【プレビュー】V候補筆頭は埼玉栄。迎え撃つ高校選手権王者大牟田、追いかける国士舘/令和4年度金鷲旗高校柔道大会・男子の部

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文責:古田英毅 
Text by Hideki Furuta

金鷲旗高校柔道大会
2019年大会の開会式。今回も同じ会場、福岡市総合体育館照葉積水アリーナで熱戦が繰り広げられる。

いよいよあす22日(金)、福岡市総合体育館照葉積水アリーナ(福岡市)で金鷲旗高校柔道大会の幕が切って落とされる。実に3年ぶりの開催、そして2週間後のインターハイに続く「夏の高校柔道」の開幕である。

令和4年度大会の特徴は、まずこれが今年度唯一の「抜き勝負」であること。3月の全国高校選手権はコロナ禍の影響のため今年限りの「点取り制×配列順変更自由」という特殊レギュレーションで行われており、この金鷲旗のほかに「抜き勝負」の全国大会はない。どころか、過去2年間金鷲旗が行われず(2020年、2021年大会は中止)、高校選手権もなかった(2020年は中止、2021年は個人戦のみ)ので、実は今代の選手はこれまで「抜き勝負」の経験がない。東北・近畿の選手は高校選手権のレギュレーション変更前に予選を戦った経験はあるが、「ガチンコの抜き戦を戦った経験がない」(国士舘高・百瀬晃士監督)のである。この点は、采配を振るう監督・コーチたちの戦略、そして抜き勝負の勘どころを方法論としてきっちり選手に落とし込める言語化能力が強く問われるところ。もちろん「絶対の大駒がいるチームが強い」という抜き勝負独特の法則は今大会も生きているが、このタイプのチームが少ない今回、各校がどう生徒を1つの方向にまとめるかに注目したい。

そして今年度大会最大の特徴は、日程の変更。最終日は4回戦からのスタート、実に64チームがワンデートーナメント、それも「抜き勝負×大将同士は引き分けなし」の厳しいレギュレーションで覇を競うことになるのだ。優勝に必要な勝利数はこの段階からさらに「6」。過酷この上ない。

この厳しい1日を勝ち抜くにあたり、まず考えられるのが前衛に強力な抜き役がいるチームが強いということ。それも出来ればその選手が交換可能な駒であることが望ましい。つまり選手層が厚いチームが強い。

日程の変更が導くもう1つの影響は、これは前段とは真逆で、選手自身の力が問われる戦いになるということ。「6連戦」では選手は無傷ではいられない。混戦の今年、おそらく全チームがかなり早い段階で後衛までを消費して、少なくとも副将までは消耗し切るはず。こうなるともはや采配云々ではない。ものをいうのは選手の精神力。選手の頑張りが戦略というステージを超える事態が度々出て来る。純戦力いかに高かろうと、鍛え込まれていないチームは決して上位には進めない。普段の錬成が、単に強くなるのみならず、精神面にきちんと食っているか、選手が畳に噛り付く底力を練るところまで届いているか、これが問われることになるだろう。

ここまで書いて。今年ただ1度の「抜き勝負」による全国大会、このレギュレーションにかなう有力校を炙り出してみる。

埼玉栄高。県予選決勝を戦ったこのオーダーは先鋒から杉野瑛星、坂口稜、新井道大、峰優月、平野匠啓。

「大駒がいるチームが強い」というこのレギュレーションの王道から導き出す優勝候補は埼玉栄高(埼玉)。インターハイ100kg級王者の新井道太と全国高校選手権王者の坂口稜というダブルエースを擁する。有力校が総合力型のチームばかりと言っていい今代にあって、異色の存在だ。坂口は強者だが、柔道的な属性はむしろ手堅さにあり、いわば「最強の止め役」。一方の新井は攻撃力抜群、今代最強の攻撃カードだ。最強の「盾」と「矛」であるこの2人の配置は間違いなく後衛。坂口副将で新井が大将なら「坂口に止められたらそこで試合が終る」恐怖に他校はおののき、逆に新井副将で坂口大将なら、上位対戦は消耗激しい敵方の中後衛に新井が単身斬りこみ、大暴れすることが予想される。この代は全国中学校大会を2連覇しており、「生徒が勝ち方を知っている」(川原篤監督)勝負に練れた代。前衛の抜き役ロールというところでも、昨年の全国中学校柔道大会最重量級を制した1年生・平野匠啓がいる。おそらく前衛で存分に働くはず。推せる理由が多い。

不安材料は、県予選にライバル校がおらず3月の高校選手権以降まだ修羅場を踏んでいないこと。この点、例えば「むしろ県予選だけにフォーカスしていた」(近野貞治監督)木更津総合高(千葉)や、極めて厳しい競り合いを制した国士舘高(東京)、ブロック大会を経験している大牟田高(福岡)や作陽高(岡山)らとは少々事情が違う。「夏にグッと強くなる」高校柔道のフィルタを潜れていない面がある。

もう1つの不安材料は対戦校が抱くイメージ。「新井・坂口神話」がかつてほどの力を持っていないことだ。相変わらず強いことは間違いないが、高校選手権前に他校が抱いていたあの恐怖感が少々減じている印象。これは高校選手権における団体戦の蹉跌(新井が73kg級の竹市裕亮に投げられてチームが敗退)、そして関東高校大会において「恐怖を続ける」手を採らず、チームの勝利が決まるとこの2枚が早々に鉾を収めて引き分けを良しとした手堅い戦略の影響もある。本来なら、この2人の像を大きくするだけ大きくして全国大会を迎えるべきだった。少なくとも後衛が盤面全体にらみを利かせることによる相手校の戦略の狂いはかつてよりは少ない。このあたりがどう影響するか。

高校選手権決勝を戦った大牟田のメンバー。この時は先鋒から山田伊織、森山耀介、竹市裕亮、熊谷諒也、三木望夢。
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