文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

2022年10月、ウズベキスタン・タシケントで行われた世界選手権。この大会を現地で取材した記者たちが、一様に語る光景がある。
ウズベキスタンは柔道どころだ。会場は熱狂の渦、髙藤直寿や永瀬貴規、阿部一二三、阿部詩と揃った日本のスターたちには大声援。どころか代表スタッフを見た10代(!)の女の子が「あれはタカシ・オノじゃない!?え?あそこにいるのはケイジ・スズキ!?」と両の手を口に当て、涙を浮かべて感激する様まで見られたという。地元のエース級が登場すれば、立ち上がり、ドラムを打ち鳴らし、場内アナウンスが聞こえない有様。
そのお祭り騒ぎの観客席が、1人の選手が畳に上がると静まり返るのだ。視線の先にあるのは、66kg級の世界王者・丸山城志郎。皆、2面ある試合場のもう片方には目もくれない。すり足の音が聞こえるような静寂の中、丸山の動きに反応して「お」「うお」と静かな声が、断続的に観客席から上がる。そして丸山独特の「相手の重心の下に体がまっすぐ入る」飛び込みに相手が跳ね上がり、縦回転で畳に落ちると堰を切ったような大歓声・大拍手。まるで日本武道館の全日本選手権のよう。こんな反応を引っ張り出す選手は世界のどこにもいない。
皆、「丸山城志郎の内股」が見たいのだ。勝った負けたが見たいんじゃない。単に「一本」が見たいわけでもない。「丸山の内股」が決まる様を、ナマで見たいがゆえのこのリアクションなのだ。
スポンサーリンク