【eJudo’s EYE】誰が出るかは言ってくれ、意味のない作戦でファンを振り回さないでくれ/グランドスラム・ドゥシャンベ2024「評」

eJudo’s EYE(コラム)/記事
  1. ホーム
  2. eJudo’s EYE(コラム)
  3. 【eJudo’s EYE】誰が出るかは言ってくれ、意味のない作戦でファンを振り回さないでくれ/グランドスラム・ドゥシャンベ2024「評」

文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

グランドスラム・ドゥシャンベの採点表を書くに先んじて、ひとつ言いたい。今回もっとも語るべき北條嘉人の面白さについては別立てで1本書くので、別のトピックについて。しばしお付き合い願いたい。

今回出場した日本人選手は3名。いずれも「所属派遣」で、常のような全日本柔道連盟による派遣ではない。連盟が選手団を派遣しない国際大会については、年1回、強化選手個々に自費での参加が認められる。今回はその枠での参加だった。この権利、これまでも度々行使されている。ここ1年で言えば、寺田宇多菜(JR東日本)や古賀玄暉(旭化成)、田嶋剛希(パーク24)、増山香補(パーク24)らがこの枠を利用してワールドツアーの畳を踏んだ。

ところが。この場合全日本柔道連盟からの発信が一切ない。メディアへのリリースは行われないし、ウェブサイトにも載らない。試合の結果どころか、誰が参加するといった基礎情報すら発信されない。少なくとも対外的には「なかったことになっている」と言っていい。当然ながらこの大会の報道は常にも増して極めて薄い。

これは今に始まった話ではない。たとえば学生体重別王者をワールドツアー大会に送り込む「学柔連派遣」なども全柔連からの発信は皆無だった。理由は「強化の管轄ではないから」。職掌外ということだ。

残念過ぎる縦割り主義、恐るべき怠慢である。つまりは「事業」を基準にした内部の線引きが理由だ。ファンにとっては「どうでもいい」の究極だ。縦割りによる機能不全はこの連盟の宿痾であるが、ここまでわかりやすく一般ファンにまでその一端を見せつけて、まことに恥ずかしいと言わざるを得ない。

強化セクションの事業ではないから載せない。これは完全な内側の論理だ。大きく譲って、仮に「強化」の観点からはそれがアリだとしよう。では柔道を知ってもらう・見てもらうという「広報」「普及」の観点からはどうなのだ。ファンが知りたいのは、日本選手は出るのか、それは誰なのかということだ。所属派遣かどうかはあまり関係ない。実は代表選考に絡む大会なのかどうかも二の次だ。いわんや「強化の事業であるかどうか」においてをや。知りたいのは「誰が出るか」という一元的な情報だ。

選手たちは勝手に出ているわけではない。ルールに則って申請し、強化(連盟)の承認を受けた上で出場している。それを「なかったこと」というこの扱いはありえない。強化は己の管轄ではないから言わない、広報は言われないからやらない。結果一方的に不利益を被るのは、間違いなくファンだ。

おそらく悪意はない。セクショナリズムと前例主義、そして「内側の論理」が生んだ消極的サボタージュだ。

「セクショナリズムと意味のない前例主義により、一方的にファンが不利益を被る」。この構図、実は「日本代表選手の発表」にも表れている。現在、ワールドツアー日本代表選手の出場者情報の取り扱いは、国内においては厳しく制限されている。情報解禁(発表)は大会開幕の1週間前だ。強国・日本の出場が事前に露見した場合に、海外選手が出場を取りやめるなどの事前の「調整」が起こる可能性がある。それを避けるために「リオー東京期」の終盤に整備されたシステムだ。今はかつてよりも日本のプレゼンスが下がってこの作戦自体の有効性がそもそも落ちてはいるのだが、それはいい。考え方自体は理解出来る。

問題はこの作戦が現在まったくもって機能していないことだ。日本における報道解禁の遥か前に国際柔道連盟(IJF)のウェブサイトにはエントリーリストが掲載され、誰でも自由に見ることが出来るのだ。もちろんそこには日本人選手の名前もある。海外どころか日本のコアなファンも報道解禁など待たずにリストを見て、誰が出場するかを把握して談義を繰り広げている。隠す意味がまったくないのだ。もっかはファンが盛り上がる時間、報道する時間を徒に短くしているだけだ。

作戦だというのならきちんとやればいい。徹底的にやればいい。ギリギリまで隠して、その期間は決して報じてくれるなと言ってくれればいい。メディアもちろん協力する。ところが今はこの体たらくだ。形骸化も甚だしい。既に誰もが知っているのに国内向けの報道だけを規制して(しかも規制の対象は海外ではなく国内なのだ)、周知広報の期間を意味なく削る。こういう間の抜けた行動はもうやめにすべきだ。せめて、IJFのサイトに公開されるタイミングと日本の報道解禁は揃えて欲しい。意味のまったくない作戦のために周知広報という己の仕事の大義を削られる「広報」はこれを強化に言えないのか、そういったコミュケーションも取れていないのか。そんなことのためにファンは情報を得ることが出来ないのか。「意味がなくても決まったことだから続ける」「決まったことをやめる労力を掛けたくない」「そのためにもっとも大事な広報・普及を損なう」。もう「しっかりしてくれ」としか言葉が出ない。

そして「所属派遣は周知しない」「たとえ情報が公のものになっていても自らは発表せず報道も許さない」、この2つが掛け算され、今回非常に面倒なことが起こってしまった。今週末のグランドスラム・カザフスタン、IJFのエントリーリストには81kg級に藤原崇太郎(旭化成)の名前がある。ファンはだいぶ前からこの件について盛り上がっていたが、先週3日に「解禁」された全日本柔道連盟の派遣選手リストには彼の名前がない。ファンは大混乱である。理由は2つ。同一大会で「日本代表」(連盟派遣)と所属派遣選手が混ざることは初めてで、まずこれがありうることなのか、本当に藤原は出るのかということ。そしてここが肝心なのだが、もし出るのであれば連盟は同じ大会に出る日本選手を「いないもの」として扱ったわけで、ここまで来ると事態は「冷遇」とか「無視」になってしまうということ。なぜわざわざこんな持って回ったことをするのか。単に日本人出場者リストを出して、所属派遣選手にはその旨注釈を入れておけばいいだけの話ではないか。

もう何度も言っているが、大会はやるだけではダメ、試合は出すだけではダメ。知ってもらい、見てもらい、楽しんでもらって初めて意味がある。広報・普及という観点から、国際大会出場選手の情報の取り扱いは、根本的に考え直してもらいたい。

スポンサーリンク