【eJudo’s EYE】60kg級選考は妥当、異論呈された100kg級はコロナ禍の苦しさ滲み出る/タシケント世界選手権男子6階級日本代表発表「評」

eJudo’s EYE(コラム)/記事//
  1. ホーム
  2. eJudo’s EYE(コラム)
  3. 【eJudo’s EYE】60kg級選考は妥当、異論呈された100kg級はコロナ禍の苦しさ滲み出る/タシケント世界選手権男子6階級日本代表発表「評」

文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

発表会見に臨む鈴木桂治・男子代表監督
選抜体重別終了後恒例の代表選考「評」をお送りする。選考は概ね順当。強化委員会においても100kg級についてと、「2枠目」に超級選出の可能性を残さなかったことに異論は出たが、紛糾という段階には至らなかった。
 
今回の選考には「選考会(冬季欧州国際大会か選抜体重別)に必ず出ること」というハードルが課された。東京五輪を戦い終えたばかりの代表選手たちにとってはかなりの難関。強化サイドは「規定ではないのでそう決まっているわけではない。ただ、我々は彼らが戦う姿を観たかった」という言い方で説明したが、つまりこれは実質「必須」ということ。これを満たせなかった73kg級の大野将平(旭化成)と100kg級のウルフアロン(了徳寺大職)が、まず選考から外れた。
 
これを踏まえた上で。選考基準は世界大会・ハイレベル国際大会、そして最終選考会となるこの選抜体重別を含めた対象大会の総合的な成績。国際大会の開催状況が幾分改善され、さらに数少ない派遣選手のうち成績を残したものがこの選抜体重別でもしっかり勝ってくれたことで、66kg級、73kg級、81kg級、90kg級は「自動的に決まった」とすら言っていい順当な選考となった。各階級評で詳しく書くが、60kg級も毎回きちんと国際大会を見て内容と結果にアクセスしているファンであれば、「順当」と判断するだろう。
 
問題は100kg級。コロナ禍前から層が薄いこの階級で昨年度国際大会に派遣されたのは、五輪代表を除けば飯田健太郎(旭化成)ただ1人のみ。そしてこの飯田が4回送り込まれた国際大会でいずれも不出来、さらに最終選考会(選抜体重別)でも映えない成績に終わってしまったことで事が少々ややこしくなった。成績も内容も世界選手権代表のレベルに届いていないが、比べるべき選手(国際大会に出ている選手)がそもそもいない。結果として、いわば消去法的な構図での飯田選出に至ることとなった。当然、強化委員会では異論が呈された。筆者もこの選考は疑問。ルールはルールということに他ならないのだろうが、考えるべき部分、語るべきところは多い。各階級評で詳述する。

60kg級 髙藤直寿(パーク24)

髙藤直寿
代表は髙藤。「昨夏の五輪で金メダルという実績と、短い時間でここまで仕上げたその上昇角に鑑みて、10月の世界選手権で金メダルを獲得出来る可能性がより高い」との旨の説明が付された。妥当と考える。国際大会の成績と内容という要件を考えるに、この日優勝した古賀玄暉は2021年の国際大会があまりにも悪すぎた。6月のブダペスト世界選手権は初戦でマタン・ココラエフ(イスラエル)に内股「一本」で敗れ、主役級不在で新人戦の様相を呈した10月のグランドスラム・パリはバラバイ・アガエフ(アゼルバイジャン)に肩車「技有」で苦杯、さらにエンフタイワン・アリウンボルド(モンゴル)にも内股透「技有」で敗れて最終成績は5位。2大会でメダルなしの3敗、しかも負けた相手は全員対戦段階ではほぼ無名、少なくとも日本代表選手が敗れるレベルの相手ではなかった。内容的にも片手、あるいは背中抱きというフィジカル前提の刹那的な進退から「ぶっ飛ばされた」という体で、先の希望の持ちがたいもの。あらゆる強者を下して世界の頂点に立った五輪金メダリストとの実績比べがそもそも難しいのはもちろんのこと、内容の面でも将来性を感じさせるものではなかった。古賀にはすでに「国際大会にはもう使わない」という判断が下されていておかしくなかったのだ(今回の選抜で負けたら実際にそうなった可能性が高いはず)。となれば強化の側が今回の選抜体重別の優勝で古賀に報いるべきはこの評価の取り消しと、以後の国際大会戦列復帰ということで妥当と考える。もう1度世界の舞台に出るのであれば、まず選考大会であるワールドツアーで海外選手に勝つ能力を証明せねばならないということだ。3番手以下が薄い階級ゆえ2枠目選抜という手もないではなかったが、他階級との「実績比べ」で選ぶのであれば残念ながら勝ち目がなかった。
 
ちなみに今回の選抜体重別、古賀の柔道の内容は劇的に良くなっていた。中身がこれまでと全く違う。特にケンカ四つにおける戦い方にポリシーがくっきり。釣り手で前襟を持って間合いを出し入れ、「抱き勝負」はあくまでオプション。これまで持て余していた長い腕をアドバンテージに変換せんと様々工夫をこらしていた。昨年までのような手探りの刹那的な進退ではなく、はっきり国際舞台で勝つことを意識して柔道を作っていると見受けた。こうなると良い意味で決まった形のない、古賀のスタイルの柔軟さは魅力的。出すたびに強くなり、国際の上位で戦えるようになっていく良いシナリオが十分イメージ出来る。ハイレベル国際大会で力を証明し、再び代表争いに戻って来てもらいたい。選ばれる可能性の高い、9月のアジア大会が次の分岐点。

66kg級 阿部一二三(パーク24)、丸山城志郎(ミキハウス)

有料会員記事
【残り4,434文字 / 全6,575文字】

スポンサーリンク