た目も大事。盛り付けも彩りも重要なんです。現場から管理栄養士に写真とデータをバンバン送らせて、栄養面もチェックしています。
ここで「寮メシ」自体に関してもう少し。野菜が常にあるなどポリシーも感じましたが、栄養管理上のポリシーや工夫をお聞かせください。
崎広:栄養士の管理のもと、運動部の高校生には2500kcal以上、大学生には3500kcal以上の食事を提供しています。とはいえ、ここ(国士舘高校)は、正直に言って3500kcal以上で提供していますね。野菜は1日350g以上の摂取を目標。あとは、高校生の好き嫌いに対応するために、魚料理を、たとえば一匹ではなくすり身を使って出したりというような工夫をしています。量でいえば、先ほど話題に挙がった「米」は高校生1人あたり500gを想定しています。あとは、またコストの話になるのですが、廃棄ロス削減のため、敢えて器を小さくしています。大盛りで取って残すのではなく、小さな器で複数回取って食べてくださいという形ですね。値段ぶん全部食べてくれよと。これ、単に「勿体ない」という話ではなく、すごく大きいんです。以前は廃棄の費用が物凄く掛かっていたのですが、ここが大きく削減出来た。もちろん、こういったことはすべて食事の「質」として還元させて頂いています。
「寮メシ」は持続可能か?
そして、これは第1回でも書いたことだが、「メシを食わせる」体制は持続可能であることが大事。持ち出しでは結局、どちらにもハッピーな未来は見えてこない。社長、「儲かりまっか?」

崎広:物凄く儲かるわけではないですけど、きちんと利益を出しています。この業界は3Kだ、4Kだ、と言われますけど、その分と言ってはないんですが、従業員にはしっかり、世の中のビジネスマンと比べても負けない、むしろ勝るくらいのきちんとした稼ぎを持って行って欲しい。これ、最初に話した「各店舗で完結」という話になってくるのですが、毎日売り上げ・仕入れ・人件費を記録させて報告させている。仕入れも自分たちでやり、自分たちで売るわけですからやりがいもあるし、利益もきっちり出てくる。その利益をきちんと持って行ってくれよ、という方法ですね。ですから、いま、赤字の店舗は1つもありません。
こういう「食」専門の会社はあまり多くというわけはなく、事業規模もまちまちだという。アドバンス社はどうなのだろう。そして「全国の高校生に食わせる」ミッションとしてはこれも聞いておきたいのだが、もし他の学校がアドバンス社さんにお願いしたいとなった場合、受け入れる余力はあるのだろうか?
崎広:現在会社が抱える従業員数は400人。もちろん、新規のお仕事は大歓迎です。「目の届く範囲」という大原則は崩しませんが、その範囲の中でなら、お話があれば、すぐさまどこでも飛んでいきますよ!
これは頼もしい。「目の届く範囲」、具体的には「関東」ということになりそうだ。では、たとえば新たに店舗を増やすということになったときに、ハードルになること、逆に「これがあるとありがたい」ことは?
崎広:まず悩みは、人の確保ですね。今足りないのは人だけなんです。ノウハウがあっても、なかなか人が確保できない。時給1400円、1500円出してもなかなか集まらないんです。「あるとありがたい」のは…、お答えになっているかどうかわかりませんが、運動部の寮のお仕事というのはかなりありがたいんですね。というのは、休みがないから。いわゆる「学食」だと、長期休暇は食堂も休みになってしまうんですよ。1年12か月のうち、3か月くらいは稼働しないわけです。ただ、その間でも人件費は発生しますから、こちらはそこも踏まえて考えなければいけない。ですから、1年通して稼働出来るこの仕事はありがたいんです。トータルで考えられますので、色々なことで余裕が出ます。出来ることが増えます。こういうこともやっぱり、実際の商品、目の前の食事の「質」に繋がって来るんですよね。
納得である。ちなみに「土日も提供して欲しい」「ゴールデンウィークも出して欲しい」「月2回、増額するからメニューを豪華にして欲しい」なども最近増えている相談で、適宜対応しているとのこと。
それにつけても話をしていて感じるのは、社長の「食わせる」ことに対する執念というか、思いの強さ。このあたり、あるいは「食わせる」という仕事に対するビジョン、いかがでしょう。
崎広:私は北海道の出身で、子どもの頃は給食がなかった。東京に出てきて、この仕事について色々なケースを見て回った中で「やるんだったらしっかり食べさせたい」思いはありますね。あとは、もう、お互い納得してやりたいということですね。食べる方も、作る方も。特に、こちら側が作るのが好き、食べてもらって喜ぶのが好き、これは大事だと思います。そうじゃなきゃ出来ないですし、満足もしてもらえない。「まあとりあえず」と仕方なしに作ってたりすると、こういう部分、商品に全部出てしまうんです。どちらが無理をするのではなく、「作る側も食べる側も納得できる」ウィンウィンが大事。収益の面でも、お客さんの側の満足度の面から見ても、これが続けるコツではないでしょうか。
実に、面白かった。漠然と考えていた「寮メシ」の経済原理、そして「旨さへの道」が少しわかって来た気がする。崎広社長、ありがとうございました!
夕方練習 16:00
崎広社長のレクチャー、大変勉強になりました。ここからは再び小林がお送りします。
16時からは、夕方の練習。今日見せて頂いた練習メニューは以下の通りです。高校生の人数が47名の大所帯。ただし、試験前であり「勉強がきつい」生徒は参加不可。このあたりも、実に「いまの学校」です。

<6/23 国士舘高校 夕方練>
16:00 ウォーミングアップ・受け身
16:10 打ち込み 100本
16:20 「相撲」(抱き勝負) 20秒×3本
16:25 寝技段取り 3本×5本
16:40 乱取り ①4分×6本 ②3分×6本
17:30 投げ込み 5分
17:35 体操・終了
※自主練習者が居残り、反復練習していました。
一番感心したのは、その無駄のなさ。短時間ゆえに余計な動きをする暇などないのでしょう。皆集中力高く、技術的にも競技的にも嘘の入る余地のない稽古をしていました。
【夕食】 19:00
やや時間が空き、この間選手の過ごし方は「居残り反復練習」「体のケア(病院・接骨院など)」「入浴」「休息」などまちまち。19時から食事となります。
【夕食メニュー】
ご飯、回鍋肉、もやしのナムル、野菜サラダ、味噌汁

▶【松本チェック!】野菜の多いメニュー!ありがたいですね。ご飯も進みそうで、おいしそうです。
基本的なシステムは昼と同じ。長野選手と同じ量を食べることがミッションの私がまず考えることは、いかに回鍋肉をちびちびと摘み、大量の米を食べるかです。とはいえ、肉の量は十分。濃いめの味付けのおかげで少量でもご飯が進むため、特に意識せずとも無理なく3杯は食べることが出来ました。昼食も丼であったことを考えると、食べた米の量は1食およそ3杯分。どうやらこれが一つ、今後の基準となりそうです。
ひたすら食べつつ、そして皆さんに「好きなメニュー」など聞きつつ、楽しい時間を過ごさせて頂きました。




▶【松本チェック!】箸休め?が欲しいのかな?菓子パンを食べても、ご飯や特に野菜などもしっかり食べられるなら、問題なし。

▶【松本チェック!】練習時からの体温調節として、水分補給をしっかり改善してみてほしいですね。朝食時の野菜をしっかり食べておくことでも一日の水分摂取量を増やすことができます。

好きなメニューとしては写真で紹介したもののほか「カレー」(長野選手は3,4杯いけるとのこと)、「牛肉の炒めもの」「回鍋肉。今日みたいなのです」「揚げ物。特にチキンカツ」などが挙がっていました。
ここで、所謂「メシトレ」の気配がまったくないことに気づきました。白米を大量に食べさせて「体を大きくする」というあの振る舞いが国士舘高校にはない。ここについて、百瀬監督にお聞きしてみました。
「無理やり食べるよりも、自然に食べるべき。それで今日の私くらいの量は食べて欲しいですね。言うのもやらせるのも簡単ですけど、ここは自ら取り組んで欲しい。実のところ、無理やり食べさせた時期もあったんですが、長い目で見て、思ったほど成果は出なかったんですね。あくまで『自分から』が理想です。そして、寝る、食べる、遊ぶというのは基本的には『楽しいこと』。このうち1つを『苦しいこと』にしてしまっても、いいことはまったくありません。くっついて無理やり食べさせるのは、無理やり乱取りをやらせるのと一緒。効果も上がらないと思っています。あくまで『自分から』、これが結局一番効果的だと考えます」

なるほど。これは関係あるかどうかはわかりませんが、ウエイトトレーニングも義務として課されているわけではないそうです。たとえば、81kg級の高校王者・佐藤選手はまだウエイトトレーニングはしていないとのこと。止められたわけでもなく、逆に強制されるわけでもなく「自分はまだいいかな」と考えてのことだそうです。トレーニング器具と環境は揃っており、「やりたい人がやる」とのこと。思った以上に自主性を尊重する環境です。
柔道も食事も、自ら取り組めるものがやはり強い。そうなれば聞かないわけにはいきません。百瀬監督に、一番食べた代は?と聞いてみました。「自分が関わった限りでは、一昨年の”三冠代”が良く食べた」とのこと。高校三冠を成し遂げた川端倖明選手や畠山凱選手の学年。これは納得です。やはり強い世代は自らしっかり食べている。人間力を感じます。そして特に食べたのは畠山選手や若崎喜志選手とのこと。若崎選手などは「あれ?先生も結構食べるんですね」「先におかわりしちゃいますね」と監督を煽って来る勢いだったそうで、監督曰く「負けるわけにはいかない。自分はそのせいで太った」とのことでした。その感想、尊重致します。
以上で私のレポートはおしまいです。国士舘高校の皆さま、ありがとうございました。「寮メシ」大変おいしゅうございました。インターハイに向けて頑張ってください!
国士舘高校の皆さま、ありがとうございました
再び編集長古田です。小林や「いちばん食べる」生徒である長野選手、そして百瀬監督の勢いにあてられて、やや私も食べ過ぎ。高校生の「寮メシ」3食、堪能いたしました。
さて、寮を後にすると、いつの間にか外は暗い。既に20時を回っている。そして次は東海大相模高校の取材が待っている。明日は5:50に校舎入り。早く帰ってデータをまとめ、前泊地に向かわねばならない。
というわけで徒歩で梅ヶ丘駅に急ぐのだが、小林がもはや限界。おろしたてのサンダルが反乱を起こし、靴擦れのために歩けなくなってしまったとのこと。朝から3食めいっぱい食べさせられたこともあるのだろう。長年のつきあいだが、ここまで緩慢な動きをみたのは初めてだ。辛そう。曰く「古田さん、筋力的にはなんでもないんですよ。歩けるはずなんですよ。ただ、筋肉と違って皮はどうしようもないですよね」。ウーム。「皮はどうしようもない」、なんだか名言だ。「皮は!」と繰り返す申し訳なさそうな表情も実にいい。もう少し泳がせればさらに良い言葉良い絵が出てくること疑いなしだ。猛烈にその様が見たい。小林の限界を堪能したい。ただ、小林の体を考えてもこちらのメンタルヘルスのためにも、ここは車を呼ぶにしくはなし。誘惑を乗り越えてTAXI GOを起動し、しばし待ち、車に乗り込み、「明日は駅への移動、駅からの移動それぞれにタクシーを使うこと」を厳命して電車に乗せる。
実に有意義な一日だった。国士舘高校の百瀬監督、井上寮監、選手の皆さま、そして崎広社長、ありがとうございました!
次回は東海大相模高校の「寮メシ」を頂きます。
そして寮メシ自慢の学校の方々、お呼びをお待ちしています!全国どこでも参ります!条件は「3食、普段とまったく同じものを食べさせてくださること」、そして「稽古を見せてくれること」。これのみです。
そして今回も最後にひとこと。
高校生よ、メシを食え!!!!

【6/23 竹久保吉宏選手・佐藤光晟選手・長野慎大選手の食事カルテ】
竹久保吉宏選手




▶ 松本恵先生の寸評
しっかり白飯も食べられていて、量的には十分食べられていると思います。ブロッコリーやトマトは苦手なのかな?キャベツのサラダはしっかり摂れていますが緑黄色野菜(ブロッコリーやトマト)が足りないと免疫低下や脂質代謝低下、目の病気などのリスクが高まります。もし苦手ならば克服してほしい。食事を4回に分けているのも良い工夫です。ドカ食いよりも頻回摂取もお勧めです。あと、背が伸びている最中なら、カルシウムの補給源の乳製品も摂ってほしいです。
佐藤光晟選手




▶ 松本恵先生の寸評
野菜はブロッコリーをしっかりつけてくれて良いですね!キャベツは食べないのかな?キャベツやもやしやきゅうりはビタミンのほか、水分補給にもなる野菜です。脱水予防にぜひ、摂ってほしいです。キムチは発酵食品なので、辛い物が苦手でなければ、おなかの調子を整える効果もあります。
長野慎大選手




▶ 松本恵先生の寸評
さすが、量・質ともにしっかり食べられてますね!とくに、朝ごはんのボリュームがあるのが、素晴らしいです。成長期の睡眠時では筋肉の修復や骨格の成長のため、寝ている間にエネルギーと栄養素をたくさん消費しています。朝は成人よりも枯渇状態なのです。朝食でしっかりチャージすることが体を大きくするためにも、日中の活動や授業での集中のためにもとても重要です!!
▶ 総評
一日を通して、メニューを見せていただきましたが、プラス要素としては果物が考えられます。高校生男子の喫食傾向から果物は廃棄が増えてしまいがちですし、経営的にも難しい部分があるかと思います。寮食にプラスして選手それぞれが果汁ジュースや果物を補食で取り入れる工夫をしていただけたらと思います。また、諸先輩や保護者の皆様の差し入れ(編集長の差し入れはみかんでしたか?goodです!)もぜひ、期待したところです!
文責:古田英毅・小林大悟
協力:松本恵(日本大学文理学部体育学科教授、公認スポーツ栄養士)
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