【eJudo’s EYE】全日本選手権ルール大幅変更「いまだ発表されず」、主催者はすぐさま正式にリリースを

eJudo’s EYE(コラム)/記事
  1. ホーム
  2. eJudo’s EYE(コラム)
  3. 【eJudo’s EYE】全日本選手権ルール大幅変更「いまだ発表されず」、主催者はすぐさま正式にリリースを

文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

既にご存じの方も多いかもしれないが、全日本柔道選手権のルールが大幅に変わる。

概要は、

・試合時間5分、決勝は8分。
・攻撃ポイントは「有効」「技あり」「一本」の3種類。 ※従来通り
・「指導」よる反則負けは、累積「4」。
・旗判定の導入

である。

勿論言いたいことは、たくさんある。本丸の「足取りあり」を外しては変更の意味が薄いのではないかという「そこから?」感や、ゆえに拭えぬ「政治でブレーキを掛けてあるべき目的を達成出来ていない」感、本来もっとスケールの大きな改革が必要な情勢にあって、たかだか(敢えてこう言わせてもらう)ルールの変更に何年もかかってしまう現在の意思決定プロセスに対するもどかしさ、などてんこ盛りなのだが、すべてノイズとして本稿では目を瞑る。まずは体重無差別で行われる唯一無二の大会・全日本選手権の価値を高めようと「変化する」こと自体を高く評価したいし、一歩前に進んだことは大事。今回の変更の前提になっていると仄聞する「この先も議論を続ける」という姿勢にも大いに期待する。

すべてに目を瞑って、言いたいことはただ1つ。

「一刻も早く正式に発表して欲しい」だ。これに尽きる。

この変更が決まったのは、筆者が知る限り遅くとも12月初旬。既に1か月が経過している。しかし主催者(全日本柔道連盟と講道館の共催だが、この大会の主体は講道館)は、今に至るも正式なリリースを発していない。少し大袈裟に言えば「違う競技」になってしまうと言ってもいい、かかる重大な変更であるにも関わらずだ。そのころ各種会議に出席してこのルールを知った人たち、ことによると決定に携わった方々ですら「え?まだ発表していないの?」とのけ反るのではないか。

もっか選手がこの情報を知るソースは、一部の審判・役員・関係者によるSNS等への投稿が主とのこと。つまりは「噂」レベルである。おぼろげに知っている選手もいれば、今に至るもほぼまったく知らないものもいる。選手のネットリテラシーや「業界の中央」への距離によって情報に格差があるのだ。

当然ながら選手には困惑が渦巻いている。eJudoにも多くの声が届いているのだが、それはルールの内容について云々ではまったくない。「本戦のルールを把握していないのに、自らが予選にエントリーしている」というシュールな状況についての不安であり、「なぜルール変更を公にしてくれないのか」という怒りの声だ。

そして、その間にも着々各地で都道府県予選は進んでいる。千葉県予選(12/16)は旧ルールで既に終了してしまったし、埼玉県予選(1/21)は12/13に急遽要項を修正し「まだ発表されていない」はずの本戦の新ルールに沿って開催されることとなった。神奈川県予選(1/20)は一昨日(1/9)になって要項を修正して、これもまだ発表されていない新ルールでの開催に舵を切った。同じ大会の予選が、まったく異なるバラバラのルールで行われてしまっている。2月に予選開催を予定している県の中には「この先全日本選手権のルール変更によって、ルールを変えることがあるかもしれない」旨を要項に記載し、つまりは現状どんなルールで試合を行うかを明記せぬまま出場者を募っているところもある。

選手にだって準備がある。戦い方も変わる。審判も同様だ。数日前にルールが変わったというのももちろん困るだろうが、「どんなルールかわからない大会に出るために数か月をまたぐ予選を戦う意思を表明しろ」というのは精神的な負担が大きすぎる。筆者は、全日本選手権は体重別の競技柔道と一線を画す特別な大会だと思っているし、たとえば「体重無差別の講道館試合審判規定で開催する。賛同出来る選手のみが参加すればいい」という態度に出てもいいと思う。本来「試合に出る」というのはそういうものだ。ただし大前提は条件(ルール)が明示されていることだ。判断材料なしに行動を決めろというのは理不尽だ。今回は「どんなルールでやるかは言わないが、出たいものはまず手を挙げろ」という不健全な状態に陥っていることに、主催者は気づいているだろうか。さすがに選手とファンを軽んじ過ぎていると思うのだが、いかがだろうか。

シンプルに「決まったものを速やかに発表する」。これだけで、少なくともこの1か月の選手の煩悶と主催者に対する不信は防げた。先延ばしするどんな理由があるにせよ、「すべての選手とファンに平等に、いち早く周知する」これに優先するものはないはずだ。

決定が遅くなってしまったことは、今となってはもう仕方がない。それは、本来であればすべての都道府県予選の要項発出前に本戦のルールがしっかり定まり、同じ条件のもとに予選が行われるのが当然だ。でも時間は巻き戻せないし、これだけのドラスティクなルール変更の合意形成に手間と時間が掛かったことも、ある程度は理解できる。

いまとなっては、これから出来ることをやるしかないのだ。そして「出来ること」とは、「1分1秒でも早く公表すること」に他ならない。

いますぐ、今日にでも、公表すべきだ。

仮に予選を行う都道府県柔連に個々に通達を出したとして、これは「公表」ではない。すべての選手とファン、誰もがアクセスできる場に情報を載せること。これをもって「公表」という。

すぐさま、主催者のウェブサイトにリリースを載せて欲しい。

本稿の趣旨は以上である。

以下は蛇足。

今回の「決まった重大事項を公表しない」振る舞いから、読み取れることがいくつかある。

1つは、メジャー大会から県・市レベルの草の根イベントまでを覆う「やればそれでいい」という業界全体の姿勢。上から下まで広報・周知の意識が低い。もう1つは、審判委員会などの振る舞いにもたびたび見える「情報を抱え込む」癖。限られた情報にアクセス出来る「権利」の重視と権威化だ。

どちらも常識となってしまっていて、「ムラ」の内部ではこの弱点を自覚できなくなっているのではないか。いずれも百害あって一利なし。今回も悪意はなく、どちらかと言うと「意識の低さ」が呼び起こした事態ではないかと考えるのだが、まさに悪い意味での業界の鏡となってしまった事例だと思う。知っているものだけが知っていればいいという姿勢による情報格差が引き起こす混乱と言えば、グランドスラム東京における選抜方式の変更を数か月「寝かせた」昨秋の騒動が記憶に新しいが、わが業界はまったく懲りずに、またもや、やらかしてしまったのだ。

情報は、権威や権力のツールではない。決まったことを公開するのは、単に公的機関の責任であり、義務だ。ここをあらためて考えてもらいたい。

スポンサーリンク