出典:「六十年間の経験に基づいて後進の諸子に告ぐ」
有効の活動 7巻12号 大正10年12月 (『嘉納治五郎大系』10巻319頁)
<若い時の苦労は買ってでもせよ>
若いうちの苦労は後の人生に役立つから、求めてでもしたほうが良い、という意味の格言です。若いときの苦労には、それだけ価値があるわけです。今回の「ひとこと」は、この格言の実例です。師範が若い頃に味わった苦労と、そこから得たものを見てみましょう。
師範が講道館・講道館柔道を創始したと言われる明治15年。師範は、いくつだったでしょうか。22歳です。これだけでも驚くべきことですが、師範がこの時期に携わっていたのは講道館だけではありません。学習院の教員をしながら、嘉納塾という寄宿制の私塾も主催、さらに、弘文館という学校も設立・運営していました。
1人の人間がこれだけ多くの活動をするのが、どれだけ大変か、想像するのは簡単です。過労のために体調を崩しても不思議ではありません。ただ、柔術・柔道修行で、常人より、強い心身を得ていた師範にとっては、楽ではないにしても身体的には大丈夫だったようです。
それよりも、師範を苦しめたのは経済的なものでした。道場や学校の経営、書生を置く、いずれもお金がかかりますが、ほとんどが師範の持ち出しだったようです。結果、これらの活動は、経済的な負担を大きくし、師範は負債を抱えることになりました。
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