文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta
グランドスラム・ハンガリーの日本代表選手「採点表」をお送りする。常の通り、もっとも重視するのは「己の力をしっかり発揮出来たかどうか」。
まず簡単に総評を述べたい。10人中8人が優勝という結果は上々。さすが世界選手権代表をずらり並べただけのことはある。日本代表選手が、一段違うレベルを見せつけた大会だったと総括して良いかと思う。
最高点は阿部一二三。優勝という結果、凄まじい投げの威力、そしてこれを支える進退の論理性の高さと、文句なしの出来だった。
全体的な課題を1つ挙げれば、余計な「指導」失陥が多いということ。昨年の東京五輪における日本代表の「我慢」という(あの大会カスタムの)モードの成功ゆえか、それとも名勝負が続出した全日本選手権の影響か、さして必要のない駆け引きターンを作っては「指導」を失い、状況を悪くすることが目立った。90kg級の村尾三四郎と63kg級の堀川恵などは、危うくこれですべてを失うところであった。
日本代表は全員が為すべきことのビジョンをしっかり持っており、組み手の手札も豊富。であればまずはやりたいことに直線的にアプローチして、それが外れたら第2シナリオを発動して条件分岐を辿っていく、という直ぐな手を採るべきだと思うのだが、日本の選手はまるでそう決まっているかのように必要のない「地」のターンを作ってしまいがちだ。海外選手はもっと行動が直截で、マクロな視点で言えばルールもこれに合わせて変わって来ていると言っていい。その中にあって、まるでそれが作法でもあるかのように相手の出方に合わせるターンを入れていく日本の戦い方は、ワールドツアーの流れに噛み合っていない。大雑把な例えで恐縮だが、野球であれば必要のない見せ球、捨て球を投げて勝手に不利になっているという印象。どんどんストライクを投げろという方向にルールがシフトしているのに、わざわざ1球ボールを入れてはカウントを悪くし、最終的には打たれてしまうというイメージか。
この先も間違いなく反則裁定は早くなっていく。長い目で見てこの傾向は押しとどめようがない。技術的に「出来ない」のか、マインドセットの問題なのか、選手それぞれ事情に違いはあろうが、余計な「指導」を減らすことが日本代表全体の、世界選手権に向けた最大の課題であることは間違いない。無駄なターンを減らす最大の処方箋は、やりたいことを明確にすること。プランとツールが明確な選手は無駄に相手に付き合わないし、捨てターンも作らない。論理性高く無駄の少ない「国際大会モード」の確立に期待したい。
男子
66kg級 阿部一二三(パーク24) 6.5
成績:優勝
強かった。力が有り余るような打点の高い技の威力はもちろんだが、駆け引き、決め技の選択と柔道自体の論理性が高かった。ゴールになる技にどんな作りが必要かが明確、組み手を始めとした駆け引きがこのゴールに向かってきちんと収斂していた。組み手は入口が多彩、出口はもっとも得意な「引き手一本で袖を残す」形を最上として優先順位がきちんと付けられており、形に応じた決め技がきちんと準備されている。同じ技、同じ「一本」でも、論理の裏付けがかつてとはまったく違う。最後の選択は「感覚」によるものかもしれないが、その「カン」を呼び起こすバックグランドが厚い。1つのルートをひたすら繰り返していた2018年の世界選手権2連覇時とはもはや別人、もっと言えば、五輪が延期された2020年春の時点の姿と比べてももはや格段の差がある。大学時代とは全く違う選手のようだ。対戦相手のレベルが高くないのだが、それでも6.5、あるいは7.0をつけてもいいくらい。世界選手権が楽しみだ。
スポンサーリンク