※座談会は2025年5月6日(2回戦まで)・15日(3回戦以降)に開催されました。
(④二回戦(下)からつづく)
目次
- 三回戦
- 中野寛太(推薦・旭化成)○優勢[有効・小内刈]△ウルフアロン(九州・パーク24)
- 木元拓人(東京・日本製鉄)○崩上四方固(3:07)△橋本壮市(推薦・パーク24)
- 香川大吾(東京・ALSOK)○優勢[僅差3-0]△高木育純(四国・香川県警察)
- 太田彪雅(東京・旭化成)○優勢[技あり・内股]△平野匠啓(関東・天理大1年)
- 原沢久喜(推薦・長府工産)○優勢[僅差3-0]△影浦心(東京・日本中央競馬会)
- 上林山裕馬(九州・福岡県警察)○優勢[僅差3-0]△鈴木太陽(近畿・日本製鉄)
- 佐藤和哉(東京・日本製鉄)○優勢[僅差3-0]△新田朋哉(近畿・天理大4年)
- 増山香補(東京・パーク24)○優勢[僅差3-0]△中村俊太(東京・センコー)
三回戦
中野寛太(推薦・旭化成)○優勢[有効・小内刈]△ウルフアロン(九州・パーク24)

古田 さあ、大一番です。中野寛太選手対ウルフアロン選手。上水先生、お願いいたします。
上水 ウルフ選手が中野選手に対してどう戦うか、その作戦に注目していました。個人的な感想としては、ウルフ選手の戦い方に迷いがあったように見受けました。接近戦で少し場を荒らしにいくような試合をすると読んでいたんですが、そこまでは詰めず、かといって距離を取りたいというような戦い方でもなかった。コンディションも含め、彼の今の状態では、これが精いっぱいだったのかなとは思いました。どんな戦いになるにせよ、彼であればもっと焦点の定まった戦い方をすると思っていました。この点で言えば、本来の彼ならもう少し出来たのではないかな、という感想です。
古田 なるほど。当方も現場でメモを取りながら、ウルフ選手のいい時のような「この試合はこうする」という確たる方針が見えない、彼としては珍しい戦い方だなとは思っていました。
上水 中野選手がそれをやらせなかったということだと思います。ウルフ選手としてはもう少し馬力を出すような試合と言いますか、もっと詰めて近い間合いで戦いたかったはず。しかし中野選手は対策を十分考えていて、ウルフ選手を近づけさせなかった。そして先に組み際の小内刈で上手く転がして、あとはなるべくウルフ選手の土俵に乗らないように手堅く、距離を取って振舞った。非常にクレバーな戦い方でしたね。中野選手の作戦通りに進んだ試合だったと思います。
古田 ウルフ選手は聡いから、中野選手が接近戦の対策をしてきたであろうことも感じただろうし、いまの地力でくっついたらきつい、ということを、自ら察知してしまって少し大人しくなってしまったという気配も感じます。・・・西森さん、いかがでしょう。
西森 上水先生と同じ印象です。ウルフ選手が事前に決めていた方針を以て自ら動くのではなく、中野選手の出方も窺いながら、どう戦うかを探りながら入った、しかしその段階で中野選手に先に小内刈で転がされて、ポイントを失ってしまった。この2人くらいのレベルになると、たとえ残り時間が3分半あったとしても、ポイントが1つあればもうクロージングを意識して動きます。中野選手は払釣込足をうまく使い、ウルフ選手の土俵に近づかず、そしてウルフ選手の側は、距離を取って来る中野選手に対して力づくで接近戦に持ち込むような、往年ほどのパワフルさはなかった。やはり最初の小内刈のポイントが、非常に大きく影響してしまったと思いました。後でトピックとしてあらためて語ることになるかもしれませんが、判定が導入されて2年目。今回は、各選手とも試合時間5分をどう使って「表現」するかを相当戦略の中に練り込んで来ていた。当然ながら、早い段階のポイントがそのまま勝敗を左右するという試合が多くなったという印象です。この試合も、その1つだったかなと。
古田 いまのトップ選手が持つ手札、動員する技術ユニットの数と精度は半端ないですからね。どの技術にどの機能があるかをしっかり理解して、きちんとそれを使いこなす。リードした一流選手が、「させない」「止める」「流す」「塩漬ける」とスローダウン方向の手札を適切に切れば、逆転は本当に困難です。・・・朝飛先生、いかがでしょう。

朝飛 中野選手の「肩振り」のうまさはこの座談会でもよく話題にあがりますが、この試合にもその体捌きのうまさ、非常によく表れていましたね。組み際であっても、足を使って相手の重心をコントロールしている。あの小内刈も引き手だけしか持っていないのですが、ステップを「入れるか入れないか」というあの動作で、反応したウルフ選手が僅かに腰を切り、足を下げようとする。その「砕ける」瞬間を捉えているんですよね。重量級選手ですが、軽量級なみに組み際も出来る。組めばもちろん強いが、手札が他にもある。いまの時代にトップにいる選手というのはやはり凄いと思わされました。ウルフ選手については、どう追いかけるかを楽しみに見ていましたが、ここまでの試合の疲労もかなりあったのではないかと思います。それでも帯を持って勝負する場面を何度か作りましたし、得意の大内刈、さらに「やぐら投げ」のような技で大きく振る場面も見せてくれましたが、中野選手は崩れなかった。体自体の土台の強さを感じましたし、かなり研究もして来たのだろうと思います。ウルフ選手は、九州大会からここまでかなり作り込んで来たことがうかがえましたが、中野選手が強かったですね。
古田 ありがとうございます。持って戦う天理柔道、実は「持つ前」も強かったと。
西森 ウルフ選手。引き手で帯を掴む大内刈は、優勝した平成31年大会(2019年)で、小川雄勢選手を相手に仕掛けていましたよね。
古田 私たちが「ウルフ大内」と呼ぶ技法ですね。

朝飛 あれは凄かった。直前に王子谷選手と長い時間を戦った後でもう力が残っていないと見えたのですが、それでも投げに行った。「組んだ瞬間に、投げたいと思った」と後で話していました。何度か転がして、「指導」も積んで、そのままでも勝ちに持っていけるのに、その上で「投げて終わらせたい」と。全日本を取るにふさわしい気構えだと思いました。
上水 6年前ですね。さすがにあの時と比べるとやっぱり、明らかにコンディションが違いますよね。足がついていかない。
古田 上水先生、往年のウルフ選手がいまの中野選手に勝つとなれば、どんな形だったでしょう。やはり接近して大内刈?
上水 おそらく支釣込足でしょうね。練習で支釣込足、あるいはそれに近い振りの浮落で投げているのを何度か見たことがあります。・・・ウルフ選手、今回は中野選手の逆の小内刈、つまり右の小内刈をかなり気にしていたんですよね。しかしなかなか出してこず、決まったのは左の小内刈。こういう駆け引きの妙もありました。ただ、一番根本的なところとしては、ウルフ選手が「入ってから追えない」という状況。この前提が戦い方を苦しくしたと思います。
古田 「くっついて入りさえすれば最後は投げれる」という前提ですね。このゴールがないと試合が組み立てられない。・・・また、ウルフ選手は相手に距離を取られているときや圧力がかかり切っていないときでも、まず作用足を差し入れて、追いかけながら組み手を深くして圧力をかけることをやりますよね。大きい選手やパワーが上の選手を相手にしたときのやり口ですけど、これが出来るところまではコンディションが整わなかった。
ウルフアロン引退、そして”東海大学“という場
古田 ・・・ありがとうございます。さて、ウルフ選手は本人曰く「個人戦はこれが最後」ということで、ここで全日本選手権も去ることとなりました。6月の実業団体で現役引退ということになります。全日本選手権、オリンピック、世界選手権の「三冠」を極めたスターの区切り。上水先生からひとこと、頂ければと思いますが。

上水 「三冠」、本当によく取ってくれました。歴代の強者と肩を並べる名選手になってくれたこと、素直に嬉しく思います。去年は羽賀選手、今年は王子谷選手に続いて、ウルフ選手も一線を退く。陽はいつか沈むんだなと、少し寂しい思いです。新たに昇ってくる陽もあるわけですが、盛者必衰、時の流れを感じさせられます。自分も歳をとったなと思いますが、自分のなかでは、彼ら教え子は皆どこまで行っても「若い」んですよね。学生時代のイメージが強い。そして彼らには本当に色々な経験をさせてもらって、成長させてもらった。本当にありがたかったなと思います。ウルフ選手にもあらためてお礼を言いたいですね。
古田 3人それぞれがまったく違うタイプの王者であることに、「上水東海」の奥深さを感じます。・・・朝飛先生、ウルフ選手の話題を続けてしまうんですけど。私は小5、小6の時のウルフ選手の試合や春日柔道クラブでの練習を見ていて、ここまでの大物になるとは予想していなかった。意外にこういう選手が多くて、私、自分の「見る目」に自信を失っているところなのですが、少年柔道のフロントで幾多の大物選手を子どもの頃から観察している朝飛先生は、ウルフ選手がここまで強くなると、当時思っていましたか?
朝飛 いや、ここまでとは思っていませんでしたね。同じ春日柔道クラブ・東海大浦安高のベイカー茉秋選手についても同じくです。
古田 もちろん2人とも小学生の頃から既にかなり強い選手ではあったんですが、
朝飛 そうですね。2人とも強かったんですが、なんというか、“柔道柔道”していなかったですね。むしろ同級生の仲間たちのほうに、早い段階から本格的に柔道に取り組んでいる子が目立っていた印象です。2人とも、東海大浦安高校に進んで、柔道への情熱が燃え上がったという感じでしたね。
古田 2人とも高校1年から2年の1年間、半端ではない成長でしたね。
朝飛 あの情熱は「別格」と言ってよかったと思います。トレーニング、柔道と、自分がやらなければいけないことを見つけ出すのが凄く上手いと思いました。強さはもちろん、頭の良さを感じることが非常に多かったですね。2人は、高校柔道でも体幹トレーニングや筋力トレーニングを並行してやってうまく柔道に取り入れる、その流れを作ったとも思います。
古田 単に物凄く強かっただけでなく、東海大浦安高におけるベイカー・ウルフの2学年は、色々なものを切り開いた、ジュニア世代の柔道のエポックメイキングな学年でしたね。・・・ありがとうございます。
上水 指導者の私も、固定観念を、本当に根底から壊された選手たちですよ。
古田 いずれも東海大。「固定観念を壊される」文脈では髙藤直寿選手もいましたし、上水東海には一筋縄ではいかない個性が集まりましたね。
上水 それに、王子谷剛志。固定観念を持って接したら、この4名は、自分には到底指導出来なかったと思います。朝飛先生の言葉を借りると、我々はどうしても”柔道柔道“した柔道の考え方や振る舞いが染み込んでいるところがある。その殻を破って「こんな柔道もありなんだ」と認めないと指導出来ないタイプの選手たちだったんですね。
古田 みな、王子谷選手といえば「前進」と当たり前に言いますけど、あれ、革命的でしたよね。大外刈のイメージで一般社会的には王道的に語られることも多いのですが、まったく普通のやり方ではない。柔道以外の人から見てもわかりやすく異常なウルフ選手やベイカー選手、髙藤選手の柔道ほど派手に扱われないですが、異様でした。講道館杯でしたか、「あんなに前に出続けて、面白い。「直進行軍」だ。漫画みたいだ」と序盤戦で面白がっていたら、この前進をエンジンにどんどん勝ちを重ねていく。そこで私も青ざめる、というか「とんでもないことをやろうとしているのでは」と目を凝らして試合を見たことを覚えています。
上水 王子谷選手を預かって、私は凄く悩んだんですよね。徹底して前に出て距離を詰めるという、当時の常識ではアンタッチャブルなことをやらなければいけない選手だと思った。かなり迷った末に、2人で話し合って、これに賭けようと。
古田 あの時期、道場に稽古を見に来た「東海スポーツ」(東海大の学内メディア)の記者に上水先生が「新しいことをやっている。賭けだが、嵌ればこの選手は行くよ!」と話していたと、ずっと後になって当時の記者さんに聞きました。ああ、あれはやはり物凄い覚悟をもって始めた、新しいことだったんだなと。
上水 原沢選手の台頭で悩んだ時期もありましたが、4年生の時に勝って、自分で「これでいいんだ」と証明してくれましたからね。髙藤選手は髙藤選手で「こんな選手もいるのか」と常識を揺さぶられましたし、そうやって「固定観念にとらわれてはダメだ」と頑張っているときに、今度はベイカー選手とウルフ選手の2人が入って来たわけです。
古田 皆独自の。しかも新しいスタイルで王者になりましたね。
西森 一方で羽賀龍之介選手のような超王道がいて、吉田優也選手のような技の切れ味を前面に押し出すタイプもいた。個性の豊かさ、幅の広さが当時の東海大の強さですね。
朝飛 といいますか、上水先生の凄さですよね。その個性を消さない。上水先生は覚えられているかどうかわかりませんが、練習に伺ったときに、すごく肩車を得意にしている選手がいた。当時の肩車という技の立ち位置は、いまとは少し違って、
古田 「足を持たない肩車」の黎明期ですね。レアンドロ・クーニャあたりを走りとした。
朝飛 そうです。決して凄く肯定される主戦になるような技ではなかったのですが、それを多用していた選手を否定しない。むしろ面白がる。その時上水先生は「彼の肩車が上手くなればなるほど、練習で投げられる選手が増える。そうすると免疫が出来るから、全体が強いチームになる」と仰っていました。東海大はみな個性そのまま強くなるので、稽古を見ていて本当に面白いですよね。持ち味を消さない。終わってからも皆、先輩によく聞きに行っているし。
古田 よく「敢えて異物を入れる」「同族の血は腐る」と仰っていましたよね。そして、ウルフ選手に話を戻すと、彼の「IQ柔道」は、この環境でないとあそこまで完成度高くは仕上がらなかったと思います。頭の良い選手が、多様性のある環境に居たがゆえ、きちんと材料を得ていた。状況の意味づけ、動員するツールの開発。彼の才能と、環境がマッチしてこそのスタイルだったなと改めて思います。・・・そして上水東海の大きな特徴である「敢えて異物を入れる多様性」。この確立に、やはり「王子谷、ウルフ、ベイカー、髙藤」の存在はひときわ大きかったんですね。
上水 ここはすこし強制力もありまして。要は、彼らは附属高校から上がってきているので、異物を取り除けたくても取り除けなかった(笑)。もちろん私にも「柔道はこうあるべき」「こういう選手を育てたい」という理想があったんですけど、彼らはそれを「そんなものは必要ない」と思いっきり否定してくれた世代でした。こういう考え方もあるんだぞ、と教えてくれました。髙藤選手に関しては佐藤宣践先生から「あれは天才だから弄るな」と助言がありましたし、ベイカー選手とウルフ選手も「これを正攻法に戻すことに意味はない」と思わされた。彼らも私ももちろん苦しみましたし、批判されましたし壁に当たることもありましたけど、きちんと乗り越えて、凄い選手になってくれた。私はよく「王道」と「アウトロー」という言葉を使いますけど、それでいうとこのグループは「アウトロー」ですよね。「王道」は羽賀龍之介や村尾三四郎、もっというと井上康生、山下泰裕先生がいますが、彼らは王道を歩けばいい。ただ、みんながそこを歩けるわけではない。アウトローにも、自分のやり方がある、それを磨けばここまでの高みに行ける、と、彼らはそういうことを表現してくれた、代表的な選手ですね。
古田 ただ、放任ではないんですよね。「線」で選手を観察していると、きちんと柔道の大きな理を駆使して、個性を磨いていく。そのさまが面白い。このあと登場する橋本壮市選手などもこの系譜です。
上水 ベイカー選手はそのままベイカー選手でしたけど、ウルフ選手は若干修正を加えているんですよね。具体的には釣り手。彼はそれをきちんと使いこなした。大学4年生の世界選手権、リパルテリアニ選手を投げた大内刈は、まさにその釣り手の修正が生きてのものでした。そういう意味では、彼はハイブリッド的な感じもありましたね。
古田 この「理を動員して個性を伸ばす」のが上水東海だと、僕は捉えています。
西森 日本の女子が「メソッド柔道」で停滞していったこととは、好対照ですよね。いかに個性を生かして、さらに伸ばしていけるがが、指導者にとっては大きな課題なんだと、あらためて思いました。
古田 話は尽きませんが、次の試合に参りましょう。面白すぎて引っ張ってしまい、失礼しました。
木元拓人(東京・日本製鉄)○崩上四方固(3:07)△橋本壮市(推薦・パーク24)

古田 3回戦第2試合です。木元拓人選手が橋本壮市選手を崩上四方固「一本」。西森さんの方からお願いいたします。
西森 さすがに木元選手が相手となると、橋本選手の多彩な技も、あのリーチを前に空回りしてしまい、なかなか効果を表せなかった。3戦目ですから疲労も大きかったと思います。木元選手、最後の寝技良かったですね。軽量級選手がいちばんやられたくない、上から腕を取ってローラーのように圧を掛ける、七大学戦だと「腕取り返し」という呼び方をする技法です。あの攻めをされると軽い選手としては逃れようがない。木元選手、こういう寝技もやるんだなという発見がありました。そして橋本選手がよくぞここまで健闘したな、と称えたい試合でした。

古田 ありがとうございます。朝飛先生お願いいたします。
朝飛 木元選手の構え。手を敢えて上に挙げて、橋本選手に手首を絞らせないことを徹底していましたね。手が下に落ちながらの組み手争いがほとんどなかった。挙げて挙げて、挙げながら組み手を争っていたのが印象的でした。
古田 橋本選手の軸である引き手を与えなかったと。


朝飛 そうです。左手を持たせなかった。橋本選手は本当に頑張って自分のいいところを出していたのですが、木元選手がしっかり戦いましたね。そして私も彼の寝技には驚きました。1回橋本選手が立ち上がりかけたのですが、後ろから圧力をかけてもう1回潰して返した。その時には、順番を飛ばして、返したときにもう胸を付けにいっていましたね。「腕を括る」などではなく、敢えてそこは飛ばして自分の「大きさ」を利用した。相当勉強しているんだなと思いました。そして最後に、橋本選手の大暴れ。この大舞台で、素晴らしかった。
古田 橋本選手、「立派」という表現がふさわしいなと思いました。まさに立派な戦いぶりでした。上水先生、いかがでしたでしょう。
上水 技術的なところは西森さんや朝飛先生が語ってくださいましたのであまり話すことはないのですが、橋本選手、体力的に結構きつかったと思います。疲労はもちろんですが、やはり木元選手の地力ですね。あれだけ体が大きく地力のある相手が、自分がやろうとしたこと1つ1つに落ち着いて対処して潰して来る。これはきつかったと思います。寝技の巧さについても、木元選手の成長がよく見える一番でした。
古田 さきほど、黄金時代を作った東海大の「多様性」の話がありました。この流れでは世界チャンピオン橋本選手についても、言及頂かないわけにはいかない。ぜひお願いします。
上水 彼もアウトロー側の典型的な選手ですね。振り返ってみれば、王道の選手よりも、彼のような一癖二癖ある選手が東海大には多かったかもしれません。彼は右組みですが、右技より左技の方が圧倒的に上手かったんですよね。こんな選手もいるんだなと感心するところからスタートしました。たとえば右の体落を見ると全然うまくなく、頭から突っ込んでしまったりするのですが、左の大外刈が物凄く上手い。吉田優也選手と「お前どっちの選手だよ」とよく弄っていました。もう、34歳ですか。時の流れを感じますね。

古田 試合後の橋本選手のコメントは味がありました。最年長ということで、今大会は選手宣誓。「手が震えて、紙が広げられないくらい緊張した」と。凄くいい話ですよね。オンリーワンのオリジナルスタイルを作り上げて世界を取った、上水先生の言葉を借りれば「アウトロー」側の人が世界王者となり、オリンピックでメダルを獲り、重量級・王道の聖地でもある全日本柔道選手権の場に降臨して堂々の選手宣誓。そして「緊張で手が震えた」というこの大会へのリスペクトぶり。美しかったし、彼の感度の高さにも感動を覚えました。酸いも甘いも噛み分けたベテランだからこそ呼ぶ感動。良かったですよ、あの絵。
上水 漢字が読めるかどうか緊張していたのかもしれませんよ(笑)。試合よりも、文字読んで人前で発表する方が緊張するタイプですから。
古田 何言ってるんですか!(笑)
香川大吾(東京・ALSOK)○優勢[僅差3-0]△高木育純(四国・香川県警察)

古田 次の試合に参りたいと思います。香川大吾選手が高木育純選手を判定3-0で破った試合です。朝飛先生のほうからお願いします。
朝飛 高木選手は凄かった。前の2試合も良かったですが、この試合でも香川選手と真っ向組み合って、いい大内刈も入れた。相手が技に入って来ると小さく受けるのではなく、すかしたり、自分の技で解決しようとしている。あらためて格好いい選手だなと思いました。香川選手はやはり流れを作るのがうまい。大きな展開はもちろん、場外に出るときには自分が技を掛けるとか、細かいところも含めてですね。さきほど話した、高木選手の良い大内刈も、最後は香川選手が上になって寝技で攻めて相手の印象を消し込んでいる。結果、局面ごとに審判は高木選手に「指導」を出さざるを得なくなった。そして終わってみると全体としてはやはり香川選手に旗が上がる。もともと試合を読む力に優れた選手ですが、こういう勝負が出来るところでは、今日は行けるな、と思いました。これは太田選手との準々決勝がひときわ楽しみになってきたぞと、そう思えた一番でした。
古田 ありがとうございます。西森さん、お願いします。

西森 まずやはり、高木選手の健闘を称えたいと思います。重量級で相手をあしらうのが上手い香川選手に対して、朝飛先生も仰ったように「真っ向勝負」で5分戦い抜いた。堂々たる試合ぶりだったと思います。6回出場で、ここまで4勝。立派な「全日本男」ですよ。全日本は組み合わせも厳しくなりますし、複数回出ても「1勝」をあげるのが本当に難しい場ですが、この体格でなんと4回勝つ。凄いことだと思いますし、その理由がわかる、堂々たる戦いぶりでした。一方の香川選手は、小さい選手と戦うときに「やられそうな状況」を全く作らない。これが強みだなと思いました。理詰めで圧をかけていくオーソドックスなモードはもちろん、肩車から足を取って前進したり、軽量級がやられたら嫌なことを随所に織り交ぜて、試合をまとめていく。香川選手らしさを感じた試合でした。
古田 朝飛先生と西森さんが、オフで香川選手について「進化を止めずまだ強くなっている。いったいどんな稽古をしているんだろう」と話し合っていたことが思い出されます。建前なしの、リアルな実感ですよね。上水先生、お願いします。この試合の香川選手、いかがでしたか?
上水 高木選手の力を認めて、投げることよりも「試合に勝つ」ことに徹した試合でしたね。あの高木選手の足技、あるいは袖釣込腰を、万に一つも、一切食わない戦い方をしていた。凄く攻めたわけでもないのに、実際の「指導」差は3-1まで開いている。状況を作って、確実に勝つ。しかも次の試合も視野に入れている。語彙として適切かどうかはわかりませんが、ある種アイドリング状態で確実に勝ちを積み上げていました。冒頭古田さんが仰った「5分間をどう表現するか」、また西森さんが仰った「ルールが変わって2大会目で、皆戦い方を確立してきている」。ここですよね。まだ本当にアクセルを踏み込んでいない状況で、敢えて踏み込み過ぎず、状況を作り続ける。香川選手の成長を見ましたね。そしてそれだけ、高木選手は無理して取りに行くと危ない存在だったわけです。香川選手の戦い方から、逆説的に高木選手の強さ怖さがよく見えた。そういう試合でした。
古田 ありがとうございます。綺麗に納得のいくレビューでした。
太田彪雅(東京・旭化成)○優勢[技あり・内股]△平野匠啓(関東・天理大1年)

古田 次の試合に参りたいと思います。太田彪雅選手が平野匠啓選手に内股「技あり」で勝利。西森さんの方からお願いします。
西森 太田選手が内股で「技あり」を取るところまでは、やはりまだ力の差があるなというのが率直な感想でした。しかし、そこからの太田選手が少し良くなかった。取られた平野選手がそれまでの抑えた試合ぶりから一転、どんどん技を掛けるようになった。そして何度か、ポイントには繋がらないんですけど、すこし浮かせたりと良い技を掛けた。太田選手は、若い平野選手の自信に繋がる試合をさせてしまいましたね。優勝を目指す選手が、高校を卒業したばかりの選手に対してこういう試合をしていると、流れを失ってしまうのではないか。以前上水先生が仰っていた全日本の「風」が逃げていく。そんなことを思いました。平野選手はやはり力がある選手だなと実感しました。これからがますます楽しみです。
古田 ありがとうございます。朝飛先生、いかがでしょう。
朝飛 平野選手、強いですね。驚きました。関東選手選でも強いなと思ってたんですけども、想像以上でした。内股の場面は太田選手が完璧、相手の釣り手も殺して「10-0」に近い状態で入りました。さすがの技術でした。ただ、以後は平野選手の方に感心する場面が多かったですね。引き手が取れなかったら襟をもって前に煽って内股を掛けたり、片手の内股で浮かせたり、相手の潰れたところをめくりに行ったり。顔つきに「挑む」ではなく「倒す」という気迫が見えるんですよね。技にも嘘がない。1つ1つの技に、投げてやるぞという魂が入っている。試合を見ていて非常に面白い。もし、何かの差で勝敗が転べば、これをきっかけに一気にバンと行ってしまう。そのくらいのものを持っている選手だと思いました。
古田 ありがとうございます。あの「両手奥襟」などは中学時代によく使っていた戦型ですけど、言葉は悪いですが「殺しに行く」組み手ですよね。相手と自分をがっちり繋げて勝負する。本来むしろ上から目線でないと出来ない組み手です。太田選手と真っ向繋がって勝負、なかなか出来ませんよ。その気構えは見ている側にも伝わります。凄い迫力でしたね。敗れた平野選手の側のほうに、迫力・意地・可能性、そして「格」、そんなものを感じた試合でした。そして太田選手に対して「こんな試合をしていたら流れを逃すぞ」、これはおそらく多くの人が感じたのではないかと思いますが。上水先生、いかがでしょう。
![太田彪雅○優勢[技あり・内股]△平野匠啓](https://ejudo.info/wp-content/uploads/2026/04/20250429_REVIEW_GAME_035_01-960x720.jpg)
上水 前の試合で、初戦を見ただけで今日はダメだと思った、という話をしましたが、それがより、よく表れてしまった試合でした。先ほどの香川選手とは真逆です。強さどうこうではなく、試合全体をどうコントロールするかというビジョンが見えない。行き当たりばったり。彼の悪い試合の典型的な例だったと思います。投げるまでと、リードしたあとがまったくの別人。自分が何者で、どう振る舞うべきかということを理解していない。その上で、若い平野選手が向かってきてくれるのであれば、もう1回投げる、と自分の柔道を貫けばいいのに、「技あり」を取っているからと中途半端なクロージングに入ってどんどん相手を乗せてしまう。過去もあったケースです。太田選手の良くないところは、目線を相手に合わせてしまうこと。だから強者とやると強者の目線になるし、逆に自分より弱い相手に対するとわざわざ同じところまで降りて行ってしまう。人の良さと言ったらそれまでなんですけど、これは明らかに改善すべき、未熟な点です。平野選手の勢いは素晴らしかったですが、それを差し引いても、世界選手権重量級の日本代表がやるべきではない試合でした。これは試合後、かなり私が叱責したところです。ただ、先日のグランドスラム、どこでしたか、
古田 カザフスタンですね。全日本選手権のすぐあとでした。
上水 そうでした。アスタナのグランドスラムでは相手の目線に降りていかずに、自分のフィールドで試合をしていました。力の差はありましたが、自分らしさを出していた。少し改善したかなと思います。ただ、正直、世界選手権に向けてはまだ私どもも不安で一杯です、とそういう感じです。
古田 ありがとうございます。そうですね。あれだけ強いのですから、志を高く持って、それを押し付けて欲しかったなというのは見ていてすごく思いました。彼は、なんといっても、全日本選手権者ですからね。
原沢久喜(推薦・長府工産)○優勢[僅差3-0]△影浦心(東京・日本中央競馬会)

古田 続きまして第36試合、原沢久喜選手と影浦心選手の試合です。西森さんからお願いしてもよろしいでしょうか。
西森 はい、何度も対戦のあるふたりです。その中で、例えば展開として大きく予想を裏切るものがない、ある意味「順行運転」になってしまうとやっぱり影浦選手は不利なんですけど、その不利を、言葉は悪いですけど受け入れたまま終わってしまったという印象でした。逆に言うと原沢選手はもう、やるべきことを淡々と、丁寧に積み重ねていった試合だったと思います。内股を打ち、その内股は引き手で袖を持つときもあれば襟の時もあり、同じタイミングの小内刈も見せ、といいところをきちんと出して、一方の影浦選手がどうしても後手に回ってしまうという展開でした。影浦選手としては、勝つためにはどこかで勝負を掛ける場面があるべきではなかったかと、そこは少し勿体なく思います。
古田 朝飛先生、お願いいたします。

朝飛 釣り手が相手の首の後ろ、正中線を越えていても、技を掛けていれば認められる。手の長い選手は、背の低い選手に対して首を越えて深く持って、自分の方に寄せるという技術がどんどんうまくなっている。柔道衣の遊びをなくして、引き手襟で相手の頭を下げさせて、内股に入っていく。原沢選手にこの流れで攻められると、影浦選手は間合いを取る時間がない。影浦選手が押し込んでも、いまは場外指導がほとんどないので、原沢選手は押し返す必要がない。影浦選手としては押し返しを使った背負投に入れない。一方の原沢選手は場外に押されながらも内股を掛けて、むしろ攻勢の印象を取る。原沢選手がしっかりいまのルールと向き合って、準備して試合に臨んだんだなという印象を受けた試合でした。影浦選手は良いところを出せませんでしたね。
古田 ありがとうございます。上水先生、お願いします。
上水 影浦選手と原沢選手、最近はこういう試合が非常に多くなりましたね、かつては影浦選手がもっと懐に入っていって原沢選手に応じさせる、近い距離に入ることでハプニングを起こさせるという形で取り味を作っていたんですね。しかし今は原沢選手が、危険を感じさせる領域に入らないまま、入らせないまま、その外から技を打つようになっている。片手でも内股を仕掛けられますし、それで攻勢点が積み上がり、「指導」や判定で勝負を持っていかれてしまう。西森さん仰った通り、ここは影浦選手としては冒険をしないとダメだと思うんですよね。年齢を重ねてきて、かつてほどの冒険心を持てなくなって来た印象を受けます。試合の後本人にも少し話しました。自信をもって、相手に近い領域でやらなければいけないぞと。ベテランになってくるとどうしても安全なエリアで勝負したくなるものですが、原沢選手にとってはそれがもっともやりやすいというメカニズムがありました。本来は戦いの構造を理解して、そこから帰納して自分の振る舞いを決めないとダメです。さきほどの、太田選手と平野選手の試合に、凄く似ていると思いました。対応力、そして全体の構造を見て試合を組み立てる力があるかどうかですね。
古田 影浦選手、出世期はむしろ大胆なイメージもありました。
上水 そうなんです。影浦選手がテディ・リネールに勝った時。彼は、リネールの領域にわざと入っていく練習をしたんですよね。リネールは影浦選手の釣り手を絞って落としてしまう、どうやったら抱えるように持ってくれるかを考えたんですよ。そして、勝負どころで影浦選手に片襟を持たせたんですよね。ケンカ四つなのに片襟を持たせて、敢えて背中を取らせるような形に持ち込んで、そして内股すかしを狙って、掛けさせて、決めた。もちろんご存じの通りリネールのコンディションが良くなかったというのはありますが、あの試合の勝利はまさに「冒険心」の賜物だったわけです。リスクにふさわしいリターンを得た。あの冒険心が今、ない。だから彼の試合を見ていても、かつてほどのワクワク感を感じなくなっているんですよ。彼は、まだ出来ます。この先に期待したいですね。



古田 ありがとうございます。
西森 この大会、同じ原沢選手を相手に田嶋選手が物凄く「冒険心」を見せた。あれが大切ですよね。
古田 対リネール戦との対比。とても面白いレビューでした。ワクワク感が減っているなっていうのは3月の東京選手権で影浦選手の試合見たときにもすごく思いました。あとは「冒険」とは逆に、僕は「歩留まり」についても思うところがありました。内股系と担ぎ技系、今のルールであれば、本来的な相性は手数を積める背負投系の側にある。内股系は二本持たないと掛けられないが、片手基点でも掛けられる背負投系はどんどん技数を積めるので、歩留まり的に優位。これが基本構図だと思うのですが、考えてみると、影浦選手は、少なくとも現時点では片手の技をあまり使わない。逆の一本背負投はあまり用いないし、こちらとしてはルール改正を受けて「韓国背負い」があるのではと勝手に予想して観察していたのですが、そういうわけでもなかった。一方、原沢選手は片手でも内股を掛けて、大きく崩して、この技を組み手の段階を上げるブリッジに利用して次の技に繋げたり、それ自体で攻勢点を取ったり、あるいは着かせた片手を引き手で拾って投げにいったりする。ですから、この試合は、「両方持てないときにどちらが掛けるか」という関係が、常の内股系vs背負投系と逆転していたなと思います。・・・影浦選手が原沢選手戦に「韓国背負い」を持ち込もうとしていたという予想をしていたんですけどね。
上水 昔は打っていたんですよ。ただ、やはり技術って使っていない時間が長いと使えなくなっていくんですよね。
古田 なるほど、禁止期間の影響が大きかった。
上水 使うところまで練り込めなかったですね。本人も「打てなかった」と振り返っていました。そうなると、仰る通り原沢選手が楽になっていく。・・・ふと思ったのですが、古田さん、平野選手が原沢選手に少し似ていると仰っていましたが、あれ、雰囲気ではなく技ではないですかね。
古田 !
上水 そして、打って領域を取り戻す、取り返すところも似ている。
古田 なるほどです。「立ち姿」以上に確かに、そこ、似ていますね。面白い。
上林山裕馬(九州・福岡県警察)○優勢[僅差3-0]△鈴木太陽(近畿・日本製鉄)

ともに右組みの相四つ。ともに引き手で襟を高く持ち、釣り手の直し合いが続いてなかなか試合が動かず。1分16秒には双方に消極的試合姿勢の「指導」。続く1分47秒には「取り組まない」咎で「指導2」が与えられる。ここから上林山は支釣込足で前に崩して回り込んでの背中抱き、鈴木は釣り手の肘を上げながらの接近とそれぞれ手立てを繰り出す。2分38秒に組み負けて潰れた上林山に偽装攻撃の「指導3」が入るが、流れは支釣込足に手ごたえを見出して攻め続ける上林山の側。そして3分29秒、鈴木がまたもや肘を上げて大外刈で迫ると、狙いすました上林山が裏投。鈴木大きく崩れるも肘から落ちてノーポイント。しかしここまでの展開を考えれば決定的な「有効打」。以後も上林山が支釣込足で攻め、反則累積もタイまで戻して戦い終える。反則累積差はタイ、そしておそらく終盤の裏投が決定打。旗は上林山に揃った。(当日戦評・eJudo)
古田 続いての試合に参ります。第37試合、上林山裕馬選手と鈴木太陽選手の試合です。朝飛先生の方からお願いしてもよろしいでしょうか。
朝飛 はい。「かみばやしやま」、古田さんのこの発音でいいんですよね?「かんばやしやま」ではなく。
古田 全日本選手権のアナウンスに準じているのですが、上水先生、合っていますか?
上水 「かみ」でOKです。在学中、私も何度も「先生、かみばやしやまです」と注意されました(笑)
朝飛 強くなっていますね。もちろん学生の時も強かったですが、むしろ若々しくなっているような気すらします。福岡県警察はキャリアを重ねてから「もうひと伸び」があると感じさせられること多いのですが、彼などまさにそれに嵌る選手ですね。鈴木選手の出端をくじいての支釣込足に、首を抱えての浮落、さらに羽賀龍之介選手を思わせる「小内・大内」。相手が良いところを出す前に、丁寧に、1つずつ、先に技を積んでいく。鈴木選手と相四つがっぷりで戦って、旗を3本を揃えるというのは、相当な上手さがないと出来ないと思います。凄くしっかり、準備をしてきたんだなと感じ入りました。
古田 ありがとうございます。上水先生、お願いします。
上水 流れはずっと積んでいたと思うんですけど、なんと言ってもあの抱分というか、裏投ですよね。彼はあれが唯一の、…唯一と言ったら本人は怒るかもしれませんが、一番の得意技なんですよ。思いっきり体を捨てるので、かなり強烈なんです。あれがまた、いい時間帯で入りましたね。
古田 残り1分30秒。
上水 あれを出せるかな、と期待していたところ、よくぞ思い切ったという感じですね。残り時間で墓穴を掘るようなポカが出ないかハラハラしましたが、やはり、少し賢い戦い方が出来るようになってきましたね。朝飛先生が仰った通り、鈴木選手は強いですからね。5分間、彼を相手に最後まで隙を見せなかったのは大したもの。32歳、成熟を感じました。
古田 ありがとうございます。西森さんお願いします。
西森 古田さん 裏投の写真出たりしますか?
古田 すぐ出しますね。・・・これです
西森 いいですね、やっぱり。
古田 いい写真でしょう。厳選して2アングルから、こちらの、この瞬間を切り取らせていただきました。顔も角度もいい。「踏ん張っている」力感がすごい。
![上林山裕馬○優勢[僅差3-0]△鈴木太陽](https://ejudo.info/wp-content/uploads/2026/04/20250429_REVIEW_GAME_037-960x720.jpg)
西森 体格差のある対戦も面白いですが、重量級同士がっぷり、肉弾相打つ戦いも全日本選手権の魅力。かつての上川大樹選手対石井竜太選手であったりとか、上川大樹選手対西潟健太選手とか、全日本にはこういう系譜もあります。ベテラン上林山選手と若手の鈴木選手が繰り広げる、この「系譜」に連なる一番。興味深い試合でした。先に上林山選手に3つ目の「指導」が行ったことで鈴木選手がちょっとほっとしたというか、終わりを意識し始めたところであの裏投が出て、流れが変わってしまった。上林山選手はさすがでしたし、逆に鈴木選手としては少し若さというか、若いなりの勝負に対する甘さが出てしまったなと感じた試合でした。全体的に、清々しい試合だったなと思いました。
古田 西森さんも思われましたか。私も「指導」3つ目が入った時に、これ、少し鈴木選手安心していないか?あくまで相手の「偽装攻撃」で入った「指導」だぞ、油断すると何か起こるぞ、と心配しました。・・・やはり座談会、いいですね。そして「1試合場だけの試合」はいいですね。全員が同じものを同じ場所で見ている。あの雰囲気、機微まで共有出来て話せるのはまさに全日本ですよ。「しゃぶりつくせる」大会です。
佐藤和哉(東京・日本製鉄)○優勢[僅差3-0]△新田朋哉(近畿・天理大4年)

古田 次の試合に参ります。佐藤和哉選手と、新田朋哉選手による一番。判定3-0でした。上水先生の方からお願いします。
上水 新田選手がしぶとく、とにかく佐藤選手に自由にさせていない印象でしたが、ここは年の功ではないですが、佐藤選手がさすがでしたね。最後の10秒で腹ばいにさせた足技、あれがやはり大きかった。このあたりは実にうまい。判定の醍醐味ではないですけど、少しでも知っている世代とそうでない世代では、差が出る場面があるだろうとは思っていました。これがまさにその試合でしたね。最後の最後に腹ばいにさせるとか、膝をつかせるとか、そういう大きなことを起こすと物凄く印象が強い。そしてそれをギリギリまで仕掛けない。敢えて違う部分を見せておいて、最後に一発かます。・・・昔もあったじゃないですか、旗判定の直前に逆の一本背負投を打ったり。
古田 皮膚感、ありますね!いまやなかなか思い出すこともないですが、定石として「最後の一発」はありましたからね。
上水 上村(春樹)先生が高木長之助先生と戦ったときに、逆方向の技に潜りましたよね。一本背負投でしたか。
西森 あの時は、逆のもろ手背負投だったかと。
古田 朝飛先生?
朝飛 … 私が話すと長くなりますよ?いいですか?(笑)
古田 ぜひお願いします。
朝飛 あの逆の背負投、1度も、打ち込みすらやったことがなかったそうです。でも、ここにチャンスがあるというのが見えたらしい。逆の、片襟。西森さんのおっしゃる通り、片襟のもろ手背負投でした。まさに、打ち込みもやったことがないだろうなという感じの入り方だったのですが、それでもあの技を打てたことで勝負が決まりましたね。
西森 井上康生さんの2度目の優勝時、棟田康幸選手との戦いがそんな感じでしたね。最後の最後に足払い。
古田 あの「腹ばい」の印象はまさに決定的でしたね。起死回生、観客ほぼ全員が「あ、流れが変わった」と思ったはずです。・・・先ほどの上水先生のお話でいうと、先日Xで、予想座談会に参加くださった垣田恭兵さんの投稿を思い出しました。「試合が終わって新田選手と話したんだけど、若い子にとっては判定ってやっぱり難しいみたいだね」という内容でした。上水先生のお話そのまんまだったので、びっくりしました。残り30秒に打つ強烈な技、皆、懐に「それ」用の技を飲んでいましたよね。
上水 そういう「判定」の周辺を凄く感じた試合でした。
古田 ありがとうございます。西森さんいかがでしょう。
西森 勝負についてはここまで語られた通りだと思うんですけど、新田選手が強くなっているなとすごく感じた試合でした。佐藤選手を相手に堂々の試合ぶりで、最後の小外刈がなかったら判定もどちらに転んだかわかりません。投げられることが想像できなかった。安定感があった。最上級生になったこれからの1年間でどれくらい伸びるのか、非常に期待させる試合だったと思います。
古田 天理大の4年生トリオは、この全日本選手権でまた一伸びしてそうですよね。では、朝飛先生、お願いします。

朝飛 同じことになりますが、新田選手強いですね。寝技に行って返しに行った場面など、かなりの度胸を感じました。最後の佐藤選手の小外刈を加味してなお、どちらに旗が上がるかわからないくらいの攻めをしていました。ただ、やはり最後にあの技を取っておく佐藤選手の凄さですね。大外刈で攻め続けて、最後の最後で小外刈。佐藤選手の凄さ、新田選手の急成長ぶり、このふたつを感じた試合でした。
増山香補(東京・パーク24)○優勢[僅差3-0]△中村俊太(東京・センコー)

中村が右、増山が左組みのケンカ四つ。組み止めて一発を狙いたい中村、動きながら担ぎ技を仕掛けたい増山という構図。大枠としては増山が担ぎ技で手数を積む形で試合が進む。1分58秒、中村の腰を切る動作に合わせて増山が左出足払を叩き入れ、畳に伏せさせる。一方の中村も3分2秒、増山の右背負投の戻り際に右大内刈を合わせ、大きく崩す。迎えた3分52秒、腰の差し合いから増山が左背負投。ポイントには至らぬも、高々と担ぎ上げ、勢い良く叩き落としたこの技の印象は強烈。増山もこの技のアドバンテージを意識したか、以降は淡々と担ぎ技を仕掛けて残り1分を戦い終える。手数・有効打ともに勝った増山に、旗3本が上がった。(当日戦評・eJudo)
古田 続いては増山香補選手と中村俊太選手の一番です。結果は判定3-0。西森さんの方からお願いしてもよろしいでしょうか。
西森 これも好試合でしたね。増山選手、年齢は上がってきましたけれども、非常に若々しさを感じます。互いに攻め合ういい試合でした。中村選手は得意の大内刈、増山選手は小外刈に背負投と繰り出したんですけど、先ほど古田さんも話していた通り、背負投系と内股系のケンカ四つということで、背負投系の増山選手のほうが先に攻める機会が多かったと感じます。後半は中村選手に掛けさせて、そこを起点にまた担ぎ上げて大きく回すとか、印象の上でも大きく優勢となりましたね。
古田 ありがとうございます。続きまして朝飛先生、お願いします。
朝飛 中村選手のバランスの良さに感心しました。斜めからの大内刈で増山選手をこかせた場面など、かなり面白かった。組み手も、引き手襟、釣り手上と使いこなして、一番好きな形でなくても相手にダメージを与えていましたね。そしてなんといっても増山選手の背負投ですね。中村選手が斜めに押すと、入らせたまま自分が背負投に入るんですよね。お尻とお尻をぶつけるように担ぎ上げる。あの背負投をやる人はなかなかいない。あとは、釣り手の使い方がうまかったですね。「待て」が掛かったところで、釣り手が相手の襟に絡まって抜けなかった場面がありました。あんなシーン、私の柔道人生では1度も見たことがない。よっぽど幅広く釣り手を使わないと、ああはなりませんよ。
古田 さすがの注目ポイント!ありがとうございます。上水先生、お願いいたします。

上水 増山選手の背負投のバリエーションですよね。この後佐藤選手との試合でも見せますけど、背負投から肩車の連携や、とにかく背負投を中心に自分は試合を組み立てられるんだと、あの自信に満ちた戦いぶりは凄い。朝飛先生の仰った、お尻とお尻をくっつけるような形で担ぎ上げる背負投。普通はあんなに強引に掛けると肘を痛めてしまうのではないかと思いますが、痛めない掛け方をしているんですよね。もともとの肩関節の柔らかさもあるとは思うのですが、手首の使い方など相当考えています。非常に勉強になりました。本来やりにくいはずの中村選手に足を突っ込まれても、そのままどんどん担いでしまう。実に気風のいい柔道、見ていて非常に楽しかった。2回戦でもお話ししましたが、彼がまた元気になってくれたのは嬉しい。体重別でも、全日本でもまだまだ活躍出来ます。曲者としての存在感、存分に発揮してほしいですね。
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