【eJudo’s EYE】阿部詩の大外車、ブシャーの「セルビア式肩車」、ピメンタの「垣田背負い」/タシケント世界柔道選手権2022第2日「きょうの技術」

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文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

昨日からスタートした世界選手権「毎日技術紹介」、第2日をお送りする。まもなく第3日の競技が始まってしまうので解説はなるべく少なく、なるべく簡単に「紹介」の体を取りたい。

阿部詩の大外車

3度目の優勝を果たした阿部詩。2回戦では大技・大外車を決めた。

阿部詩が2回戦でナデダ・ペトロヴィッチ(セルビア)に決めた素晴らしい大技、右大外車について。一応おさらいすると、大外車は大外刈同様のエントリーから両足を、事実上は奥足を刈り上げる大技である。右の大外車ならば、相手の左足を刈って後方に投げる。

ここで昨日に引き続き少し脇道にそれてまたもや「技名称」に対する愚痴を書かせていただくと。技名称判定に理解のない学生(比率でいえばほとんどすべてと言っていい。大人にもすさまじく多い)は記録係をやると平然と「大外」「小外」「大内」と書いたりするが、ここには「技名称」に冷淡な斯界が示す様々なアスペクトのうち、「理合の理解に興味がない」柔道人いったいの知的好奇心の欠如、「技術的整理が甘い」柔道界全体としての運動学的アプローチの未成熟、これが存分に表れている。「分かる」ことは「解る」こと。名称の差異はどちらの技も理解出来ているから起こるものであり、これは本人の「やる柔道」の解像度に直結する。「大外」とのみ書き(甚だしきはこれが技の名前だと思っている大学生が本当にいる。かなりいる)、類する技はすべて大外刈としか認識出来ず、決まる理屈が異なる「刈」も「落」も「車」も「返」も「巻込」もいっしょくたにしている人間の技術的解像度が高いわけもなく、こういう「理」に興味がないものが、その後自分に向いた技法を開発し、柔道の枝を伸ばしていけるわけがないのである。かつては、とんでもない技名称を記録用紙に書く係員の名前は意地悪く長々記憶していたものだが、彼らの中にその後強くなったものは皆無だ。技術に興味を持つマインドのないものが、大学に入り、自分で自分を鍛えねばならぬステージに至って強くなれるわけがない。彼らが悪いのではない。教育しない柔道界が情けないのであって、目先の勝ちばかりを目指して理合の理解や教育にそもそも興味のない指導者全員に罪があるのだ。

と、愚痴ばかりを聞かせて不快な思いをさせてしまったかもしれないが、昨日書いた通り本命の技名称コラムを書く際には建設的な提案もさせて頂く。それまでご容赦願いたい。

いきなり脇道が長くなった。この大外車、いまの柔道競技で決まる場合はパワーファイター、あるいは特殊な身体的記号を持つ(背が高い、手足が長い、体が大きい)選手が大外刈を掛けた際に「そうなってしまった」場合がほとんどであるが、スローを見る限り、阿部詩は明らかに狙って掛けている。

「逃がさない」意図が「両脚刈り」の挙に駆り立てたと言ってしまうのは簡単なのだが、実はそれ以上に、あの場面での「車」の選択には技術的必然性があった。あそこで掛ける大外刈系の技は大外車でなければならなかった。そこについて書いて、この技の紹介としたい。

阿部の右大外車「一本」
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【残り4,010文字 / 全5,325文字】

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