決勝は史上に残る名勝負だった。三冠獲得に掛ける国士舘の執念、14年ぶりの全国制覇にあと一歩と迫った東海大相模の情熱。実に見ごたえがあった。陥落寸前だった国士舘の大将・畠山凱が、14年ぶりの優勝に燃える東海大相模・杉本明豊から奇跡的な合技「一本」を挙げたあのシーンは、令和5年度大会のまさしくハイライト。高校柔道史に長く語り継がれるであろう、劇的な決着だった。
夏の柔道シーズンは続く。中3日を空けてすぐに徳島(全国中学校大会)の取材が始まる。レポート記事を待たず、記憶が鮮明なうちに簡単に評を記しておきたい。
文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta
「若崎の40秒」、攻撃カード最後まで取り置いたベンチワークが最大の勝因
金鷲旗のような「足し算」ではない。まさに死命を分けたのが、ポイントゲッター若崎喜志の「決勝までの取り置き」。これが出来ずば決勝の勝者は東海大相模となり、国士舘の三冠達成はなかったものと読む。最大の勝因はこれ。優勝以外は要らないと割り切り、1戦カスタムでベスト布陣を敷くことにこだわった執念のベンチワークにあった。
コロナ感染に苦しい配列順、幾度も「誘惑」が袖を引いた
傍目には圧勝続きの国士舘だが、内実は傷だらけ。直前のインタビュー記事でお伝えした通り、金鷲旗大会直後に新型コロナが発生。全体で5名、レギュラー3名の感染が発覚して、1週間にわたって全体練習を閉じることを余儀なくされた。練習が再開出来たのは8月1日になってからで、追い込み・調整に掛けられる時間は他校の半分。まずコンディション調整で大きなハンデを負った形になった。
そして危惧されたのが後遺症だ。百瀬晃士監督は大会前に「見たところ動きは悪くないが、『試合のスタミナ』は違う。こればかりはやってみないとわからない」と繰り返し語っていたが、まさにその心配が的中した。レギュラーの感染者は、金鷲旗大会で既に症状が出ていた山本、竹吉瑞樹、そしてエースの畠山凱の3人。全員、明らかに動きが良くなかった。
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