81kg級 優勝候補はグリガラシヴィリ、厳しい配置の藤原崇太郎は強豪と連戦
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一線級が揃ったハイレベル陣容。最注目選手の佐々木健志(ALSOK)は残念ながら欠場となったが、第1シードには2021年ブダペスト世界選手権銀メダリストのタト・グリガラシヴィリ(ジョージア)が座り、以下、2019年東京世界選手権王者のサギ・ムキ(イスラエル)、2018年バクー世界選手権銀メダリストの藤原崇太郎(旭化成)、ヴェダット・アルバイラク(トルコ)、シャロフィディン・ボルタボエフ(ウズベキスタン)と世界大会のメダリスト、あるいはそれに準ずるクラスの強豪がずらり名を連ねた。加えてギルヘルム・シミット(ブラジル)、2013年リオデジャネイロ世界選手権王者のロイク・ピエトリ(フランス)ら魅力的な選手が出場しており、非常に見応えのあるトーナメントが組まれている。
優勝候補はグリガラシヴィリ。担ぎ技と密着を使い分ける緩急自在の立技に展開力のある寝技と、こと攻撃力については階級内でも頭ひとつ抜けている。今大会は組み合わせにも恵まれており、ベスト4まではこれといった強豪との対戦はなし。反対側のプールCDが強豪が詰め込まれた激戦ブロックで消耗必至であることも考慮すれば、優勝の可能性はかなり高いと言って良いだろう。
日本代表の藤原は第6シードとしてプールDに配され、初戦(2回戦)でゼベダ・レフヴィアシヴィリ(セルビア)、準々決勝でアルバイラク、準決勝でボルタボエフ、あるいはムキとの対戦が濃厚。ベスト8以降はいずれも世界大会上位ラウンドクラスの強豪と対戦せねばならない過酷な組み合わせを引いた。とはいえ、国内の序列争いのライバルは五輪王者の永瀬貴規(旭化成)と昨年のグランドスラム・パリを圧勝していまや純実力は世界一とも噂される佐々木。難易度の高いミッションではあるが、今年の世界選手権出場を目指すために求められるのはやはり優勝だ。最近の国内外での戦いを見る限り単純なブラッシュアップ以上の変化が必要なことは明白。前回の出場となった昨年10月のグランドスラム・パリから約3ヶ月半、どのような方向性の上積みを得たのかに注目したい。
ほか、注目要素としてはムキの出来を挙げておきたい。東京五輪前は負傷や疲労の影響からか明らかに調子を落としていたが、約半年の休養期間経てどの程度復活しているのか。準々決勝のボルタボエフ戦は必見だ。
【プールA】
第1シード:タト・グリガラシヴィリ(ジョージア)
第8シード:フランソア・グーティエ=ドラパウ(カナダ)
有力選手:ティジ・ニャミエン(フランス)
【プールB】
第4シード:サミ・シュシ(ベルギー)
第5シード:ギルヘルム・シミット(ブラジル)
【プールC】
第2シード:シャロフィディン・ボルタボエフ(ウズベキスタン)
第7シード:サギ・ムキ(イスラエル)
有力選手:キム・ジョンフン(韓国)
【プールD】
第3シード:ヴェダット・アルバイラク(トルコ)
第6シード:藤原崇太郎(旭化成)
有力選手:ロイク・ピエトリ(フランス)、ゼベダ・レフヴィアシヴィリ(セルビア)
90kg級 トーナメントはハイレベルかつ混戦、村尾三四郎は準々決勝で過去2戦2敗のボボノフに挑む
(エントリー23名)
強豪多数の激戦階級。世界王者の参戦こそないが、2021年ブダペスト世界選手権銀メダリストのダヴラト・ボボノフ(ウズベキスタン)にベカ・グヴィニアシヴィリ(ジョージア)、村尾三四郎(東海大3年)、ママダリ・メフディエフ(アゼルバイジャン)、ミハエル・ツガンク(トルコ)、ルカ・マイスラゼ(ジョージア)、イワン=フェリペ・シルバ=モラレス(キューバ)と世界大会表彰台クラスの実力者が多く顔を揃えた。ほかにも階級を上げるなり先週のグランプリ・ポルトガルで2位を獲得したクリスティアン・パルラーティ(イタリア)やコムロンショフ・ウストピリヨン(タジキスタン)など、力のある選手が多数エントリーしている。当初出場予定だった東京五輪日本代表の向翔一郎(ALSOK)は直前で欠場となったが、それを差し引いても十分に見応えのある陣容となっている。
最近の実績から見た優勝候補は第1シードのボボノフ。とはいえ、上記に名前を挙げた選手に決定的な力の差はない。組み合わせやコンディション次第で誰が勝ち上がってもおかしくない、全員にチャンスのある「ハイレベルな混戦」と定義して良いだろう。ベスト8以降は世界大会上位対戦クラスの好カードの連続。後追いのアーカイブ視聴でも良いので、全試合チェックしておきたい。
日本代表の村尾は準々決勝で過去2敗と全敗のボボノフとの対戦が組まれた。世界王者を目指すのであれば同じ相手に3連敗するわけにはいかない。ここで勝利、それも出来れば「指導」累積による反則ではなく、技による決着でリベンジを果たしたいところ。前回の対戦となった昨年のブダペスト世界選手権では、相手のペースに嵌められ不用意に「指導2」を背負った末、相手の内股を跨ぎ返した動作が立ち姿勢から関節を取ったと見なされて「指導3」を失って敗れている。今回はいかに最初から試合の主導権を握って戦えるかがひとつのポイントだ。昨年5月のグランドスラム・カザンでは圧勝で優勝を飾った村尾だが、以降は周囲の徹底マークのためにブダペスト世界選手権(2回戦敗退)、グランドスラム・パリ(5位)と思うように成績を残せていない。果たしてこの停滞を抜け出すためにどのような解を持ち込むのか。その戦いぶりに注目だ。
【プールA】
第1シード:ダヴラト・ボボノフ(ウズベキスタン)
第8シード:村尾三四郎(東海大3年)
有力選手:フランシス・ダミエ(フランス)
【プールB】
第4シード:コムロンショフ・ウストピリヨン(タジキスタン)
第5シード:ルカ・マイスラゼ(ジョージア)
有力選手:クリスティアン・パルラーティ(イタリア)、ダヴィド・クラメルト(チェコ)、ダニエル・ディチェフ(ブルガリア)
【プールC】
第2シード:ママダリ・メフディエフ(アゼルバイジャン)
第7シード:ミハエル・ツガンク(トルコ)
有力選手:ラファエル・マセド(ブラジル)、アブデラフマネ・ベナマディ(アルジェリア)
【プールD】
第3シード:ベカ・グヴィニアシヴィリ(ジョージア)
第6シード:ニコラス・ムンガイ(イタリア)
有力選手:イワン=フェリペ・シルバ=モラレス(キューバ)
100kg級 復活期す飯田健太郎はオランダ勢と連戦、注目対決は大巨人ツロボエフとシェラザディシヴィリによる2回戦
(エントリー21名)
強豪のレベルとしては81kg級や90kg級には劣るものの、マイケル・コレル(オランダ)、ペテル・パルチク(イスラエル)、ゼリム・コツォイエフ(アゼルバイジャン)、トマ・ニキフォロフ(ベルギー)、飯田健太郎(旭化成)ら世界大会メダルクラスの強豪が多数参戦。ここにムザファルベク・ツロボエフ(ウズベキスタン)、アレクサンドル・イディー(フランス)、シメオン・カタリナ(オランダ)らの上位陣、アスレイ・ゴンザレス(ルーマニア)、ニコロス・シェラザディシヴィリ(スペイン)、クセル・クレルジェ(フランス)ら90kg級からの転向組も加わり、層の厚い見応えのあるトーナメントが組まれた。
実績、実力ともに飛び抜けた選手はおらず、この階級も90kg級と同様に有力選手全員にチャンスのある「ハイレベルな混戦」。シードから漏れた強豪が多く、序盤戦から有力選手同士がぶつかり続ける展開になる。
日本代表の飯田は初戦でウォン・ジョンフン(韓国)に勝利すると、以降は2回戦でカタリナ、準々決勝コレルとオランダ勢と連戦することになる。国内大会では圧倒的な強さで勝ち続けている飯田だが、国際大会は2019年10月のグランドスラム・ブラジリアを制して以来5大会連続で優勝を逃している。その最大の因は組み手や試合運びの詰めの甘さ。飯田はフィジカルモンスター打ち揃う100kg級の中では決してパワーがある方ではないが、その割に試合の中で相手の力勝負に応じてしまう場面が多い。また、また日本勢の多くに共通することだが、不用意に「指導」を背負ってしまい、相手のペースに乗ったまま無理やり勝負に出ざるを得ないことも多い。これは飯田も自覚しているはずで、相応のリソースを割いて対策をしていると思われる。投げの成否や勝敗はもちろん、いかに隙なく、鈴木桂治監督の言葉を借りれば「ソツなく」戦えるかにも注目したい。今回も優勝を逃すようだと、少なくとも国際大会の実績という面での飯田のアドバンテージはほぼなくなることになる。パリ五輪を考えるとまさにキャリアの正念場。気合の入った戦いぶり、そして明確に進化が見える内容に期待したい。2回戦で対戦するカタリナはまさに、苦手としている密着一発勝負が得意な相手。まずはこの試合に注目だ。
海外勢の対戦で注目したいのは、順当ならば2回戦で実現するツロボエフvsシェラザディシヴィリのカード。90kg級時代は昨年も含めて2度世界を制しているシェラザディシヴィリだが、先週のグランプリ・ポルトガルでは1回戦で国際大会ではそれほど実績のないオドバータル・ハンガル(モンゴル)を相手に大苦戦。最後は内股「一本」で敗れてしまっている。階級が上がったことによる地力の差もあるが、最も印象的だったのは高さそれ自体が最大の武器だったシェラザディシヴィリがそれほど長身なイメージのないハンガル相手でも身長差によるアドバンテージを作れなかったこと。ご存知の通りツロボエフは身長2メートルを超える大巨人。この最も相性的に苦しい相手にシェラザディシヴィリがどのような戦法で挑むのか。この選手の100kg級での活躍を占う意味でも非常に興味深い一番だ。とはいえ、先週の戦いぶりを見る限り、そもそも1回戦のセドリック・オリヴァ(フランス)に勝てるかどうか。オリヴァは表彰台の経験こそ少ないが、密着勝負での強さはなかなかのもの。昨年はラシャ・ベカウリ(ジョージア)、飯田と有力選手を破っている怖い相手でもある。まずはこの初戦、シェラザディシヴィリが先週の経験を踏まえてどのように戦い方を調整していくるのかに注目したい。
【プールA】
第1シード:トマ・ニキフォロフ(ベルギー)
第8シード:アレクサンドル・イディー(フランス)
有力選手:バットフヤグ・ゴンチグスレン(モンゴル)、ダニエル・アイヒ(スイス)
【プールB】
第4シード:マイケル・コレル(オランダ)
第5シード:シメオン・カタリナ(オランダ)
有力選手:アクセル・クレルジェ(フランス)、ズラトコ・クムリッチ(クロアチア)
日本代表選手:飯田健太郎(旭化成)
【プールC】
第2シード:ペテル・パルチク(イスラエル)
第7シード:ラファエル・ブザカリニ(ブラジル)
有力選手:アスレイ・ゴンザレス(ルーマニア)、ボリス・ゲルギエフ(ブルガリア)
【プールD】
第3シード:ゼリム・コツォイエフ(アゼルバイジャン)
第6シード:ムザファルベク・ツロボエフ(ウズベキスタン)
有力選手:ピオトル・クチェラ(ポーランド)、ニコロス・シェラザディシヴィリ(スペイン)、セドリック・オリヴァ(フランス)
100kg超級 強豪の参加はわずか、影浦心とキム・ミンジョンの決勝に注目
(エントリー16名)
同日に行われる他の3階級と比べると強豪の参加は少ない。当初エントリーしていた東京五輪日本代表の原沢久喜も直前で出場を見送り、伝統あるグランドスラム・パリの名を冠するには少々寂しい顔ぶれとなった。一線級は第1シードで2021年ブダペスト世界選手権王者の影浦心(日本中央競馬会)と第2シードで2019年東京世界選手権3位のキム・ミンジョン(韓国)のみ。この両者による決勝が既定路線だ。
影浦は2回戦の相手に爆発力があるジョセフ・テヘック(フランス)が置かれているものの、よほどのことがない限りベスト4進出はまず確実。準決勝では昨年のグランドスラム・アブダビでワールドツアー初優勝を飾った天理大4年のオドフー・ツェツェンツェンゲル(モンゴル)と昨年のブダペスト世界選手権で苦戦を強いられたマルティ・プーマライネン(フィンランド)の勝者を畳に迎えることになる。プーマライネンは同じ担ぎ技系を苦手とする影浦にとってはやや戦いにくい相手ではあるが、実力的にはどちらも差のある相手。仮に苦戦することがあっても勝ち上がり自体は問題ないだろう。
影浦は直近の出場となった昨年の全日本選手権大会において、垣田恭兵(旭化成)の組み合うなり技を仕掛ける早い技出しに対応できず「指導3」の反則で敗れている。決勝での対戦が予想されるキムは垣田ほどの試合巧者ではないが、同じくやはり担ぎ技を軸としており、頭が良く、試合の展開を作るのも上手い相手。キムには先手攻撃の「指導」狙いで戦うイメージはないが、もし仕掛けられたときに影浦がどのような手立てで応じるのかには注目だ。影浦とキムは過去影浦が3勝と一方的に勝ち越しているカード。最後の対戦は2019年だが、実力は現在も影浦に分があると思われる。ペースを崩さずに戦いさえすれば問題なく勝利できるだろう。まずはここで確実に優勝を飾り、苦い敗戦のイメージを払拭しておきたい。
【プールA】
第1シード:影浦心(日本中央競馬会)
第8シード:ジョセフ・テヘック(フランス)
【プールB】
第4シード:オドフー・ツェツェンツェンゲル(モンゴル)
第5シード:マルティ・プーマライネン(フィンランド)
【プールC】
第2シード:キム・ミンジョン(韓国)
第7シード:アンディー・グランダ(キューバ)
有力選手:ヤヴァド・マージュブ(IJF)
【プールD】
第3シード:ウシャンギ・コカウリ(アゼルバイジャン)
第6シード:ムバグニク・ンジャイ(セネガル)
→グランドスラム・パリ2022組み合わせ
→男女14階級みどころ
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文責:小林大悟・eJudo編集部
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