文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta
穴井さんの戦い方は極めてロジカルだった。意図が明確。相手が打った手に対して何を考え、どんな手を繰り出しているのかがはっきり見える。しかもそのスパンが早い。判断に迷いがなく、それを体現するツールがしっかり整理されている。この判断と実行の巡りを間断なく繰り返す。世界王者を取ってから13年が経ち、ルールも競技のトレンドもだいぶ変わったが、彼の柔道には旧さがまったく感じられない。その立ち振る舞い、まるでいまのワールドツアーの一線級選手を見るようであった。これから強化選手入りを目指す選手が集う会場内にはまだ単に強いだけ、肉体的感覚に従って無明の中で戦うかのようなステージの選手も意外に多い。その中にあって39歳のもと世界王者の組み立ては際立っていた。柔道の解像度がまったく違う。師匠と弟子なのだから当たり前だが、現役世代の選手では中野寛太(旭化成)を思い出した。
しかし、それでも、敵わない。勝つのは、稽古をガッチリ積んだ若者の側だ。残酷だ。ここに柔道の「リアル」がある。格闘技における体力というファクターは決定的、そして柔道の「稽古を積んでいるものが強い」という鉄の掟はいついかなる時でも揺るぎはないのだ。たとえもと世界王者であってもこの「掟」からは逃れられない。これがドライな柔道競技の現実だ。そして彼はこの「掟」を十分承知で試合に出て来た。ここが今回のポイントである。
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