階級概況

個性豊かな強豪たちが分厚い上位層を形作り、90kg級は歴史的な充実期を迎えている。今大会も豪華で魅力的なメンバーが揃った。
優勝争いの権利を持っていると目されるのは、4人の世界王者。圧倒的な強さで独走状態に入らんとしている現世界王者の村尾三四郎(JESエレベーター)を、五輪2連覇のラシャ・ベカウリ(ジョージア)、2024年の王者田嶋剛希(パーク24)、2023年の王者ルカ・マイスラゼ(ジョージア)の3人が追う。果たして村尾がこのまま絶対王者の地位を築くのか、それとも誰かがそれに待ったを掛けるのか。今大会の結果次第で2028年のロサンゼルス五輪に向けた構図が固まることになる。また、メンバーのナショナリティが示す通り、日本とジョージアの国内1番手争いも大きなテーマだ。

柔道自体の強さは村尾が頭一つも二つも抜けているが、残りの3人には純粋な競技力とは別ルートで勝利に至ることが出来る「勝負力」がある。ベカウリは村尾との対戦では過去5勝0敗と全勝しているいわば「村尾キラー」。個人戦では良いところなくトーナメントから消えた昨年大会ですら、団体戦ではワンチャンスを生かして王者になったばかりの村尾を破っている。極端な接近スタイルで村尾とは良くも悪くも柔道が噛み合わないこともこのスタッツの一因だが、大一番ではリミッターを外して常人では思いつかないようなアプローチが出来る”破れ”こそが対村尾における最大の武器。異常な集中力と加速力で一瞬だけ相手を上回り、その瞬間に勝負を決めてしまう怖さがある。一方、田嶋は純正の勝負師タイプ。ここ一番の勝負度胸と爆発力があり、何よりも勝負に対する思考の投下量が膨大。今年の全日本選手権の決勝では、異なるルール下ではあるものの、村尾から横掛で「技あり」を奪って勝利している。また、マイスラゼも村尾と比較すれば勝負力型。前述の2人と比べるとやや「常識人」の感があるが、力関係を無視して勝負を決めることの出来る足技師であり、集中力を切らさず勝機を待つことが出来る職人タイプだ。
もはやここまでの内容でお腹いっぱいの感があるが、続くメダル圏内グループも2017年世界王者でベカウリと同系統の勝負力型のネマニャ・マイドフ(セルビア)に昨年大会銅メダルのエルジャン・ハジエフ(アゼルバイジャン)、もっか勢いナンバーワンの20歳・ボリス・ルトヴィッチ(セルビア)ら魅力的な顔ぶれ。さらに続く“ベスト8圏内グループ”も肩車師のヤホル・ヴァラパエウ(ベラルーシ)やド根性が売りのアダム・コペツキー(チェコ)など実力と個性を兼ね備えた強豪が揃った。この2つのグループだけで総勢18人。最近の調子や最高到達点の高さから分けてはいるが、グループ間に大きな差はない。この分厚い上位層による熾烈なメダル争いや、優勝圏内グループへの挑戦も大きな見どころだ。
一方、“ベスト16グループ”と“その他強豪グループ”は上記の2グループとは明らかに差がある。まずは序盤戦で強豪相手にアップセットを起こして風穴を開け、それをきっかけに上位進出を目指したい。
シード予想

【プールA】
第1シード:村尾三四郎(JESエレベーター)
第8シード:ネマニャ・マイドフ(セルビア)
【プールB】
第4シード:ラファエル・マセド(ブラジル)
第5シード:ギレルミ・シミット(ブラジル)
【プールC】
第2シード:ルカ・マイスラゼ(ジョージア)
第7シード:田嶋剛希(パーク24)
【プールD】
第3シード:ムラド・ファティエフ(アゼルバイジャン)
第6シード:キム・ジョンホン(韓国)
【シード外有力選手】
ラシャ・ベカウリ(ジョージア)、エルジャン・ハジエフ(アゼルバイジャン)、ミハイル・ラティセフ(モルドバ)、ボリス・ルトヴィッチ(セルビア)
“優勝圏内グループ”からはベカウリがシードから漏れた。場合によっては村尾と初戦で対戦が組まれるかもしれず、またベカウリのキャラクターからすればむしろこの配置を引いてしまいそうなことが恐ろしい。いずれ、様相が決まるのは開幕日前のドロー後。なんといってもベカウリの配置に注目したい。また、ハジエフと今季急成長を遂げたルトヴィッチの2人も爆発力があり、この両者の配置も気にかけておきたい。
一方、シード選手だけに目を向けた場合、山場は田嶋とマイスラゼが同居したプールCの準々決勝。対戦成績は1勝1敗の五分となっている。現在の力関係であれば田嶋に分があると思われるが、攻撃型の田嶋の柔道は我慢しながら勝機を探る型のマイスラゼとは決して相性が良いものではない。どこでアクセルを踏み込むかの見極めが重要になるはずだ。アドバンテージの大きな寝技も積極的に用い、自分のペースで戦いたい。
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