【インタビュー・評】穴井隆将実行委員長「『強化と普及』を目指した大会、やる側も見る側も楽しんで欲しい」/IKAI Christmas CUP 第1回全日本学生柔道男女混合団体大会

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IKAI Christmas CUP 第1回全日本学生柔道男女混合団体大会

試合自体の面白さはもちろん、豪華な演出や行き届いたLIVE配信、「サイコロ振り」などの遊び心で非常な話題を呼んだ新設大会「IKAI Christmas CUP 第1回全日本学生柔道男女混合団体大会」(12月20日~21日、沼津市香陵アリーナ)。大会実行委員長を務めた穴井隆将氏に大会創設のねらいや掛けた思い、演出の意図などについて話をお聞きした。

【インタビュー】穴井隆将実行委員長「強化と普及を目指した大会、やる側も見る側も楽しんで欲しい」

穴井隆将・大会実行委員長

――大会を立ち上げたきっかけは?

簡単な言葉で言うと「強化と普及」この2つですよね。まず「強化」。東京オリンピックとパリオリンピック、日本は2大会連続で銀メダル。金には届きませんでした。学生時代から男女分かれた試合しかやったことのない選手が、経験値を持たぬまま、アジア大会、世界選手権、オリンピックといった国民に絶対に勝ってくれと期待されるような大きな大会で「やったことのない戦い」をやっているわけで、それをなんとか変えていきたい。強化の方針がいいとか悪いとか言っているわけではなく、こういう機会を作れるのであれば、それを強化にも繋がるよね、ということですね。

――もう1つが「普及」。

むしろこちらを強く意識しています。柔道人口減少が叫ばれて久しいですが、特に女子柔道は極めて危機的な状況にあります。高校カテゴリの各都道府県の予選の参加者数を見ても、これはもう明らかです。代表を出せない県も出て来ている。一極集中の問題も大きい。なぜそうなるかと考えたときに、競技が面白い面白くないということ以上に、ひとつ「行き先がない」「選択肢がない」ということがあると思います。男子の人口がある程度維持されながら、女子は減少傾向にあるというのが大学カテゴリの皮膚感覚。これは歯止めを掛けなければいけない。

栄えある初代王座には、筑波大が輝いた

――業界全体で女子が大事にされていない傾向はあると思います。その中で、大学カテゴリで女子に男子と同じだけの役割を担わせる、価値を上げる、居場所を作るという意図があると。

そうです。今回は明治大学さんが、まさに究極の例を見せてくれました。「女子が1人でもいられれば出られる大会」があるということは、結果的に女子選手の進路拡大に繋がると思うんです。よし、もっと女子のスカウト頑張ろうと思ってくれる学校が増えるのが理想ですね。そしてもう1つ言うなら、女性は母親になったときに、子どもへの影響力が大きい。自分の子どもに何をさせたいかと考えたときに、自分が柔道をやり続けられた人ならやっぱり「柔道をやらせたい」という思いになってくると思う。女子柔道選手のキャリアを絶やさないことが物凄く大事。この普及に掛ける思いが、強化よりも強いですね。

男子の名門・明治大は今年久々に女子部員1名を受け入れ。今大会に出場叶った。

――ジョージアが「男女混合団体」を通じて達したような、ポジティブな効果が期待出来るのでは、と初日の試合を見て素直に感じられました。

仰る通り。いつもeJudoさんもお話ししてくださっていますけど、かつて女子選手が乏しく、男女混合団体創設時には試合に出られないくらいだったジョージアが本腰を入れて女子の強化に乗り出し、今年は世界選手権で団体優勝、ヨーロッパ選手権では男子のミスを女子が救って優勝、そしてとうとうエテリ・リパルテリアニというジョージア初の女子世界王者まで生み出した。これは明らかに、制度の創設をトリガーに、女子柔道の普及発展が為されたということだと思います。1つ大きな例が出ているわけです。日本も遅れを取らないという姿勢でいこう、と。新しい大会を作るというのは本当に大変なことで、踏み込むには勇気もエネルギーも要りますが、幸い協力してくださる方、支援してくださる方に恵まれて、今回開催することが出来ました。

――「男女混合団体」が世界の柔道界にもたらしたポジティブな効果、すべて国内にも期待出来ると思います。

そう思います。今回は学生柔道界からの発信ですが、高校や中学、あるいは例えば国民スポーツ大会などのカテゴリでも、「こういうものがある」と気づいてもらえるきっかけになればいいなと。これはもう、明確な意図として狙っています。

MVPは女子。筑波大・トーレスカミラが攫った。

――全日本学生体重別団体が出来てから、大学側が軽量級をスカウトしやすくなったという例がありますね。同じ効果を狙ってもいる?

仰る通りです。この大会を通じて、これまで男子だけ強化していた大学が女子に力を入れたり、逆に女子だけ強化している大学が男子の強化に乗り出したり、少しでもそういうことが起こる可能性を高めたい。そして、今回は高校生を受けいれる立場の私たちがまず姿勢を変えましょうという主体変容で動いたわけですが、将来これが今度は大学生を受け入れてくれる側の動きなど、次のステージに繋がればいいなと思います。

――社会人リーグがあって、混合団体があれば選手の雇用の幅が広がる、など夢想してしまいますよね。実はトップ選手の団体戦に向いたレギュレーションだとも思いますし。・・・そして「男女混合団体」は、オリンピック等でも非常に日本人一般に受けている、反響が大きいという印象です。あの注目の大きさは業界人の予想を超えていたと思っています。この制度自体の面白さについてはいかがですか?

男子の強豪・天理大。女子も力以上の力を出した大会となった。

本来は、必ず決着のつく個人戦と、4分間という制約の中で戦って引き分けのある団体戦とは別物ですよね。ただ、男女混合団体は個人戦の要素が強いながらも、チームワークが働いて力の差がある相手でも一発逆転が起きるんじゃないかという期待感とか、2つをまとめた面白さがありますよね。「まとめる」というところでは男女もそう。天理大学でいうと、男子の方が女子よりも圧倒的にレベルが高いわけですが、女子には「男子の鎧を着ろ。それが自分たちのエネルギーになるよ」と。今日も女子が非常に頑張りました。負けた試合も内容が違う。男子と女子のエネルギーを1つにまとめたような、不思議な力が出る面白さがあります。そして何より、日本にはないものがここにある、ということを皆さんにわかっていただきたいですね。正直、「男女混合団体」という制度が作られたときは、私はむしろ一番の反対派だったんですよ。なんで6人でやるの?なんで引き分けがないの?団体戦の面白さをわかってないやん、と。その考えが、「これもいい」と変わったくらいの価値と面白さがある。やりたくなりますよね、ここまで見せられると。

大会開会式

――「ショーアップ」についてもお聞きします。ムービングライトや音響による演出、入場ゲートの設置、MCの採用に、大型ビジョンの設置、そしてTV番組に迫るような作りの本格的な配信。国際大会なみの豪華さですね。「クリスマスカップ」の名にふさわしいにぎやかさでした。やりがいのある大会にしたいという意気込みを感じました。

入場ゲートなんてくぐったことあるか?とね(笑)。選手がゲートをくぐって入場する大会など、国内では過去も合わせて、もう本当に僅かでしょう。今回はうちの学生が設営・準備を頑張ったんですけど、リハーサルで「お前らくぐりたいか?」と聞いたら、「やりたいです!」と(笑)。皆、この演出を味わいたいんですよね。出ている選手は凄く嬉しいと思いますし、応援に来る学生は「来年出たい」と思ってくれるかもしれませんよね。

――地方の大学の選手が大学名を呼ばれてゲートをくぐって登場する様、ひときわいい笑顔でした。誇らしげでしたよね。

大事なことだと思うんですよ(笑)。ゲートひとつ、オーロラビジョン1つで選手のモチベーションって大きく上がるんです。まだ実績のない1回目の大会ですし、出たいと思ってもらえることも凄く大事。このゲートを使った各校の入場も面白かった。で、普段の大会だと応援の学生は、自分のチームの試合が終わったら帰ってしまったりするわけですが、今日は(※大会初日)帰らなかったでしょう?こういう演出の面白さがあるからですよ。最後まで試合している選手にとってもこれは励みになります。あとは、この演出を浴びる経験も、将来役に立つんです。

決勝に臨む筑波大の面々

――もう少し詳しく。

パリオリンピックの観客の熱狂、にぎやかな演出を思い出してもらうといいと思うんですが、もうあれはにぎやかというか、どんちゃん騒ぎ。国際大会でてんやわんやの空間になると、経験の少ない選手はやっぱり呑まれてしまうんですよね。いままで国内の大会しか出たことのない選手が、いきなり派手な演出のある国際大会に連れていかれてもなかなか力を出せなかったりする。だから吞まれない、むしろ面白い演出にドキドキする、『さあ、かかってこい』と思えるようになるようなメンタリティを育成していくことも、大学時代から出来るチャンスがありますよと。

――前日のドロー(組み合わせ抽選)や、開会式の「選手宣誓なし」にも国際大会が匂いますね

そうです。国際大会に合わせて、日本式を1回全部取っ払いたいという姿勢で臨みました。当然賛否両論あると思いますが、例えば国歌斉唱などの絶対に守るべきところはしっかりやりながら、出来るだけ国際大会仕様に近づけていきたいというのがあります。

松田基子
代表戦決めの「サイコロ振り」。写真は大阪体育大・松田基子監督。
決勝トーナメントのドローも、ビジョンにリアルタイムに反映。

――なるほど。あとはこのショーアップ、ドローを敢えてリアルタイムで見られるように演出して大型ビジョンに映し出したり、代表戦決めのサイコロ振りであったり、非常に穴井さんの「童心」を感じます。普通の大会事業者なら実務的に済ませて結果だけ拾えばいいとなりそうなプロセスを、エンタテイメント化している。

まず、さっきの話の続きで言うと、ドキドキする、精神的負荷を敢えて学生に掛けてあげたいというのがありますね。どこと戦うんだろう、誰が出るんだろう、と。ご指摘の「童心」については、なんというか、もう、ありがたいことに、本当にやりたいことを全部やらせてもらいました(笑)。目的はあくまで強化と普及ですので、ショーアップの部分というのは、あくまで競技のエンタテインメント性を高めるためのおまけという位置づけ。盛り上げることでやりがいを感じてもらったり、観客の目を集めたりして、選手のモチベーションを上げる、そしていい勝負をしてもらう。柔道というコンテンツ自体を面白くして、価値を高めるためのパーツですよね。ただ、このパーツも、周囲の理解を得るためには大事。畳の上にいる選手、畳のそばにいる係員や審判、関係者といった専門家だけが面白がって、観客やテレビを見ている人が置いていかれがちな柔道の大会ですが、これをこう、一体感がある方向に持っていきたい。これはもともとの強化・普及という目的と少し違う、私の個人的な願いになってしまうかもしれませんが、意味のあることだと思っています。盛り上げるということも、内容の充実には物凄く大事な要素だと思うんです。ただし、この部分はやればやるほどお金が掛かります。今回はイカイさんの多大なご支援を頂き、地元の沼津信用金庫さんのご協賛を頂き、理解を頂いて初めて出来たことです。業界全体で見れば柔道というコンテンツ自体に投資してくださるスポンサーさんももっと必要。どうお金を使い、コンテンツとしての力を高め、柔道界への次の投資に繋げていくか。いいバランスでやっていきたいと思います。

――ファンや一般社会の関心を呼ぶ、理解してもらうということでは、大会前に選手のリストを出し、そして各大学にInstagramでアピールしてもらう。この姿勢も非常に良かったです。駅前のビジョンでは大会の告知がブンブン流れていましたし、阿部一二三・詩選手による柔道教室があることで、お客さんも増えたし地元のメディアも詰めかけていました。

各大学が大会前にセルフプロモーション。近畿大の評判が高かった。
陸上競技のごとく、決勝はゲートを潜る選手1人1人がカメラに向かって意気込み表明

ありがとうございます。セルフプロモーションについては、これ、たとえば他の学生スポーツでは当たり前にやっていたりするんですよね。陸上など、インカレで普通に実施されています。自分は同じ学生スポーツ界にいながら、そんなことも知らなかった。恥ずかしかったですね。柔道界の中では先を走っているような感覚でいましたが、周りを見たら全然そんなことはなかった。もう、アウトプットしまくって、柔道を知って頂いて、少しでも見に来てもらうという姿勢で行こうと思っています。本来こんないいことはないと思うんですよね。長浜の国民スポーツ大会も非常にいい大会になったと自負しておりますが(※「アンバサダー」を務めた)、どう知ってもらい、どういい大会にして、どう見てもらうか。縁の下の力持ちの役割は大きいと思います。もう監督も降りましたし、いまはここに全力を注いでいますよ。

――柔道界は「大会をやれさえすればいい」という文化が染みていて、主催者によっては選手リストどころか記録も結果も、下手をすると大会の実施自体を公にリリースしない場合もかなりあります。「試合は回っているのに、なぜ俺たちがそこまでやらなきゃいけないのか」と取材や問い合わせ、どころか記録作成自体を面倒がる組織も多い。普及の観点から見ると非常に歯がゆいのですが、その中で「見る」視点を主催側が明確に持ち、前面に押し出したこの大会は驚きでした。

やるのであれば、知ってもらわないと意味がないですよね。そして、人が人を呼んでくる渦が出来ないとダメ。1度見た人、触れた人が、「一緒に出よう」「一緒に見よう」となる渦が必要です。その渦が大きくなれば選手の緊張度もやる気も上がる、必然的に試合のレベルも上がる、ひいては競技全体のレベルも上がりますし、人口も増えます。これは声を大にして言いたいですね。知ってもらう、来てもらう、それが物凄く大事なんだと。そのためにはまず情報発信です。事前に情報も出す、LIVE配信もやる、もちろん記録もきっちり出す。知ってもらい、見てもらう。これが最終的には「やる」人を増やすことに繋がります。

――第1回大会にも関わらず全国から24校が参加。予想以上の数だったのでは?

1回目だからまず出てみようというチームもあるでしょうし、逆にどんな大会なのかまず様子見に出るチームもあるはず。遠方のチームもありますし、このご時世色々な事情があるはずですが、一生懸命声を掛けさせて頂きました。どのくらい参加してくださるか本当に不安でしたが、24チームも来てくださったことは本当に感無量ですね。これが一番嬉しいです。

――これだけの規模の大会、開催自体が感激ものでは。

最初の入場の瞬間に、こんなに幸せなことがあっていいのかな、こんなにいいことばかりで、逆にこの先、自分はまずいんじゃないかと少し思いました(笑)。

――開会式では主催(株式会社イカイ)の伊海剛志会長から「長く続けていきたい」との挨拶もありました。来年以降について。

ありがたい言葉です。今回を見て、ああ、出ておけばよかったというチームもあるかもしれないですし、「なんとかうちも来年出たいんだけど」という声も、すでにいくつか届いています。そういう人たちの声に1つでも多く応えていきながら、色々な方の期待に応えながら、この大会を肉付けして、幹を太くして続けていきたいですね。

【評】「見る柔道」に大きな一歩、史上の転換点となる大会

企画の意図と、内容がぴたり。穴井委員長は「強化と普及」の2つのポイントを挙げていたが、筆者としては特に後者が印象的だった。

普及に関しては、「やる柔道」以上に「見る柔道」への視点が大事。そして「見る柔道」に斬り込むコンテンツとしては、男女混合団体が非常に向いている。まずこれが慧眼であった。

そして「見る柔道」に大きく振った姿勢が斬新。基本的に「やる側」である柔道関係者にはなかなか行き届かないこの「見る側」にリソースを振り切ったということでは、柔道イベントの歴史的転換点となる大会だったのではないか。

そもそも男女混合団体が「見る側」にかなり寄ったエキサイティングなレギュレーションである(※技術の引き出しの多いトップ選手が「引き分け」に振ると実はほとんど試合は動かないが、このレギュレーションでは勝負をせざるを得ない)が、その特徴と、各種演出がぴたりとシンクロしていた。盛り上げて選手のモチベーションを高めれば、かならずいい試合になる。このレギュレーションであれば強くても弱くてもそのモチベーションが「攻める」という方向にしか働きようがない。塩試合がない。盛り上げること自体に必然性がある。そもそも国際大会由来のイベントであるので、派手な演出にも違和感がない。

保守的な柔道界にこの国際大会テイストの演出を導入するにあたり、男女混合団体を単なる依り代として使うだけでなく、「クリスマスカップ」の名を冠したあたりも巧みだった。問わず語りに「楽しめる大会」「お祭り」であることを伝え、同時にエクスキューズとしても機能させていた。選手たちの入場の「はっちゃけ」ぶりも、この大会名に「やっていいんだ」と支えられたところがあるのではないか。単に年末だからつけた建前の大会名ではない。まさか要項に「やって楽しい、見て楽しい演出の利いた大会にします」と書くわけにはいかないだろうが、大会名でそのマインドを十分に表現していた。学生たちが命を掛ける「学柔連3大会」が終わったあとにやってくる、まさにクリスマスプレゼント。すべてのイベントが終わり、拍手の嵐の中MCが「皆さん、ありがとう!メリークリスマス!」と大会を締めたあのシーンには、素直に「ああ、来年も続くだろうな」と思わせるものがあった。

各大学のセルフプロモーションに代表される大会前の「伝える姿勢」や、会場内での演出については既に大会記事とインタビュー本文にある通り。試合内容も抜群に面白く、演出も「ここまでやらなければ意味がない」という域まで、きちんとリソース(資金と頭脳)を投下していた。穴井委員長の、こちらが質問した言葉を使えば「童心」の威力ということになるのだろうが、「やらされている仕事」とはまったくレベルが違う。いい企画、いい試合にいい演出、そしてレベル高く観やすいLIVE配信。とにかくコンテンツ力の高い大会だった。総合的に見て、この点では現行の国内大会中「ぶっちぎり」と言っていいのではないか。

強化視点、あるいは「選手の場所を作る」という方向からの普及視点でももちろん素晴らしい大会であり、なにより「強化」「普及(やる柔道)」「普及(見る柔道)」の3つについて、「すべてを実現できるのが男女混合団体」と喝破した嗅覚、そして実現したバイタリティが凄い。脱帽である。その中にあって、「見る」柔道への理解の高さがひときわ際立っていたゆえ、この1点に絞って短く評させていただいた。来年以降も、よりよい形で大会が続き、これが文化として続くことを願ってやまない。

(古田英毅)

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