文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

いよいよ行われる異例中の異例、前代未聞の歴史的な大一番。ワンマッチの直接対決ですべてが決する「東京オリンピック男子66kg級日本代表内定選手決定戦」がついに今週末に迫った。過去の試合の映像、解説は世に溢れているので基礎知識としての振り返りはそちらに任せてさっそく当日の予想と「みどころ」に踏み込みたいと思うのだが、一応まず戦績を挙げるところから稿を起こしたい。
<戦績>
2015年11月 講道館杯全日本柔道体重別選手権・準々決勝
丸山城志郎〇優勢[有効・巴投]△阿部一二三
2016年4月 全日本選抜柔道体重別選手権・決勝
阿部一二三〇優勢[指導2]△丸山城志郎
2017年12月 グランドスラム東京・決勝
阿部一二三〇GS大内刈(GS0:51)△丸山城志郎
2018年12月 グランドスラム大阪・決勝
丸山城志郎〇GS技有・巴投(GS1:03)△阿部一二三
2019年4月 全日本選抜柔道体重別選手権・決勝
丸山城志郎〇GS技有・巴投(GS9:23)△阿部一二三
2019年8月 東京世界選手権・準決勝
丸山城志郎〇GS技有・浮技(GS0:34)△阿部一二三
2019年11月 グランドスラム大阪・決勝
阿部一二三〇GS技有・内股返(GS3:27)△丸山城志郎

形上スコアは丸山の4勝3敗。ただし丸山は2018年9月のアジア大会以降は別人と考えて良いくらいのメタモルフォーゼを遂げているので、それ以前の試合に関してはあくまで記録としての意味しか持たないというのが筆者の個人的な、そしてたぶん正当な見立て(ちなみに五輪代表選考対象時期も2018年と2019年であり、これに適う)。“有意”の成績は丸山の3勝1敗と捉えるべきで、試合の様相を予想していくとこの数字は今回の「分」にかなりに近いと感じる。詰め将棋のロジックゲーム上は丸山勝利の条件分岐が多く、しかし阿部にも勝利に至る道筋はあるというのが大局。世に溢れる「両者五分」構図に配慮した展望はその時点でちょっと奥歯にものが挟まった物言いにならざるを得ず、ゆえにどこか芯を食っていないと感じる。この大局を言葉に起こせば「丸山有利も、阿部にも勝機あり」だ。少なくとも議論のスタートは(結果がこの言葉と変わるにせよ)ここから始めるべきだ。
でもこれまでの試合は延長が物凄く多い(≒力が拮抗している)ではないですか、という声に対して(あるメディアから寄せられたこの質問にわかりやすく答えんとしたことが本稿で考えを深めるきっかけになった)。長時間試合の最大の理由は「噛み合っていないから」。両者のやりたいことが違い、生息域が交わっていないから、そして試合時間の多くがこの生息域が辛うじて交わる「汽水域」での駆け引きに費やされて来たからである。
これは阿部の柔道を「組み際柔道」と再規定して見つめなおすことで非常にハッキリ見えてくる。そして、有為の成績である直近4試合のうち唯一阿部が勝利した2019年グランドスラム大阪の内股返「技有」をこの「生息域」の観点から解釈しなおすことで今回の試合のポイントが見えてくる。
本論に入る前に、まず大前提として。勝敗のカギを握る最大のファクターはまず第一にコンディション。このレベルの戦いになると、またこの2人の戦略構図上、体の仕上がりの良し悪しが試合の様相に与える影響は常以上に大きい。ふたつ目がメンタル、つまりは大一番でどれだけ持てる力を発揮出来るか。「ワンマッチ」という特殊な舞台設定が影響するのはフィジカル(スタミナの有無含む)ではなく、あくまでメンタル面。いずれかがこの点で不調にあるならば試合は一方的なものにもなりかねない。このふたつの次に、以下詳述していく技術的な構図があると考えて欲しい。
まず「詰め将棋」を考える

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