⑥準々決勝/令和4年全日本柔道選手権大会振り返り座談会

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準々決勝

令和4年全日本柔道選手権振り返り座談会(朝飛、上水、西森、古田)
座談会は5月3日、4日にオンラインで行われた。右上から時計回りに西森大氏上水研一朗氏朝飛大氏、司会の古田

(⑤三回戦からつづく)

小川雄勢(東京・パーク24)○GS反則[指導3](GS6:11)△太田彪雅(推薦・旭化成)

最終盤、小川がはたき込み、太田が潰れることが繰り返されるようになる。

太田が右、小川が左組みのケンカ四つ。小川は釣り手を上から、掌で首裏を抱える体で深く持って圧力を掛けんとする。しかし太田は下から持った釣り手の拳をしっかり肩の上まで抜き、力が掛かる形を作り続ける。形上は引き手争いが続くが、釣り手で組み勝っている太田が潜在的に優位。主審この関係を的確に見極め、44秒小川の側に「指導」。以降も太田が釣り手を内側から、拳を肩まで抜いて手首を立てる良い組み手を継続。しかし小川も粘り強く進退、首裏を深く持ち、片手の左内股を交えながら我慢を続ける。ひときわ深く後襟を持つことに成功した2分過ぎにはここぞとばかりに引き手を激しく求め、1分34秒には太田の側にも片手のゼスチャーとともに「指導」。手詰まりを感じた太田は引き手で近い襟を持ち、釣り手で脇を差して背中にアクセスする大胆な手立て。続く展開も脇を差すと四指で後襟を掴み、またもや背中を抱く。いずれも小川は過剰に反応、巻き込みで自ら掛け潰れる形で潰れ「待て」。以降もこの、小川が釣り手で上から首裏を抱いて圧力、太田が釣り手を内側から入れて対抗しつつ時折背中にアクセスするという形が繰り返され、あっという間に本戦4分間が終わる。試合はGS延長戦へ。

構図は変わらず。太田が下から拳を通し、小川が上から首裏を掴む釣り手を土台に引き手争いが続き、時折太田が背中にアクセスすると小川が巻き込みで前に潰れるというシークエンスが幾度か繰り返される。GS2分15秒過ぎ、組み際にツト太田が引き手で袖を一方的に掴み、釣り手も圧を食わないままに高い位置で襟を持つことに成功。太田いったん前に引きずって腰を引かせると右大内刈、相手の後退に合わせて素早く踏み込んで右内股に繋ぐ。頭の下がった相手の腿を上げるシーソー状態で力を掛けて回転させるも、惜しくも小川の体側の接地は部分的。これはノーポイント。

GS3分14秒、後襟を掴んで組み勝ったまま場外際で攻防する小川は一計を案じ、2歩歩んで完全に場外に出ると「待て」の声とともに左払巻込。太田は大きく一回転して背中から落ちる。小川が攻勢を採りに掛かる際に得意とする手だてだが、主審はこれをしっかり見極めて小川に場外の「指導2」。しかしインカム指示があったかこれは訂正され、変わらずともに「指導1」を負ったまま試合は継続となる。

このあたりから太田が激しく消耗し、小川の圧が利き始める。GS延長戦4分19秒に双方に片手のゼスチャーとともに「指導2」が宣されると、小川はあと1つの「指導」を徹底して求める策。釣り手を首裏に入れると「ケンカ四つクロス」の内股で頭を下げさせ、引き手で下から脇を抱き込み、あるいは上からはたき込む動作を続ける。太田に背中を抱かれるとまたもや巻き込み潰れること2度、これでいったん展開は留保されたが、GS延長戦5分を超えるとついに太田の側の体力が完全に尽きる。小川は冷徹に「潰す」動作を実行、太田の小外掛をかわしてはたき込んで潰し、続いて首裏と脇を抱き込んで潰し、太田の脇を差しての突進を一歩下がってかわすと、またもや掌で肩を押してはたき込み潰す。投げを狙わぬ姿勢は今大会の審判方針とはブレるが、もはやこれまで。GS延長戦6分11秒、太田に消極的試合姿勢のゼスチャーとともに3つ目の「指導」が宣され、ここで試合が終わった。太田の2連覇はならず。(戦評・古田英毅)

古田 では、準々決勝戦にまいります。まずは第40試合・太田彪雅選手と小川雄勢選手の一番です。西森さんからお願いしてもよろしいでしょうか。

西森 そうですね……どっちもリスクを取りにいかない戦いになってしまいましたよね、少し残念ですが。

古田 まさに。

西森 何度も対戦していて手の内もよくわかってますし。両者とも今年はチャンスと言いますか、絶対勝たねばならないという思いも強かった。自分だけが組み勝つ、あるいは自分だけが良い体勢になった時でないと行かない。技を仕掛ける場合もリスクの少ない形で、いつでも潰れられるような技という姿勢が、ともに、やはり出てしまった。勿体なかったなと思いました。そしてリーチの差などもあって、最後は太田選手のほうのスタミナが切れてしまった。太田選手としてはもっと早い段階で、リスクをとってでも投げて決める、という試合を志向していれば結果は違ったのではないかと思いましたが、そのあたりやはり調子が良くなかったのかなと思いました。

古田 ありがとうございます。朝飛先生お願いします。

朝飛 似たような話になるんですが。二人とも組み手もうまいし、スタミナもあるし。そして思い切った技も持っています。柔道ファンからしてみると、胸を付けて、思いっきり後に刈り倒すとか、そういう迫力のあるぶつかり合いも見たかった。ファンを凄い!と唸らせるような力と技を持っている2人だけに、やはり期待をしてしまいます。しかし、代表も掛かる試合ですからそんなに簡単な話ではないのもわかりますし、2人とも組み手が抜群に上手いからこそ、組み手中心の試合になってしまうのもわかる。ただ、ここでリスクをとってまで自分を表現できることが、より代表に近づく道なのではとも思いました。2人の、投げに行くという部分をもっと見たかった試合でした。

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