【eJudo’s EYE】「研いだ」阿部と「足した」丸山、自己理解と準備の差が勝敗分けた/東京2020オリンピック柔道男子66㎏級日本代表内定選手決定戦総評

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文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

歴史に残る一番は総試合時間24分、史上最長試合となった。 (写真提供:全日本柔道連盟)

熱戦から2日が経ち、ようやく映像で試合を見返す時間を得た。1試合を見返すのに40分強。いやはや、まさに前代未聞の一番であった。

映像で補完したディティールを一応記すと。阿部の組み手が予想以上に厳しかったこと(引き手の抱き込みは8階観客席からでは確認し辛かった)、同じことだが丸山が予想以上に組ませてもらえておらず不完全な状態での技が多かったこと(たとえばGS6分秒の高速巴投の引き手が指を握る不完全なものであったこと、これは8階向こう正面の報道席からは反対側でわからなかった)、あとは決着の場面(背中側かつ最も遠い正面側の攻防で、ディティールの確認は困難であった)の精査と気づき、観客席から感じられた阿部の目の光の強さがあらためて確認出来たこと(かつての対丸山戦の阿部の目には焦燥や恐れが感じられたが、今回は消耗しても目が「死んでいない」と見立てていた)、といったところ。

試合を見返し終わって。まず当たり前だが当日書いた「早出し評」に撤回すべき部分はない。徹底的に相手に組ませず技を積んで「指導」を狙いながらひたすら訪れる「際」を待った阿部、一方阿部の「徹底して組ませない」作戦に具体的な対抗策薄いまま柔道の強さ自体で対抗し、結果として苦杯を喫した丸山。「早出し評」で提示したこの構図が今回の評の大前提となる。

その上で。勝敗を大きく分けたのは「準備」と「自己理解」の差であると考える。特に自己理解。これがもう、試合の背骨からそれこそ毛細血管に至るまで染みわたって試合を規定してしまった。

この読み解きの入り口になるのは、丸山の左内股。早出し評でも提示した「丸山が内股を掛けない」(より正確に言うと内股のプレッシャーが掛かっていない、掛かる組み立てをしていない)という点景から色々なことが紐解ける。

方向性と思考量、まず「準備」の差にフォーカスする

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