(上)「一回戦」からつづく
※座談会は12月10日(金)に行われました
[参考]令和3年全日本柔道選手権組み合わせ(全日本柔道連盟ウェブサイト)
二回戦
羽賀龍之介(推薦・旭化成) ― 藤本智朗(東北・弘前大)
古田 では2回戦に入ります。羽賀龍之介選手と藤本智朗選手の試合。藤本選手は国立大医学部生として初の全日本選手権出場。eJudoでも、出場が決まった時にインタビューをしておりますが、ここは西森さんからご紹介を頂きましょうか。
西森 高校時代は81kgで兵庫県代表としてインターハイに2度出場。2年生時にベスト16、3年生でベスト8に入賞しています。出身の白陵高校は全国でも屈指の進学校なんですけど、柔道でもこれまでも成績優秀な選手を輩出しております。1989年の高知インターハイで軽量級3位に榎本茂樹選手、彼はその後、京都大学に進みました。それから2002年81㎏級で2位になった江里口光太郎選手、彼は福井大学の医学部に進みました。インターハイで入賞する選手も生まれるくらい、しっかり鍛え込む進学校ということですね。藤本選手はそこで得たベースを持って弘前大学に進学して、体重も増えてパワーもついて、大きく柔道を開花させたのかなと思います。医学部生と両立させながら全日本選手権に出るというのは史上初の快挙ですし、素晴らしいことだと思います。
古田 対戦相手が2連覇を狙う羽賀龍之介選手。普通に考えれば、羽賀選手の勝ち上がりということになるわけですが、林さん、見どころというとどうなりますかね。
林 全日本選手権プログラムのインタビューで羽賀選手と話をした時に、初戦は医学部の学生の努力家だよ、という話を振ってみたんです。学業も柔道も頑張っていて、コロナで学生の大会がなくなって、全日本に出ることに絞って頑張って来た選手ですよと。すると、「それは逆に怖いですね。本当に気を付けます」というような話をしていました。彼はそういった無名の選手が相手でも自分に厳しく、油断することなく戦う選手です。全く気を抜かずにしっかり勝つ柔道に徹するはず。ですので、なかなか藤本選手が付け入る隙を見つけるのは難しいのかな、という気がします。
古田 派手に投げるぞというような一種の邪念があれば付け入る隙があるかもしれませんが、いまの羽賀選手にここを期待するのはなかなか難しいと。ただ、羽賀選手は非常に相手の研究をして戦う選手なので、情報がまったくなく、かつフィジカルが抜群に強い担ぎ技系の選手ということで、何かひとつ藤本選手が見せてくれるんじゃないかというところに期待でしょうね。藤本選手の活躍に期待しつつ、羽賀選手の勝ち上がりを推す形とします。羽賀選手も久しぶりの試合で色々なことが見える初戦になると思います。
相木飛磨(北海道・北海道警察) ― 小川竜昴(近畿・日本製鉄)
古田 続きまして、北海道代表・相木飛磨選手と、先ほどの予測からいきますと小川竜昴選手の試合になります。朝飛先生、いかがでしょうか?
朝飛 小川竜昴選手は地力がある選手なので、1回戦を勝てば、ここからは相当リラックスして、本来の力を存分に出してくるのではないかと思います。相木飛磨選手は初出場で、この試合が初めての試合。しかし相木選手は立派です。26歳で初出場。札幌大学出身ですね。北海道予選は相当鍛え込んでいないと勝ち上がってこれない難しい大会なので、かなり力もつけてきていると思います。しかしこの試合に関しては小川選手の技の強さ、フィジカルの強さが優るのではないかと考えます。
古田 相木選手、昔、全日本ジュニアで試合を見た覚えがあるのですが、西森さんはご記憶ありますか?
西森 相木選手は北海高校出身。学年としては山本悠司選手と一緒で、山本選手が73kg級、相木選手が81kg級という形で2人とも2年連続でインターハイに出ています。相木選手は、高校時代、個人戦は2年連続で金山天地選手に負けているのですね。
朝飛・林・古田 ああ~。
古田 金山選手は当時、結構有望選手にガッチリ蓋をしているんですよね。そういうめぐり合わせの選手でした。
西森 やりにくいですからね、金山選手の柔道は。キャリアハイは15年の全日本ジュニアの81kg級3位。この時は準決勝で藤原崇太郎選手から開始12秒の小内巻込で「有効」を先行し、1分29秒大内刈で一本負けを喫しています。ただ、3位決定戦で佐々木健志選手に大外刈で一本勝ちしているんですね。
古田 佐々木選手は意外に「あげている」んですよね。そして相木選手は若い頃から佐々木選手、藤原選手とトップ選手との手合わせの経験があると。
西森 北海道地区予選では平成31年、令和2年とブロック決勝まで進んで、あと一歩で本戦出場というところで敗れています、そういう意味ではここ数年、全日本に出るんだという強い意志で稽古を重ねて来ている選手だと思います。体重84キロで体は決して大きくないんですけど、これで北海道のあの大トーナメントを勝ち上がってくるわけですから、しっかりした柔道が出来るのだろうと思います。実力的には小川選手が上だと思うのですが、さきほどの藤本選手にしろ相木選手にしろ、全日本選手権という舞台で、自分の柔道を精一杯表現してほしいと思います。
古田 北海道は去年も石原隆佑選手が大活躍しましたし、やはりあそこを勝ってくる選手は何かを持っているんですよね。
西森 平成30年大会でも高田大樹選手が2試合連続で一本勝ちしたりとか。パッと出てくる選手が力を発揮するところが北海道は面白いですよね。
古田 中央の文脈では図り切れない、昔の全日本らしさを保っている地区なのかもしれませんね。少年柔道なども本州のチームとの接続が薄く、独自の文化を感じます。では、相木選手に期待しつつ、ここは小川選手の勝ち上がりを推します。
香川大吾(東京・ALSOK) ― 田中源大(近畿・日本製鉄)
古田 香川選手と田中選手という、非常に既視感のあるカードです。同学年、ともに中国地区から高校生で全日本出場の快挙を成し遂げた2人の対決ですね。林さん、いかがでしょう。
林 香川選手は今回4回目の出場ですが、しばらくぶりですよね。高校3年の時に出て、すごく注目されて、大学1年、2年と出たと思うんですけど、その後なかなかこの舞台を踏めなかった。今年24歳、本当であれば今常連としてベスト4あたりに入っていてもおかしくない選手だと思います。
古田 2019年には講道館杯で決勝まで進んで、グランドスラム大阪でも3位決定戦まで進んでいます。あと1つ、2つの勝利で運命が大きく変わったはずという位置づけの選手と言えます。
林 柔道に関していうとある程度スケールもあるし、技の力もあります。180センチ、130キロ。相手が田中選手ですし、これぞ重量級という試合になるのではないでしょうか。
古田 香川選手は今の東海大の重量級の標準形を作った人だというふうに、勝手に評価しています。あの個性派を作る東海大が、重量級に関していうとなぜかみんな香川選手に似てくるというか。
一同 (笑)。
古田 香川選手、去年この大会では同じ所属の佐々木健志選手の付き人をやっていたそうです。試合が始まる前に佐々木選手に勝負を請われて、投げられたとSNSに投稿していました。そして佐々木選手の活躍が刺激になったと思うのですが、東京選手権はかなり良かったんですよ。体のキレも良く、これまでと違う覚悟、期するものを感じました。準決勝では王子谷剛志選手にも送襟絞「一本」で勝っていますし、準々決勝の加藤慎之助選手との試合では、自分の強さはただ勝つだけでは示せないとばかりに、敢えて頭の上まで持ち上げて移腰で投げました。あの手堅い香川選手が、ですよ。「俺は強いんだぞ」というアピールをしたのだと解釈しています。
西森 いい写真を載せられていましたね。あの絵は凄かった。
古田 ありがとうございます。そのあと腰を切って投げた瞬間を使うか、持ち上げた瞬間を使うか悩んだのですが、今日の香川選手を表現するにはこちらの写真だなと。顔は見えなくなってしまいますが、ここまで持ち上げたプロレスみたいな写真を使わせて頂きました。今大会は期するものがあると思っています。
西森 香川選手は広島の崇徳高校、田中選手は山口県の高川学園高校の出身で、高校生の頃から幾度も戦っています。特に2014年から2015年にかけては、全日本選手権の中国予選の決勝、インターハイ100㎏超級の決勝、2015年中国予選決勝と、大きい舞台だけでも3回戦って、ここは全部香川選手が勝っているんですね。ただ、去年は田中選手が全日本選手権で印象的な強さを見せましたので、今回久々に大きい舞台で対戦する時に、その序列がどういうふうに変わっているかというところにちょっと注目したいですね。さっき古田さんが言われたように、香川選手も去年、佐々木選手に刺激を受けて期するものがあるでしょうから、お互いにスケールアップして、今度は全日本選手権の上位を狙うふたりとしての対戦が楽しみです。
古田 一段上のステージですね。
西森 田中選手も近畿予選1位ですから。東京2位対近畿1位という、なかなか格のあるカードでもあるわけです。
古田 どちらの選手にも推せる要素、そして読みがたい空白域であるこの1年の「伸びしろ」がありますね。朝飛先生、勝敗はどうしましょう?
朝飛 両選手とも実力者で本当に決め難いのですが、相四つだと田中選手の追い込んでの出足払が難しくなるとは思います。前に落とす払釣込足みたいな形で効かせるということも考えられますが・・・。香川選手は巻込技もありますし、密着してからの手立てもあり、組み合っての払腰をきちっと入るところもありますので、絵を考えていくと香川選手が先手を取るように感じます。
古田 では、かつての磁場と、朝飛先生が仰られた技術的な噛み合わせを買ってここは便宜上香川選手の勝利を推したいと思います。
吉田優平(関東・自衛隊体育学校) ― 中西一生(東京・国士舘大)
古田 吉田優平選手と中西一生選手の試合です。西森さんからお願いします。
西森 吉田優平選手は73kg級の選手。インターハイでは決勝で山本悠司選手に敗れて2位、東海大を経て自衛隊体育学校に所属、今回関東地区予選を勝ち抜いて初の代表を勝ち取りました。73kg級の選手が関東地区を勝ち抜いて出てくるというのは相当なものですので、楽しみです。ただ、相手の中西選手が90㎏級でパワーもあり、しかも動けるタイプというところで、吉田選手のスピードにある程度ついてこれてしまうのではないかと思います。吉田選手は重量級の選手と戦ったほうが面白かったかもしれない。平場(ひらば)で勝負すると中西選手に分があるのかなという予想を立てています。
林 関東大会、吉田選手は飯田健伍選手に勝っているんですね。
古田 代名詞の袖釣込腰で「有効」を獲って、代表を決めました。かつては派手な袖釣込腰でがんがん投げる一方で、天才肌ゆえのムラ気もあって。さきほど西森さんが仰ったインターハイ決勝のようなキャリアの曲がり角、ここで勝てばいけるぞというところで取り切れずに、学生時代はシナリオ的な「表」に乗り切れなかったという印象です。それが、俺はまだ終わってないぞ、とついに力を出してくれたというか、うまく歯車が回らなかった期間に貯めたものを自衛隊体育学校で鍛えこんでいよいよ表現出来てきたなという印象です。この大会、体力も満ちていました。一方の中西選手が先ほどお話した通り学生大会でちょっと元気がなかったところがあるので、それを2週間でどう立て直してくるのかがポイントかなと思います。本来の中西選手の動きであれば、吉田選手にとってはきついはず。西森さんが指摘された通り、動ける機動力タイプが、同じように動ける、そして自分より階級が上の選手と戦うというのは最も嫌な形でしょうから。
林 学生大会の連戦が、どう響くかですね。3大会すべて出た選手はみな相当、疲弊していますから。
古田 トップ校の選手で、五体満足で終われた選手はいないかもしれません。…東海大の上水監督はのっけに「3大会すべてをやり切るのは学生の体力では無理」という方針を掲げてローテーションを組んで、全て出た選手は実は松村颯祐主将だけでした。重量級のポイントゲッター中島大貴選手は、最終戦の学生体重別団体の週は教育実習に出していたそうです。連戦というのはそのくらい、ダメージが溜まるものということでしょうね。
林 対するに、自衛隊体育学校の充実した練習ぶり、そして勢いは脅威ですよね。皆体力に溢れている印象です。
古田 体格と柔道的な噛み合わせから中西選手の勝利を押すも、予想されるコンディションと掛ける気持ちは吉田選手、試合はどう転ぶかわからない、というところでしょうか。
朝飛 異存ありません。
影浦心(推薦・日本中央競馬会) ― 川田修平(九州・旭化成)
古田 優勝候補の影浦選手に初出場・川田選手がマッチアップします。朝飛先生お願いいたします。
朝飛 川田選手は長身で正攻法な選手です。中学は55kg級か60kg級だったと思うんですけど、高校で大きくなって身長も伸びて、動ける100kg級の選手になって3年生時は大活躍しました。ただ、先ほど古田さんが仰ったような「表」に乗り切れなかったというようなところがあります。しかし、ここで全日本選手権に出て来るというのはやはり地力があるのですね。…ただ、影浦選手にしてみればこういう背の高い(※登録185センチ)選手というのはそれほど嫌ではないと思います。
古田 わかります。
朝飛 高低差をつけて上下の背負投で攻めつつ、踏ん張ると小内刈を入れて、だんだん影浦選手のペースになっていくというような絵が思い浮かびます。影浦選手は海外の選手とやっても、腰の回転を止められることがほとんどない。ガッチリ組まれても、困っている様子がないですよね。物凄く組み手が強くないとあの背負投の回転は止められない。本当に間合いの作り方がうまいので、川田選手であってもこれを止めるのは難しいかなと思います。
林 影浦選手と川田選手は、全日本学生優勝大会で対戦しています。その時はもう東海大の勝ちが決まっている状況で、少し「指導」の差がついたくらいで引き分けでした。影浦選手に話をお聞きすると、練習は何度もやっていて大外刈が強いということはわかっている、体が大きくなって来ているので、そこは注意しなくてはいけないと思っている、と、そういう話でした。
西森 影浦選手の入り方に注目したいと思います。
古田 それですね!
西森 これまでの影浦選手は、海外で結果を出して勢いに乗りたいところで全日本選手権で敗れてしまって評価を下げるということが続いていました。今年は世界チャンピオンにもなって、パリオリンピックに向けて、頭ひとつ抜けだすためには、この大会はなんとしても獲りたいと思っていると思いますし、また、獲らなければいけない大会だと思います。その中で、これまでは初戦が、なかなか勢いがつく形で入れていないんですよね。
古田 去年もそうでした。「技有」を獲って矛を収めたのですが、そこで選んだ順行運転、膠着の印象が勢いを削いでしまいました。
西森 そこも含めて、どういう入り方をしてくるかに注目したいと思います。力的に影浦選手が上なのは間違いないので、どんな勝ちかたを見せてくれるのか注目したいと思います。
古田 影浦選手が世界選手権であそこまでの気持ちを出したことに、この大会で敗れてしまったことが原動力になったことは間違いないと思います。そして世界チャンピオンになってやって来るこの大会の初戦。まさしく注目ですね。
釘丸将太(東京・パーク24) ― 古田伸悟(近畿・日本製鉄)
古田 釘丸選手と古田選手の対戦。朝飛先生、いかがでしょう。
朝飛 釘丸選手、やっと出てきてくれたなという感じがします。柔道を始める時に、お兄ちゃんに連れられて道場に来たことがありました。背負投を教えた時のその感触というか、その背中に乗っける感触が「いやいや、これは幼稚園の子じゃないな」というレベルでした。
古田 幼稚園のころだったのですね。
朝飛 その後、国士舘ジュニアでやっているときも、やはり背中に乗っける感覚が上手い子だなぁと思いました。私はどうしてもそういうちっちゃい頃を思い出してしまうのですが(笑)。彼は大きい選手とやっても遜色ないような試合もしますし、体重別の試合を見ると実に細かく柔道を作り込んでいる。足を効かせて、組み手争いも強くて緻密で、相手の組み手がしぶといと見れば片襟からでも担ぎをやる。古田選手と戦うときにも、早い動きの中から担ぎ技を繰り出してくるんじゃないかなというふうに期待をしてしまいます。古田選手があまりにも柔道が綺麗なタイプですので、釘丸選手は方向性を変えながらの小内刈で、刈ったり、足を開かせたりしながら背負投に?いでいくのではないかなというふうに思います。
西森 釘丸選手は国士舘ジュニアから国士舘中学校、国士舘高校、国士舘大学と純粋の国士舘育ちで。一方の古田選手は天理中学、天理高校、天理大学という(笑)。
林 なるほど(笑)。
西森 これはもう国士舘と天理、ふたつの柔道哲学のぶつかり合うになるのではないかと期待しております。ふたりとも柔道にそれぞれの国士舘らしさ、天理らしさが相当色濃く出ている選手だと思うんですよね。しかも25歳と年齢も同じ。特に関係者は思いを乗せて見る試合になるのではないかと。
林 間違いありませんね。
西森 ここは譲れないと。
古田 勝敗的にはいかがでしょう?
西森 これは難しいですね。
古田 釘丸選手が足で崩し続けて、古田選手がマトを定めての一発を打ちにくい展開になるのは間違いないと思うんですが、ただ、投げ一発という出口が見えやすいのは古田選手のほうだったりして、なかなか難しい試合ではあります。とはいえ、便宜上ここで勝ち上がりを決めて進めるのがこの座談会のルールですので、いずれかにしたいと思うのですが。皆さんいかがでしょうか?
一同 (沈黙)
古田 西森さんが「柔道哲学のぶつかり合い」と言ってしまったので、ハードルが上がってしまったですかね。軽々に言えないという。
一同 (笑)。
西森 東京予選、釘丸選手は、東部直希選手に勝って松村颯祐選手にも勝っているんですよね。
林 それは凄い。
西森 どちらもGS延長戦の「指導3」です。
古田 松村選手、実はその週にワクチン接種をこなして体調が良くなかったという事情があったようではありますが、それにしてもこれは尋常な捌きの力ではありません。
西森 柔道の綺麗な古田選手に対して、競り合いに強い釘丸選手がかき回して持っていくという絵は、この結果から導きやすいとは言っていいのではないでしょうか。
古田 競り合いになれば釘丸選手のフィールドと考えるべきでしょうね。では、乗っからせて頂いて、ここは便宜上釘丸選手の勝利を推したいと思います
佐藤和哉(推薦・日本製鉄) ― 佐藤正大(関東・自衛隊体育学校)
古田 佐藤和哉選手と佐藤正大選手による2回戦。林さん、お願いします。
林 普通に考えると佐藤和哉選手かなと思いますが、佐藤正大選手の勢い、そしてとめどない動きと執拗な攻撃をどこまで我慢し切れるか。一発で持っていければ良いのですが、佐藤選手はそういう組み手にはしてこない。突きながら、なかなか組ませず、動き続けるでしょうね。…佐藤正大選手も意外に身長が高いじゃないですか。
西森 あります、あります。登録は180センチです。
古田 そうか。ちょっと外から見ている感覚とズレがありますね。
林 ですので、81㎏級とはいえ、重量級相手でもさほど勢いを殺さないまま戦えてしまう気がします。佐藤選手が捕まえれば持っていくでしょうし、得意の足技をうまく効かせられればまた違う展開もあるのでしょうか。
西森 佐藤和哉選手は軽い選手をあしらうのが上手いんですよね。それは林さん仰る通り、足技があるから、完璧に組み止めなくても、引き手なり釣り手なりを持ったところで、ポンっと足技を打つことで軽い選手の動きを止めてしまう。あの芸は相当上手い。そういう意味では、佐藤正大選手のほうがやりにくいのではないか。普通の重量級を相手にするのとはちょっと違う感じだと思います。逆に佐藤和哉選手は、重い相手に取り味が薄いことが少し弱点ではあるんですけど、こういう相手だと上手くあしらうのではないかな、と予感しています。
古田 佐藤正大選手の強みとして形を選ばない担ぎ技というようなことはよく言われるのですが、その一方で彼は「面」で押し込んで試合を作るところがあります。そういう、展開を塗りつぶして担ぎ技に持っていくような場面はちょっと作りにくい気がしますね。朝飛先生、いかがでしょう。
朝飛 西森さんの解説を聞いていると、本当に納得です。佐藤和哉選手は重量級の選手ですが、重量級っぽい穴が少ない。軽量級にスパンと担がれるような可能性の少ない選手だと思います。「柔らかい重たさ」とでも言いますか、マトにしにくいタイプです。それとやはり足技ですよね。佐藤正大選手は力もつけてきましたし、試合の運びも抜群なんですが、佐藤和哉選手が襟を持って捕まえて、斜めの大外刈や大内刈を引っかけたら崩れてしまうのではないでしょうか。以前、一色勇輝選手に佐藤正大選手がこの技を引っ掛けられた試合がありましたけど(平成31年全日本柔道選手権2回戦)。
古田 一色選手は両襟から斜めの大外刈を幾度も確信的に掛けに行っていましたね。最後は片襟を両手で持って引っ掛け投げました。確かに、あの試合は補助線になります。
朝飛 はい。ああいう入り方をするような気がしてならないですね。ですから総合的に見て佐藤和哉選手のほうが自分のペースで試合を進めるように感じますね。慌てることなく、組み手も襟を持ったり、脇に変えたり、いろんなところを考えてやりそうです。
古田 なるほど、無差別が得意で当たりによってはダークホース的に上位を狙えそうな佐藤正大選手としては、実は重量級では最もイヤなタイプの選手と早い段階で当たってしまったかもしれないというところですね。では、皆さんの意見を反映して、ここは佐藤和哉選手の勝利ということで進めさせて頂きます。
中村拓郎(北信越・金沢学院大) ― 垣田恭兵(九州・旭化成)
古田 北信越・中村拓郎選手と垣田恭兵選手による2回戦です。
林 中村選手は金沢学院大の4年生。金沢学院大からの出場選手、私が知る限りあまりいないのではと思うのですが。
西森 学生だと初めてではないでしょうか。指導者の渡辺直勇さんは、筑波大大学院時代に出場されていますが。
林 渡辺直勇さん。筑波大の所属だったときに3位にも入っていますね(平成元年大会)。
西森 中村選手、もともと出身は大阪なんですよね。常翔学園高校出身。金沢学院大に進んで2年生時の2019年全日本ジュニアでベスト8、今年の体育系学生大会では2位入賞。先日の学生体重別団体で金沢学院大が中央大と戦ったときには一本勝ちしていました。
朝飛 私、学生体重別選手権の試合を拝見しました。綺麗な柔道です。オーソドックスな、持ったら強いタイプと見受けました。
古田 そうすると、垣田選手は2戦連続、綺麗な柔道の重量級選手が相手ですね。
朝飛 垣田選手の厳しい組み手の前に、中村選手がなかなか組めないという試合になりそうですね。垣田選手が手を動かして、間合いをつくりいろんなところに餌をまいて、最後は技を決めそうな気がします。
古田 またしても、手のあう相手との対戦となった垣田選手が持ち味を発揮して勝利という形でよろしいでしょうか。予想としては。
朝飛・林・西森 はい。
(次ページへつづく)
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