取材・文:古田英毅
写真:乾晋也
「きこえない・きこえにくい人のためのオリンピック」(公式サイト)、デフリンピック競技大会。東京武道館で行われている柔道競技の日程2日目(17日)は、男女それぞれ4階級が実施され、日本代表は出場した4人全員が銅メダルを獲得した。

男子81kg級は1年前からチームに合流、このデフリンピックが初めての国際大会となる28歳・深澤優斗(SUBARU)が見事メダル獲得。73kg級から階級を上げてまだ間もなく、体格ではことごとく劣勢も、得意の左内股の切れを軸に奮闘した。
初戦はケンカ四つのジュン・ジョンウク(韓国)を積極的な引き手の把持で圧し、「指導」2つをリード。窮した相手の裏投を左内股に捉え返して「技あり」を得、このポイントで優勢勝ちを果たした。準々決勝はフモユン=ホリクル=ウグリ・オリモフ(ウズベキスタン)を内股で跳ね上げ続けて「指導3」で勝利。準決勝は優勝したイェルケブラン・カナフィン(カザフスタン)を相手に片襟の背負投に勝ち筋を見出して勝利目前も、GS延長戦3分39秒「指導2」対「指導3」で惜敗。

しかし迎えた3位決定戦は快勝。ケンカ四つのユスフ・ジェリック(トルコ)を左内股、片襟の左背負投、左小外刈と攻め立て、まず「指導」2つをリード。ここで両襟で圧すると、担ぎ技を狙ってぶらさがった相手を左内股で引きずり回して、GS延長戦29秒「有効」獲得。これで勝利を決めた。

深澤はメダル獲得を決めると、関東学園大時代の恩師でもある竹澤稔裕コーチの祝福を受けて満面の笑み。「ホッとしている。体格的に力勝負では厳しいとわかっていたので組み手と技でなんとかしようと思っていた」と喜びを語り、「こんなにたくさんの人が応援してくれるとは思わなかった。応援が力になりました」と初めてのデフリンピック出場に顔を上気させていた。

男子90kg級代表、20歳の水掫瑞紀(東海大)は、2023年アジア選手権で銀メダル、2024年世界選手権で銀メダル。この際いずれも敗れた王者アイドス・ツゲルバエフ(カザフスタン)が初戦の相手だったが、粘り強く組み合いに応じて間合いを整えると、相手の奥襟叩きを得意の右払腰に変換して2分19秒鮮やかな「一本」。

準決勝は優勝したキム・ミンソク(韓国)とマッチアップ、釣り手一本から膕を狙う膝車で転がされて序盤意外な「有効」失陥。引き手を持たせずいなし続ける相手を両襟で詰め続けて「指導2」まで追い掛けたが、焦った大内刈を裏投に捉えられて、3分42秒痛恨の一本負け。しかし3位決定戦は会心の試合。僅か31秒、ムハメド=デリル・ペクセルト(トルコ)を釣り手側に呼び込みながらの右内股に捉え、豪快「一本」でメダルを決めた。

「準決勝で負けたのは物凄く悔しいが、メダルも取れたし、これまで負けていた相手にも勝てた」と戦後の表情は晴れがましかった。瀨川洋監督は「素晴らしいバネに、後ろ回り捌きからの一発。彼のいいところが出た試合」と絶賛。本人は「次は金メダルを取りたい」と4年後への意気込みを語っていた。

100kg級代表、28歳の高橋朋希(ジール)は得意の担ぎ技で会場を沸かせた。身長165センチと小柄だが、重心の低さを武器に変えて印象的な投げを連発。初戦(準々決勝)はバレク=アブドゥルサタル・イブラヒム(イラク)を組みつきながらの右袖釣込腰に捉えて47秒強烈な「一本」。
△アンドリー・ポホレロフ(ウクライナ)](https://ejudo.info/wp-content/uploads/2025/11/2025_1116_DEFLYMPICS_NEWS_M100_002-960x720.jpg)
準決勝こそパワー派トクタルベク・アイダルベク(カザフスタン)の「釣り手で片襟、引き手で後帯」の変則組み手からの引込返に1回転、抑え込まれて合技「一本」で屈したが、3位決定戦は存分に力を発揮。アンドリー・ポホレロフ(ウクライナ)からまず右一本背負投で「技あり」を奪うと、1分29秒にも引き手を得るなり自信満々再度の右一本背負投。2つ目の「技あり」を得てメダルを決めた。

「勝った瞬間は頭がまっ白。10秒くらいして、メダルを取ったんだ、とようやく思えた」と喜びの瞬間を振り返ると、報道陣から背負投を称賛され「相手は大きい選手ばかりだけど、柔道は小柄な選手でもやれるんだということも見せられたと思う」とはにかんだ。
![衣川暁〇優勢[有効・横四方固]△ジュリー・スヴェコワ(チェコ)](https://ejudo.info/wp-content/uploads/2025/11/2025_1116_DEFLYMPICS_NEWS_W70_001-1080x720.jpg)
女子ではこの日唯一の出場となった29歳、70kg級の衣川暁(一般社団法人日本ろう福音協会)は大奮闘のメダル獲得。展望決して明るくない階級と目されていたが、初戦(準々決勝)でチェ・スンヒ(韓国)との大消耗戦に決して引かず、GS延長戦4分8秒「指導3」対「指導2」で勝利してメダル挑戦権を確保。準決勝は優勝したアミナ・ファイズリナ(カザフスタン)の浮技一発に沈んだが、迎えた3位決定戦はジュリー・スヴェコワ(チェコ)の大外巻込を耐えると、寝技を嫌って立ち上がる相手にあくまで食いつき、横四方固で6秒抑えて「有効」を確保。その後も必死に前に出続けてこのリードをキープ、4分間を戦い終えた。

試合後は「いままでで一番嬉しい」と感涙。高校入学後は環境がなく一時柔道を中断も、「やりたいことを考えると、柔道」と模索。就職のため東京に出たところで「ろう柔道」の存在と、同じ環境の競技者たちが「こんなにたくさんいる」ことを知った。「趣味で続けるつもりだったが、デフリンピックがあることでここまで頑張れた。東京開催を機に柔道の面白さを知って欲しいし、柔道をやりたい子が増えて欲しい」と思いを語り、感慨深げだった。瀨川監督は「くじけない心で取ったメダル。積み上げたものを全て出した。きょう一番うれしいメダルです」と、称賛を惜しまなかった。
瀨川監督はこの日を「出場者4人が力を出し切ってくれた。ここまでやってきたことがしっかり出せた、嬉しい1日」と総括。最終日のあすに控える団体戦については「もちろん男女ともに金メダルを狙います。『みんなで笑って終ろう』が合言葉、“デフ柔道”という1つのチームで戦って来た全員で力を合わせて、いい結果に繋げます」と力強く語っていた。
日本代表選手の全試合結果は下記。全階級の結果、決勝ラウンド結果詳細は別掲。
男子81kg級
深澤優斗(SUBARU)
成績:3位
【1回戦】
深澤優斗〇優勢[技あり・内股]△ジュン・ジョンウク(韓国)
【準々決勝】
深澤優斗〇反則[指導3](2:23)△フモユン=ホリクル=ウグリ・オリモフ(ウズベキスタン)
【準決勝】
深澤優斗△GS反則[指導3](GS3:39)〇イェルケブラン・カナフィン(カザフスタン)
【3位決定戦】
深澤優斗〇GS有効・内股(GS0:29)△ユスフ・ジェリック(トルコ)
男子90kg級
水掫瑞紀(東海大)
成績:3位
【準々決勝】
水掫瑞紀〇払腰(2:19)△アイドス・ツゲルバエフ(カザフスタン)
【準決勝】
水掫瑞紀△裏投(3:42)〇キム・ミンソク(韓国)
【3位決定戦】
水掫瑞紀〇内股(0:31)△ムハメド=デリル・ペクセルト(トルコ)
男子100kg級
高橋朋希(ジール)
成績:3位
【準々決勝】
高橋朋希〇袖釣込腰(0:47)△バレク=アブドゥルサタル・イブラヒム(イラク)
【準決勝】
高橋朋希△合技[引込返・横四方固](1:47)〇トクタルベク・アイダルベク(カザフスタン)
【3位決定戦】
高橋朋希〇合技[一本背負投・一本背負投](1:29)△アンドリー・ポホレロフ(ウクライナ)
女子70kg級
衣川暁(一般社団法人日本ろう福音協会)
成績:3位
【準々決勝】
衣川暁〇GS反則[指導3](GS4:08)△チェ・スンヒ(韓国)
【準決勝】
衣川暁△浮技(0:34)〇アミナ・ファイズリナ(カザフスタン)
【3位決定戦】
衣川暁〇優勢[有効・横四方固]△ジュリー・スヴェコワ(チェコ)
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