【eJudo’s EYE】男女14階級海外選手「MIP」/東京オリンピック柔道競技

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文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

地元開催で金メダル9個獲得という大活躍、となれば「評」はどうしても日本人選手中心となってしまう。海外選手の活躍にもう少し触れて、各階級の熱戦の空気感をいますこし伝えたいところである。6月のブダペスト世界選手権ではこの観点から「各階級採点」を試みたわけだが、今回は海外選手MIP(Most Impressive player。わがジャンルではplayerの部分をJudokaとしたいところ)を選ぶという形を採ってみた。例によって完全主観。読者もそれぞれ推しがあろうが、1つの意見として五輪振り返りの材料にお使い頂きたい。骨までしゃぶり尽くすべき、面白い大会だった。

男子60kg級 イェルドス・スメトフ(カザフスタン)

イェルドス・スメトフ。3位決定戦を勝利して拳を突き上げる。

準決勝の髙藤直寿戦の11分2秒にわたる死闘が忘れがたい。立って、寝てと互いが一切譲らず、体の奥底から全てを絞り出した、見る者の感情を揺さぶる試合だった。2人の世界王者が、無観客の日本武道館の真ん中で、まるでこれで五輪が終わるかのごとくただ目の前の敵を倒すためだけに死力を尽くす様はまことに美しかった。おそらく多くのファンがMIPにはヤン・ユンウェイ(台湾)、次点として準決勝でヤンに敗れるも3位獲得のルカ・ムヘイゼ(フランス)を挙げるのではないかと想像するが、スメトフの髙藤戦のインパクトが強すぎたことと、ヤンとムヘイゼの側の山が組み合わせ的な密度が低く (一方のスメトフは準々決勝でキム・ウォンジンを合技「一本」で一蹴している)ヤンの決勝進出がどちらかというと順行運転感漂うものであったことで、こちらを選ばせて頂いた。表彰台登攀は妥当。あの試合をしてくれた選手がメダルを得られて心底安堵した。

男子66kg級 ダニエル・カルグニン(ブラジル)

ダニエル・カルグニン。ブラジル男子唯一のメダルを獲得。胸のタトゥーも話題をさらった。

66kg級はこの人しかいないだろう。初戦を素晴らしい送足払「一本」で勝ち抜くと、2回戦ではメダル候補のデニス・ヴィエル(モルドバ)を隅落「技有」、そして準々決勝では阿部一二三最大のライバルと目されたマヌエル・ロンバルド(イタリア)を肩車「技有」で撃破。阿部には敗れてしまったが、3位決定戦ではバルチ・シュマイロフ(イスラエル)を釣込腰「技有」で下してブラジル男子に今大会唯一のメダルをもたらした。倒した敵は格上ばかり、ロンバルドを倒してトーナメントの読みを根底から変えてしまった。東京大会全体を通じて絶対数が少なかった、五輪ならではの「確変」選手と言えよう。寝技の選手の評価を覆し、全戦立ち技で勝ち抜いた意外性も買い。動き極めて鋭かった。そして話題をさらった「家族」のタトゥー。柔道ファンにとってはお馴染みだが、今回は一般ファンの目に留まってかなりバズった。海外の柔道選手の名前が日本でトレンドワード入りすることなどなかなかない。弊サイト画像の無断使用もそこかしこで見かけたのだが、今回に限っては黙認、どころか大歓迎。我が国における柔道競技の露出に一役買っていた。まさにMIPにふさわしい活躍であった。

男子73kg級 ラシャ・シャヴダトゥアシヴィリ(ジョージア)

山場のアン・チャンリン戦を勝ち抜いた直後のラシャ・シャヴダトゥアシヴィリ。

五輪金メダリスト同士の決勝、大野将平と演じた激戦は大会ベストバウト級。誇り高きジョージアのエースが全てを投げうち、「弱者の兵法」に徹して大野を食おうとする様は率直に言って、物凄く怖かった。もっとも大野を苦しめたのは間違いなくこの人。決勝進出の過程でも「確変」が入りかかっていたアルチュール・マルジェリドン(カナダ)の勢いを得意の大内刈「一本」で鎮め、準決勝ではアン・チャンリン(韓国)を8分超えの大消耗戦で退けた。ツェンドオチル・ツォグトバータル(モンゴル)のド根性ファイトも非常に印象的だったが、シャヴダトゥアシヴィリが大野との激戦ですべてを攫った、との立場でこちらを選出した。

男子81kg級 サイード・モラエイ(モンゴル)

サイード・モラエイ。写真は男女混合団体戦、1階級上のミハイル・イゴルニコフ(ロシア)を合技「一本」で下した直後。恩義ある新たな母国・モンゴルの国旗に手を当て、誇らしげ。

モラエイを外すわけにはいかない。会場は、母国イランを追われることとなったあの東京世界選手権と同じ日本武道館。家族を残して出国、難民選手団所属を経て所属をモンゴルに変えて臨んだ今大会はまず準々決勝でV候補筆頭格のタト・グリガラシヴィリ(ジョージア)と大激戦、早々に「技有」を失うも肩車と隅落で2度投げて合技「一本」で逆転勝ち。決勝では敗れたものの、永瀬貴規と競技史に残る大熱戦を演じて銀メダルを獲得してみせた。これだけ大きなものを背負って、そして敗れてなお、勝者永瀬の手を挙げてその勝利を称える器の大きさに感動。団体戦でも大奮闘、1階級上の90kg枠に出場して銀メダリストのエドゥアルド・トリッペル(ドイツ)から肩車「技有」、そしてなんとミハイル・イゴルニコフ(ロシア)から合技「一本」を奪って2戦2勝。モンゴルから受けた一宿一飯の恩義に勝利を以て報いた。勝利後、TVカメラに向けて胸のモンゴル国旗を指さす様が神々しかった。

※次点:シャミル・ボルチャシヴィリ(オーストリア)

モラエイという大き過ぎる存在のため選べなかったが、ボルチャシヴィリは本来的な意味でのMIP。「次点」として挙げさせて頂く。人材あり過ぎる81kg級にあっては番付的に無印と言っていいランクだったが、2回戦でアンリ・エグティゼ(ポルトガル)を小外刈「技有」で下すと、3回戦では世界王者サギ・ムキ(イスラエル)、準々決勝ではシャロフィディン・ボルタボエフ(ウズベキスタン)、3位決定戦ではドミニク・レッセル(ドイツ)とメダル候補4人をいずれも投げて銅メダル獲得。「優勝候補20人」と称された最激戦階級の象徴的存在となった。単に大物を食って大会を荒らすのではなく、メダルに辿り着いてきちんと結果に昇華させたことも素晴らしい。ムキを破り、勢いのままボルタボエフをも食った準々決勝終了時点の「憑いている」様はこれぞ五輪という感じだった。

男子90kg級 ラシャ・ベカウリ(ジョージア)

金メダルを決めたラシャ・ベカウリ。動作のいちいちが、この人らしい。

世界選手権優勝歴がない選手の金メダルは、男子全7階級中この人のみ。ベカウリらしい良い意味での思い込みの強さとリスク厭わぬ一発投げ合い戦型が、五輪という大舞台にやはり、嵌った。リ・コツマン(イスラエル)を相手に大胆過ぎる組み手の罰を食って「技有」を奪われながら外巻込「技有」に大外返「一本」で逆転した3回戦、ミハイル・イゴルニコフ(ロシア)にほぼ試合を支配されながら変則の谷落一発「技有」で勝ち抜けた準決勝などは真骨頂。準々決勝、ダヴラト・ボボノフ(ウズベキスタン)を内股で舞わせた際の高い叫び声もたいへんベカウリらしく、非常に楽しませてもらった。金メダル獲得後も良かった。「密」な状態で待ち受けた同国スタッフたちへの飛び込みハグ(以後この位置には警備員が配されることになる)に、「五輪で4回優勝したい」とぶち上げたメダリスト会見(はにかむ表情と内容のミスマッチが魅力的だった)と“らしさ”爆発。好役者そろった90kg級をベカウリ色に染めた。次点は「確変」枠の極み、初戦でネマニャ・マイドフ(セルビア)に3回戦でガク・ドンハン(韓国)と世界王者2人を撃沈、さらに世界選手権銀メダリスト2人を倒して決勝まで辿り着いたエドゥアルド・トリッペル(ドイツ)。初戦のマイドフとの変調対決を制してこの日の「確変枠」を力でもぎ取った感あり。ベカウリ、トリッペルというわんぱく坊主2人が暴れまわった1日だった。割を食った格好と言うべきか、準々決勝の大一番でニコロス・シェラザディシヴィリ(スペイン)を絞め落しながらベカウリに敗れ、力尽きて3位決定戦まで落としてメダルを持ち帰ることすら出来なかったイゴルニコフが裏MIPと言えるだろう。

男子100kg級 チョ・グハン(韓国)

チョ・グハン。ジョルジ・フォンセカを下した直後に、ソン・デナムコーチとハイタッチ。

コロナ禍以後は不調も、きっちり仕上げて見事銀メダル獲得。チョらしいしぶとく、粘り強く、図太い試合ぶりが印象的だった。白眉は世界選手権2連覇中のジョルジ・フォンセカ(ポルトガル)との「担ぎ技対決」となった準決勝。残り30秒でこれまでなかった「釣り手一本」の形を作ると、体は上下、釣り手を前後に細かく揺する味のあり過ぎる牽制。「いくぞ」とばかりに相手の目を見たまま時間にして10秒近くこれを繰り返すとこの動きに混ぜ込んでついに本命の左一本背負投一発、みごと「技有」を得た。チョの組み手と背負投の牽制は世界の潮流とはまったく違う、韓国人背負投ファイター代々の流れを汲んだ独自のもの。毎度「そんな考え方があるのか」と唸らされる“みどころ”なのだが、柔道スタイルの重心がヨーロピアンメソッドに移る中、これがオリンピックの準決勝で決まる構図には痺れた。相手役を務めたフォンセカも良かった。ここまで絶好調ながらこの一番で手が攣ってしまい「動け!」と己の手を叩きながら強敵チョと対峙する様はまるで映画のよう。負けてもやっぱり千両役者だった。序盤の戦いぶりからするとシャディー・エルナハス(カナダ)も資格ありであったが、実力・インパクトともにウルフ、チョ、フォンセカら上位戦に残った世界王者たちと伍するところまでは至らず。

男子100kg超級 テディ・リネール(フランス)

写真は男女混合団体戦。リネールはリーダーとして仲間を鼓舞、今度はチームで金メダルを獲得した。

推したい人だらけなのだが、強いて1人と言われればやはりこの人になる。大会直前になっての負傷カミングアウト(2月に膝靭帯断裂)、しかし見事な序盤の2試合、そしてタメルラン・バシャエフ(ロシア)に仕掛けた捨身技を切り返されての隅落「技有」による敗戦。絶対王者の五輪3連覇ならずというここまでのドラマだけでも十分「役者」としての務めを果たしているのだが、その後が良かった。集中を切らすどころか次戦は見事な一本勝ちで3位決定戦に進み、リオ五輪決勝を戦った原沢久喜を完封して銅メダルを獲得。さらに翌日の団体戦ではリーダーとしてフランスチームを引っ張り、制度採用以来ここまで無敗の絶対王者・日本を倒して母国に金メダルをもたらした。2戦全勝という試合内容はもちろん、レジェンドである神様・リネールが人の世界の平面に「降りて」、仲間に声を掛け、励まし、時には飛び上がってチームを鼓舞する様自体が感動的。失った「金」は、チームで取り戻す。器の大きさが違った。

次点はもちろんルカシュ・クルパレク(チェコ)。コロナ禍、どころか自身が罹患してこの1年不調をかこちながら最後の最後で金メダル獲得。重量2階級連続制覇という柔道史に残る偉業を成し遂げた。他にも前述バシャエフ、グラム・ツシシヴィリ(ジョージア)、ヤキフ・ハモー(ウクライナ)、ベクムロド・オルティボエフ(ウズベキスタン)とMIP級の選手枚挙に暇なし。個人戦7日間の激戦を締めるにふさわしい充実の階級だった。

女子48kg級 ディストリア・クラスニキ(コソボ)

ディストリア・クラスニキ。強い、としか言いようがなかった。

強かった。ガブリエラ・チバナ(ブラジル)を大外刈「一本」、リン・チェンハオ(台湾)を大外刈「一本」、ムンフバット・ウランツェツェグ(モンゴル)を大外落「技有」、そして渡名喜風南を内股「技有」。渡名喜には完璧に対策されていたが、ただ1度のチャンスを逃さず代名詞である投技で金メダルを決めてみせた。2019年以降、ライバルのダリア・ビロディド(ウクライナ)がメンタルの揺れから成長を企図できず脱落する中で着々、成長というよりは「強さ」自体を上げ続けた。この来し方が凝集されたような1日だった。戦略・戦術を超えて、「強いがゆえに勝った」、強さを貫かんとしたこと自体で勝ったと大会だった。
31歳で銅メダル獲得のムンフバット・ウランツェツェグ(モンゴル)の出来も目を見張らされたが、今大会この階級はやはりクラスニキに尽きる。「強かった」と冒頭の言を幾度も繰り返したい。

女子52kg級 アモンディーヌ・ブシャー(フランス)

アモンディーヌ・ブシャー。表情を変えずに淡々・確実にトーナメントを駆け上がる様は、やはりひときわ怖かった。

悩みに悩んでブシャーとした。意外性の観点から言えばマイリンダ・ケルメンディ(コソボ)を倒したプップ・レカ(ハンガリー)と、プップを倒してベスト4まで進んだファビアン・コッヘル(スイス)を挙げるべきだし、この2人と銅メダル獲得のチェルシー・ジャイルス(イギリス)を並べて「中堅層がノシた大会」と話をまとめることも出来た。阿部詩の得意技を徹底封殺したオデット・ジュッフリダ(イタリア)を選んで「狙ってくるものの恐ろしさ」を語っても良い。ただ、やはり、「阿部が敗れるかもしれない」という恐怖感を味わわせてくれたのはブシャーただ1人。その当日の皮膚感を採った。準決勝までの3試合に掛かった時間は僅か139秒。確かに力の差がある相手ばかりではあったが、かつてムラ気だったブシャーが、その唯一の弱点を一切晒すことなく淡々と勝利を収めるその様は恐怖をかきたてた。阿部の大会序盤の戦い方が比較的緩かったこともあり、実はプールファイナルの時点では「阿部は負けるかもしれない」と当方背筋を寒くしたことであった。決勝にもう一段方法論的なジャンプが欲しかったところであるが、「このまま試合が進めばどうなるかわからない」という不気味さ、奥行きの深さはかなりのもの。MIP選出は妥当と思う。

女子57kg級 ノラ・ジャコヴァ(コソボ)

荒れた57kg級、神がこの日の勝者に選んだのはノラ・ジャコヴァ。

メダル確実と目されてはいたがまさかそれが「金」になるとは。女子7階級唯一の「番狂わせ」王者である。ベスト4入りまでは予想通り。ここからおそらく芳田に敗れ、3位決定戦でエテリ・リパルテリアニ(ジョージア)を弾き返せるかどうかだな、というのが大方の読みであったと思うのだが、結果はご存じの通り。芳田戦はGS延長戦に突如息を吹き返して小外掛「技有」で勝利、決勝はサハ=レオニー・シジク(フランス)の「頭突っ込み」反則という意外な形で勝利してなんと金メダルを得ることとなった。「評」でも書かせて頂いたが、この1年57kg級は大波に揉まれ続けた。五輪金メダリストのラファエラ・シウバ(ブラジル)と誰もが最大の変数として恐れたキム・ジンア(北朝鮮)の2人がドーピング問題で消え、2019年世界王者の出口クリスタ(カナダ)もコロナ禍による代表選考制度の迷走を受けて本大会に辿り着けず。これだけ荒れた階級が、順行運転で終わるはずがなかった。神が選んだその「依り代」がジャコヴァだったのだと解釈する。背中に選ばれたものの光があった。鋭い投技連発の芳田、豪快な投げで魅せたリパルテリアニ、そのリパルテリアニとの壮絶な投げ合いを投技2発で制したばかりか現役世界王者のジェシカ・クリムカイトをも倒したシジクが内容的にはMIPなのだが、今大会はこの人を選ばざるを得ない。母国コソボはこの時点で2つの金メダルを獲得、おそらくこの後は国が予算を傾けてのさらなる強化体制が組まれるであろう。民族結束のシンボルは柔道。コソボという国、そして柔道競技史上においても転換点となる勝利だった。

女子63kg級 クラリス・アグベニュー(フランス)

絶対王者の目にも涙。アグベニューついに五輪金メダル獲得。

アグベニューしかいない。悲願の五輪金メダル獲得。リオ五輪以降の世界選手権4大会をすべて優勝するという圧倒的な強さに安閑とせず成長を企図し続けた、その凝集と言っていい大会だった。とにかく強く、隙がない。決勝、積年の好敵手ティナ・トルステニャク(スロベニア)を沈めた小内刈「技有」も見事だったが、おそらく多くの人が記憶するのは団体戦決勝で新井千鶴に決めた小内刈2発だろう。あまりに鋭く、強烈。アグベニューの「ものの違い」をファンの脳裏に焼き付けた技だった。選手としての完成度極めて高し。技の威力と全方位性、戦いに対する姿勢。もはやテディ・リネールや大野将平の域に足を踏み入れつつあるのではないだろうか。

アグベニューが強烈過ぎるゆえ選べなかったが、MIP相当の選手が非常に多かった階級。まさかの銅メダル獲得のマリア・セントラッキオ(イタリア)にキャサリン・ブーシェミン=ピナード(カナダ)、自己理解の利いた戦いで5位入賞しトルステニャクから「技有」も奪ったアンリケリス・バリオス(ベネズエラ)、唯一の必殺技左小内巻込を懐に呑んでメダル候補田代未来の鳩尾を抉ったアガタ・オズドバ=ブラフ(ポーランド)。いずれも極めて印象的。中堅層が「跳ねた」大会であったことがよくわかる。

女子70kg級 マディーナ・タイマゾワ(ロシア)

マディーナ・タイマゾワ。新井千鶴との準決勝は試合時間17分に迫る大熱戦となった。

異論あるまい。準決勝、新井千鶴と演じた16分41秒の激戦は大会自体のハイライト。「採点表」で書かせて頂いた通り双方の寝技技術の拙さが導いた長時間試合ではあったのだが、大熱戦であったことに変わりはない。右目の上を腫らして視界が半ば塞がり、アザを作りながらも、体の柔らかさを生かしてひたすら粘り続けたド根性ファイトはファンの胸を打った。「タンコブ美女」というワードでウェブニュースやSNSでも話題沸騰。2日目のカルグニンに続く、海外柔道選手のスター誕生の感があった(「人が絞め落される場面を初めて見た」という意外な方向でも話題を提供してしまったが)。銅メダル獲得は妥当な結果だ。
次点にはミヘイラ・ポレレス(オーストリア)を挙げたい。バルバラ・マティッチ(クロアチア)とサンネ・ファンダイク(オランダ)のV候補2人を倒してファイナル進出。強いは強いが返し技中心でジャイアントキリングは出来ない、という当方の印象を良い意味で裏切る大活躍だった。

女子78kg級 該当者なし

濵田尚里の強さが全てを塗りつぶした。海外選手MIPは該当なし。

いない。選べない。濵田尚里のあまりの強さが全てを持っていってしまった。一本勝ち連発で順当に決勝まで進んだマドレーヌ・マロンガ(フランス)を選びたいところなのだが、濵田の寝技の恐怖に耐えかねて自滅したあの試合を見てしまった後ではちょっと食指が伸びない。消去法でこの人、という次善策すら採りかねる。相手の濵田の方だって怖かったはずだ。マロンガには恐怖を乗り越え、得意の投げでまっこう堂々の勝負をして欲しかった。余計なことだが、仮にマロンガがここでMIPに選ばれるような試合を見せてくれていれば、濵田の採点は10.0になった可能性すらある。1度「10点」の評を書いてみたかった。残念だ。
アナ=マリア・ヴァグナー(ドイツ)も強かったが予想を超えるものではなく、現役世界王者の戦いぶりとしてはインパクト薄し。業師マイラ・アギアール(ブラジル)も成績に見合うだけの内容は見せていない。「MIP」を選ぶとしたらやっぱり濵田しかいないのだ。9-1なら他を選べるのだが、今大会は10-0だ。もともと単勝負の連続で大会を跨いだ物語性が薄い78kg級は「勝ったもの総取り」になりやすい世界なのではとこの選考を通じて考える次第。「濵田が強すぎた」ということで勘弁願いたい。

78kg超級 イダリス・オルティス(キューバ)

イダリス・オルティス。写真は準決勝、ホマーヌ・ディッコにリベンジを果たした直後。

やはりこの人。5年間「オルティスの本気は五輪のみ」とビッグゲームの度に書き続けてこの日の訪れを待ちわびたわけだが、期待に違わぬ強さを見せてくれた。既に32歳、かつ柔道の成熟につれて戦いぶりが安定して来たこともあって他大会からの「ジャンプ」の高さはかつてほどではなかったが、やはり役者が1枚も2枚も違った。ホシェリ・ヌネス(ポルトガル)を仕留めた袖釣込腰「技有」、確変気配のあったシウ・シヤン(中国)を沈めた釣腰と一本背負投、そしてリベンジマッチとなった準決勝でホマーヌ・ディッコ(フランス)を沈めた横車「技有」と、いずれも常のオルティスの上を行く技だった。この五輪モード・オルティスを完封するのだから、素根輝の強さ半端なし。

次点にはリオ五輪後国籍を変更、みごと銅メダルを獲得したイリーナ・キンゼルスカ(アゼルバイジャン)を挙げたい。超大型ながら勝利した4試合すべてで投げを決め、超重量選手の未来に新たな地平を開いた。大型選手いかに戦うかという観点で女子超級競技史をにらみなおせば、キンゼルスカがすぐれて「いま」の選手であることがよくわかるかと思う。ディッコ、前述のシウも魅力的な試合を見せてくれた。トーナメント予選ラウンドの戦いを過去の五輪と比べてみて欲しい。年々面白くなる女子超級、その進化がよくわかる大会であった。

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