【eJudo’s EYE】いちばん面白かったのはこの階級!今年も試みる「各階級採点表」/タシケント世界柔道選手権2022

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地元で金メダルを決めた90kg級のダヴラト・ボボノフが、イリアス・イリアディスコーチと握手。

文責:古田英毅
text by Hideki Furuta

2021年ハンガリー世界選手権で総括として試みた「各階級採点表」が好評だったので、今回も簡単に書いてみたい。これはあくまで遊び。面白かったか、楽しかったか、役者は十分か、ドラマはあったか、こういう視点に最後にちょっぴり「競技レベル」を加えて点をつけるという、「見る専」ファン視点の主観的備忘録である。

そして。これを書くにあたり昨年のハンガリー世界選手権の「採点表」を見返してみたのだが、あらためて、今回とは大会のテンションにかなりの差があったことに驚かされた。急遽の開催となったあの大会は意外にも、相当に面白かった。五輪直前で盛り上がりに欠けるのではと心配されたのであったが、蓋を開けてみるとまさにその五輪クオリファイ当落を掛けた戦いに、五輪出場を逃がした超大物の意地の戴冠(たとえば丸山城志郎)、ノリノリの連覇(たとえばフォンセカ)、そして涙なしには観られない57kg級カナダ五輪代表争いの大どんでん返しと、さまざまな方向に感情を揺さぶってくる、とにかく熱量の絶対値が高い大会であった。

比ぶるに。ワールドツアー大会としては十分以上に面白かったタシケント大会であるが、歴代世界選手権の中でどうかという視点で見ればやはり「五輪翌年の大会だった」という一段低めの総括は免れない。面子(これはロシアの欠場もあるが)、緊張感、人生掛けたドラマの有無、こういうところで他大会にはどうしても一歩譲る印象だ。階級によって事情は様々だが、例えば優勝候補が全員世界王者経験者で「まだ獲っていないものの渇望」が薄かったり、逆に五輪後デビューでまだワールドツアーで己の拠って立つ「文脈」を確立していないものが多数上位を占めたり、単純に五輪後大物がごっそり抜けてまだ生態系が回復していなかったり、どの階級も期待された高みまでは上り詰められなかったという印象。同じく五輪翌年に行われた2017年ブダペスト世界選手権よりは熱量高かったが、たとえば2019年東京大会、2021年ハンガリー大会とは同じ土俵で比較することが難しいくらい。やはり端境期の大会ではあったのである。どちらかというと「パリ五輪まであと2年」ではなく「東京五輪の1年後」というアスペクトが濃く出た大会であったと感じる。選手個々、そして全体に熱量が少し足りなかった。

抱える熱量と渇望。平均値が下がる中にあって、より大きくこれを抱えたものが勝つというベースラインは1つ明確にあったと思う。この見立てからすれば90kg級のボボノフと100kg級のムザファルベク・ツロボエフによる地元ウズベキスタン勢2夜連続優勝はなるほど納得出来る事象であるし、昨年と同カードになった81kg級決勝の勝者が「無冠の帝王」グリガラシヴィリの側であったことも綺麗に飲み込める。78kg超級ホマーヌ・ディッコは「蓋」である世界王者2人の欠場を受けてもはや優勝することでしか己の価値を証明出来ない実は背水の陣であったし、これはドーピング問題を受けて五輪2連覇に挑戦することすら許されなかった57kg級ラファエラ・シウバにも当てはまる。全体の熱量が少し欠ける中、優勝したものたちはひときわ大きく、そしてストーリーとしてわかりやすく「熱量と渇望」を抱えたものたちだった。

というわけで。各階級一言づつ、短い評のみを入れて採点していく。ハンガリー大会のような楽しい評にはならない気がするが、2024年に「東京からのこれまで」を振り返る際に備忘録として生きてくるのではないかと思う。おそらく、後世振り返ったときに初めて「文脈」として浮かび上がることも多い大会であるはずだ。

あともう1つだけ、さきほどの「熱量」でいうと。いま軽々に語るべきシナリオではないが、この先ロシアが戻って来ることがあるとすれば、とんでもないものが生まれてくるのではないかと思う。

男子60kg級 5.5

決勝、髙藤直寿がエンフタイワン・アリウンボルドから小内刈「一本」
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