【eJudo’s EYE】「やりがい」のプロデュースこそ柔道人口増のカギ、群馬県で開催されたU-18リーグ戦から考える

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文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

群馬県U-18リーグ

既報の通り、群馬県で「U-18リーグ」が初めて開催された。県内の高校チームを実力に応じて1部から3部に振り分け、約2か月にわたってリーグ戦を実施。10月11日の最終節で、常磐高(1部)、勢多農林高(2部)、高崎高(3部)が、それぞれの部の初代王者に決まった。

これをきっかけに、少し書きたい。この「レベルに応じた区分」と「1回きりのチャンピオンシップではない、定期的な試合の開催」という試みは、非常に時宜にかなっている。強化の観点からも、普及の観点からも。

まず普及から。競技の継続にとってなにより大事なのは「やりがい」である。

ただ、たとえば高校生の場合、競技生活の中核を為すチャンピオンシップ(高校カテゴリにおいてはインターハイ予選など)が発する「やりがい」が届く距離は、実はかなり短い。競技の先鋭化が進んだ結果、勝てる可能性があるチームはいまやほんの一握り。ほとんどの都道府県では、生活をまず柔道から組み立てている専門職チーム以外が上位進出を望むのは、もはや難しい。柔道競技は、装備しなければいけない技術ユニットの数が、他競技とは比べものにならないほど多い。求められるフィジカルのレベルも高い。当然投下する時間の量が選手のレベルに跳ね返りやすい。普通の高校生に許される部活動の時間と経験の蓄積だけで、同じ世代の専門職チームに勝利するのはまず不可能だ。共通言語(技術・体力)がないので攻防自体が成立しないレベル。成功体験など得られようもなく、努力に比した尊厳を保つことすら難しい。こういう世界にやりがいは生まれにくい。建前をどう言い繕おうと、人は可能性のないものにやりがいを感じない。全国優勝を狙うような「一強」「二強」が存在する県ほど早いスピードで競技人口が減っていったのは偶然ではない。「やりがい」がなかったのだ。そこまで行かなくても、単純に、経験できる試合数が少ない。1回か2回勝って、専門職選手に当たったらそこで高校柔道は終わりだ。結果として、この先続けていけば得られるはずの技術や体力を獲得する前に、彼らは柔道から離れてしまう。

これは非常にまずい仕切りだ。人はどんどんいなくなる。負けるのが嫌だからではない。やりがいがないからだ。成功体験を得られず、尊厳を保てないからだ。楽しんでやるレベルの生徒がまずいなくなり、そしていきなり専門職集団と戦うことを強いられるような競技には、当然新規参入者も現れにくい。全体として人はどんどん減る。先ほど「いまや専門職チーム以外の上位進出は難しい」と書いたが、多くの県では実はもはや、彼らが蹴散らしてきた「普通の高校生」すらほとんどいないというところまで柔道競技は追い詰められている。これは結局強化にも跳ね返る。人が少ない競技は、当然勝者のレベルも下がっていく。最終的には、「専門職集団」も弱くなる。

本来であれば、やりがいとは試合に勝つことではなく、柔道が上手くなること、強くなること自体にあるべきだ。日々の「柔道」という営み自体が楽しくあるのが正しい。道場に立ち、技術を学び、柔道をやること自体が楽しいということでしか、結局柔道人口は増やせない。

ただ、どうしても試合という場は要る。これほど上達を実感出来る機会はなく、実は試合を通じてしか技術の正当性は確認出来ず(実戦がないと嘘が混ざる)、そして「勝負すること」を通じてしか得られないものは確実にある。

ここで大事なのは、バランス。極端なチャンピオンシップ(全国小学生学年別大会のような)は、全体利益にかなわないが、試合自体を否定していては柔道競技の面白さは伝わらない。高校から始めた初心者から国際大会進出をもくろむトップ選手までのすべての層に、努力すれば届くレベルの切磋琢磨の場を仕組むことが理想だ。賢く設計されたフレームを用意する必要がある。母集団の数やレベルの偏りを正しく見極めて、適切な「競り合い」を演出し、成功体験を与え、努力に応じた尊厳を獲得してもらう。そういう仕切りが必要だ。

これを考えるうえで、群馬県で始まったような、定期的に試合を行うリーグ戦形式の導入と、適切なレベルの見極め(入れ替え)は非常に面白い策だと思う。試合経験が積める。トライアルアンドエラーが出来る。成功体験が手に入る。自分の努力に対する尊厳と誇りも獲得出来る。ステップアップも狙える。全体のレベルが底上げされるから、最終的には強化にもつながる。

近畿ブロックや東北ブロックで実施されている「無段の部」や、競技人口減が最速レベルで進んでしまった神奈川県が盛り返しを期して導入した「2次予選方式」など、各地の指導者が知恵を絞って、この「やりがい」にフォーカスしたフレームを作り始めている。非常に頼もしい。

群馬県は、近県への拡大や、将来的には関東全域への拡大も視野に入れているという。もしこのリーグ戦に権威が出てくれば、チャンピオンシップの「年1回しかない機会のために怪我を押して無理をしてしまう」「1つの失敗で心に過剰な傷を負う」といった負の面を補うような存在になるかもしれない。人も、お金も、労力も掛かる仕事だが、柔道競技の未来を考えるうえで、非常に価値ある試みだ。これまで機会があるごとに「定期戦」の有用性を説いて来たつもりだが、筆者のように口先だけで済ませるのではなく、実際に資金を集め、人を動かし、汗を掻いて実現にこぎつけた関係者にあらためて敬意を表したい。

最後に余談ながら。定期的なリーグ戦の開催は、見るスポーツの観点からも非常に重要。たとえば国内トップクラスを抱える実業団カテゴリにおいても、高校の監督たちが語る「試合の機会自体が少ない」状況は同じだ。これは同時に人気スポーツの条件である「ファンが選手のことを知る機会」がないということでもある。実業団や大学のトップチームが定期戦を行えるようになれば、業界の風景は一気に変わると思う。ファンが顔を覚える。顔を覚えれば応援してくれる。人気が出る。やりがいを持つ選手が増える。最終的には見る人も、やる人も増えるはず。ぜひご一考ありたい。

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