日時:2024(R6)年12月7日
会場:東京体育館
取材・文:小林大悟・eJudo編集部
写真:乾晋也・小美紀太郎・辺見真也
【準決勝まで】
ファイナリストは渕田萌生(自衛隊体育学校)と足達実佳(大阪府警察)。講道館杯でも決勝を争った両者が、再び優勝をかけて相まみえることとなった。
渕田はノーシード配置からのスタート。初戦(2回戦)はピフラ・サロネン(フィンランド)を巴投「技あり」から縦四方固で抑え込み、3分5秒、相手の「参った」による「一本」で試合終了。続く準々決勝では、世界カデ選手権王者のテルビシュ・アリウンザヤ(モンゴル)に1分までに「指導」2つを奪われる苦戦を強いられるが、そこから粘り強く攻め続け、GS延長戦6分3秒、反対に「指導」3つを得て勝利。準決勝の相手は、前戦で第1シードのジェシカ・リマ(ブラジル)との同国対決を裏固「一本」で制して勝ち上がってきた、19歳のビアンカ・ヘイス(ブラジル)。勢いに乗る厄介な相手だったが、渕田は開始早々に左「やぐら投げ」から崩上四方固で抑え込み、僅か36秒の合技「一本」で勝利。快勝で弾みをつけ、決勝進出を果たした。
足達もノーシード配置からの戦い。1回戦でパク・ウンソン(韓国)をGS延長戦31秒、左方向への支釣込足「技あり」で下すと、2回戦では強豪のクセニーア・ガリツカイア(IJF)を畳に迎える。序盤の山場となったこの試合、足達は相手の長さに手を焼くが、GS延長戦59秒、豪快な左外巻込で「技あり」を得て勝利。続く準々決勝ではマルタ・ファワズ(フランス)をGS延長戦1分4秒、相手の支釣込足を押し込んでの隅落「技あり」で退け、ベスト4へと勝ち上がる。
準決勝の相手は、優勝候補の玉置桃(三井住友海上)。この試合は本戦で互いに「指導2」を取り合いGS延長戦へともつれ込むが、勝負は意外にもあっさりと決着。延長戦開始直後のGS延長戦7秒、玉置の抱き着きの右大内刈の掛け終わりに足達が低く鋭い左体落を仕掛けると、玉置は一瞬で崩落。勢いよく畳に落ちたこの技に「技あり」が宣され、足達の決勝進出が決まった。
3位決定戦
3位には、アリウンザヤとファワズが入賞した。
アリウンザヤは、準々決勝で渕田に敗れた後、敗者復活戦ではリマに相手の「立ち姿勢から危険な形で関節を極めたことによる」ダイレクト反則負けで勝利。3位決定戦では玉置をGS延長戦3分49秒の左大内刈「技あり」で破って、銅メダルを獲得した。アリウンザヤは前述のとおり、2024年の世界カデ選手権王者。まだカデながら世界選手権メダリストの玉置に勝利するなど、高いポテンシャルを存分に見せつけた1日となった。
ファワズは敗者復活戦でアナ=ヴィクトリヤ・プリーツ(クロアチア)にGS延長戦41秒の右内股「技あり」で勝利。3位決定戦ではヘイスを右大外刈「技あり」の優勢で下し、自身初のグランドスラムのメダルを獲得した。
優勝候補と目された玉置の最終成績は5位。初戦(2回戦)でミカエラ・テラノーヴァ(イタリア)に1分45秒の横四方固「一本」、準々決勝でプリーツに2分55秒、引込返と横四方固の合技「一本」とベスト4進出までは順調だったが、以降は若手を相手に2連敗を喫し、表彰台を逃した。
大野萌亜(福岡大3年)は悔しい2回戦敗退。1回戦ではヤン・ユーチエ(台湾)を2分51秒の右小外刈「一本」で下したが、2回戦ではヘイスの早い技出しの前に自らの柔道ができず、GS延長戦3分41秒、一方的に「指導」3枚を積まれて敗れた。
【決勝】
足達実佳(大阪府警察)○GS技あり・小内刈(GS4:25)△渕田萌生(自衛隊体育学校)
渕田が右、足達が左組みのケンカ四つ。展開をリードするのは渕田。背中を叩いての右内股に両袖の内股、巴投、右内股と一方的に技を積む。いずれも足達は崩れずに受け切ってむしろ分がある印象だったが、1分16秒、渕田の手数が評価される形で足達に消極的試合姿勢の「指導」。
スコアをリードされた足達は、ギアを一段上げ、少々強引な攻めを開始。しかし左足車の伏せ際に「捲り」を狙われ、抱き着いたところに右内股を合わせられ、左大外刈にカウンターの裏投を狙われ、さらにこの技から逃れたところに「国士舘返し」からの腕挫十字固を狙われてと、己のアクションを悉く相手の攻めに変換されてしまう。ギアを上げたことが逆に相手にペースを渡すきっかけになってしまった格好。足達、2分42秒には裏投を狙った渕田を左外巻込で放りかけるが、これはノーポイントに終わる。
一方の渕田は、時間の経過とともに攻撃のリズムを掴み、3分15秒にはこれまで体の力で技を弾き続けていた足達を、場外際の右内股で大きく浮き上がらせる。さらに直後の3分30秒には低い左一本背負投を。この技自体はほとんど相手を崩すことが出来なかったったが、直後主審は試合を止め、足達に消極的試合姿勢の「指導2」を追加する。
勝利に王手を掛けた形の渕田は、続く展開でも攻めの手を緩めず、巴投で引き込んで腕挫十字固を狙う。この攻防が「待て」となった時点で残り時間は僅か1秒。反則累積差は「2-0」、渕田の一方的なリードのまま本戦の4分間が終わる。
延長戦開始直後の攻防、足達が引き手前襟から奥を叩いて煽ると、渕田は崩れて前のめりに伏せてしまう。主審はこれを見逃さず、GS延長戦12秒、渕田に偽装攻撃の「指導」を与える。渕田としては流れを切られた格好。続く展開は足達が強引な左払巻込で伏せたところを「国士舘返し」から転がして見せ場を作るが、以降は本戦ほどのアドバンテージは作れず。一方、足達の側は地力の差をベースに徐々に盛り返し始め、GS延長戦57秒には、抱き着きの左小外掛で大きく崩す場面を作る。
GS延長戦1分以降は、足達が強引な腰技を狙い、それに渕田が裏投を狙って抱き着く形が頻発。いずれも力比べから足達が伏せて展開が切れる格好となり、状況は停滞となる。GS延長戦2分6秒には足達が遠間から思い切った左小外掛に飛び込むが、これは渕田が懐ですかして不発。一方の渕田もGS延長戦3分25秒に脇の差し合いから場外際で渕田が隅返を仕掛けるが、これも間合いが遠く決め切れない。
終わりの見えない状況で迎えたGS延長戦4分11秒、足達の左大外刈に渕田がまたもや裏投を狙って抱き着くと、これまでは投げ切ることを狙いながら伏せていた足達が、振り向きながらカウンターの左小内刈に打って出る。支点の左足を刈られた渕田は勢い良く崩れ落ち、足達を放りながら、折り重なるように畳に落下。手応えを感じた足達は「ヤー」と気合の声を上げるが、スコアの宣告はなし。しかし直後のGS延長戦4分21秒、足達が先に技を出し続けていたことを評価する形で、渕田に消極的試合姿勢の「指導2」が宣せられる。これでスコアはタイ。これで試合はさらなる膠着を見せるかと思われたが、「始め」の声が掛かった直後のGS延長戦4分25秒、主審が試合を止める。映像チェックの結果、このタイミングで足達の左小内刈に「技あり」が与えられることとなり、熱戦決着となった。
【評】
海外勢から一線級の出場こそなかったものの、足達と渕田の2人が決勝に進出。改めて国内57kg級の層の厚さを見せた大会となった。決勝は少々単調な試合展開となってしまったが、勝ち上がりでは足達が体の力の強さ、渕田がしぶとさと、双方良く持ち味を発揮していた。ただし、どちらも今回は階級上位のパワーファイターとの対戦はなし。ともに柔道のベースは地力であり、今後海外の力自慢と戦った際に、その真価が問われることになるはずだ。次戦に注目したい。
玉置は、2敗して5位。足達戦の敗戦は持ち味の意外性が悪い方向で発揮されてしまった結果と見ることもできるが、カデ選手のアリウンザヤに敗れた2敗目は評価を大きく減じざるを得ない。結果的にまたもや続けて成績を残すことができず、課題である「安定感」のクリアはならず。実力自体は疑いなく世界でもトップクラス。勝負どころでの加速はそのままに、リスク管理のレベルをもう一段上げたい。
大野は、良さと課題、その両方がはっきりと出た大会となった。本格派にとって、手数タイプを相手に展開をリセットするための崩し技の整備は必須要素。柔道のスケールの大きさはそのままに、試合構築力を磨きたい。
成績上位者と談話、準々決勝以降の結果は下記。全試合結果は別掲。
【成績上位者】
(エントリー23名)
1) ADACHI, Mika (JPN)
2) FUCHIDA, Megumi (JPN)
3) TERBISH, Ariunzaya (MGL)
3) FAWAZ, Martha (FRA)
5) TAMAOKI, Momo (JPN)
5) REIS, Bianca (BRA)
7) LIMA, Jessica (BRA)
7) PULJIZ, Ana Viktorija (CRO)
優 勝:足達実佳(日本)
準優勝:渕田萌生(日本)
第三位:テルビシュ・アリウンザヤ(モンゴル)、マルタ・ファワズ(フランス)
第五位:玉置桃(日本)、ビアンカ・ヘイス(ブラジル)
第七位:ジェシカ・リマ(ブラジル)、アナ=ヴィクトリヤ・プリーツ(クロアチア)
【談話】
足達実佳(優勝)
「講道館杯で敗れた渕田選手と決勝。絶対にリベンジするんだと強い気持ちで戦いました。自分はこれまで前に出過ぎて失敗することが多かったので、今日の課題は落ち着くことと「我慢」。前回投げられた裏投に来ると頭に入れていたので、最後はうまく対応出来た。最後に足を掛けて捻ったつもり、その1ミリが生きたと思います。いままでずっと2位ばかり、勝った瞬間は支えてくれた人たちに恩返しが出来たと、少し感極まってしまいました。初めての国際大会で優勝出来、2028年のオリンピックに向けていいスタートが切れたと思います。まだ日本代表や世界のトップ選手と戦う機会がないので、アピールはこれから。次は海外の大会で優勝、そして全日本選抜体重別で優勝して、『自分が一番強い』とアピールしたいと思います。どんな相手にも勝ちたい。」
【足達実佳・この日の5試合】
【1回戦】足達実佳○GS技あり・支釣込足(GS0:31)△パク・ウンソン(韓国)
【2回戦】足達実佳○GS技あり・外巻込(GS0:59)△クセニーア・ガリツカイア(IJF)
【準々決勝】足達実佳○GS技あり・隅落(GS1:04)△マルタ・ファワズ(フランス)
【準決勝】足達実佳○GS技あり・体落(GS0:07)△玉置桃
【決勝】足達実佳○GS技あり・小内刈(GS4:25)△渕田萌生
【試合結果】
【準々決勝】
ビアンカ・ヘイス(ブラジル)○後袈裟固(4:00)△ジェシカ・リマ(ブラジル)
渕田萌生○GS反則[指導3](GS6:03)△テルビシュ・アリウンザヤ(モンゴル)
玉置桃○合技[引込返・横四方固](2:55)△アナ=ヴィクトリヤ・プリーツ(クロアチア)
足達実佳○GS技あり・小外刈(GS1:04)△マルタ・ファワズ(フランス)
【敗者復活戦】
テルビシュ・アリウンザヤ(モンゴル)○反則[DH](3:31)△ジェシカ・リマ(ブラジル)
※立ち姿勢から危険な形で関節を極めたことによる
マルタ・ファワズ(フランス)○GS技あり・内股(GS0:41)△アナ=ヴィクトリヤ・プリーツ(クロアチア)
【準決勝】
渕田萌生○合技[内股・崩上四方固](0:36)△ビアンカ・ヘイス(ブラジル)
足達実佳○GS技あり・体落(GS0:07)△玉置桃
【3位決定戦】
テルビシュ・アリウンザヤ(モンゴル)○GS技あり・大内刈(GS3:49)△玉置桃
マルタ・ファワズ(フランス)○優勢[技あり・大外刈]△ビアンカ・ヘイス(ブラジル)
【決勝】
足達実佳○GS技あり・小内刈(GS4:25)△渕田萌生
【日本代表選手勝ち上がり】
足達実佳(大阪府警察) 成績:優勝
【1回戦】足達実佳○GS技あり・支釣込足(GS0:31)△パク・ウンソン(韓国)
【2回戦】足達実佳○GS技あり・外巻込(GS0:59)△クセニーア・ガリツカイア(IJF)
【準々決勝】足達実佳○GS技あり・隅落(GS1:04)△マルタ・ファワズ(フランス)
【準決勝】足達実佳○GS技あり・体落(GS0:07)△玉置桃
【決勝】足達実佳○GS技あり・小内刈(GS4:25)△渕田萌生
渕田萌生(自衛隊体育学校) 成績:2位
【2回戦】渕田萌生○縦四方固(3:05)△ピフラ・サロネン(フィンランド)
【準々決勝】渕田萌生○GS反則[指導3](GS6:03)△テルビシュ・アリウンザヤ(モンゴル)
【準決勝】渕田萌生○合技[内股・崩上四方固](0:36)△ビアンカ・ヘイス(ブラジル)
【決勝】渕田萌生△GS技あり・小内刈(GS4:25)○足達実佳
玉置桃(三井住友海上) 成績:5位
【2回戦】玉置桃○横四方固(1:45)△ミカエラ・テラノーヴァ(イタリア)
【準々決勝】玉置桃○合技[引込返・横四方固](2:55)△アナ=ヴィクトリヤ・プリーツ(クロアチア)
【準決勝】玉置桃△GS技あり・体落(GS0:07)○足達実佳
【3位決定戦】玉置桃△GS技あり・大内刈(GS3:49)○テルビシュ・アリウンザヤ(モンゴル)
大野萌亜(福岡大3年) 成績:2回戦敗退
【1回戦】大野萌亜○小外刈(2:51)△ヤン・ユーチエ(台湾)
【2回戦】大野萌亜△GS反則[指導3](GS3:41)○ビアンカ・ヘイス(ブラジル)
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