【eJudo’s EYE】強さと多様性、柔道の魅力存分に示した「神大会」/令和4年全日本柔道選手権大会総評①

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文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta

開会式。地方から、そして体重別の世界から、選ばれた47名の強者が日本武道館に集った。
「豊か」とひとことまず評したい。今年の全日本選手権は素晴らしかった。舞台設定、役者、ストーリー、ディティール、熱量。これぞ全日本選手権、そしてこれぞ柔道だという要素が随所に、これでもかと溢れていた。間違いなく全日本選手権史上屈指の名大会として後世に語り継がれるはず。個人的には、井上康生氏と鈴木桂治氏、篠原信一氏が激闘を繰り広げた2003年大会に匹敵する「マイベスト全日本」の一に挙げたい。
 
時代を切り開くニューヒーロー誕生という強いストーリーライン、重量級選手が揃ってベスト4に進んで見せてくれた「強さ」それ自体、大型選手に小型選手、強化選手に地方選手と体格・出自異なるものそれぞれが繰り広げた自己表現の豊かさ、「技」の美しさと技術的多様性、そしてこれらを括る伝統の継承と再生産というテーマ。顕現した事象のことごとくが「全日本」という舞台の文脈に適っており、柔道は素晴らしいものだとストレートに伝えてくれるものだった。柔道の魅力のプレゼンとして最高の大会だったと思う。

3年ぶりの「日本武道館×観客あり」、熱量高い空間が好勝負生んだ

3年ぶりの日本武道館開催、選手も観客もボルテージが上がる

そして今大会について語るべきところいかに多かろうとも、まずいの一番に挙げておかねばならないのが、これらすべてを生んだ土台、舞台装置の素晴らしさであると思う。3年ぶりの日本武道館、観客あり。あの巨大な会場にただ一面のみ設(しつら)えられた畳を、見識ある柔道ファンが息をつめて、そしてリスペクトを持ってじっと見つめる。会場静まり返る中でかすかに聞こえるふたりの選手の息遣い、幾重にも絡まるリスペクトの感情。そして時折起こる拍手とどよめき。全日本選手権にしかない「あの空間」の構成要素が3年間ぶん、ギュッと濃密に詰まっていた。力を溜めていた選手たちが時は来たれりとばかりに思い切り己の能力を発揮し、見守る観客の側は勝ち負けを超えて良い攻防それ自体に拍手を送り、今度は選手の側がその拍手に急き立てられるかのようにさらに力を絞り出す。この素晴らしいスパイラル。畳に立つ選手が己の良さをフルに出さねばならぬと奮い立つ、己はこういう男だとこの場で証明せずにはいられない高い磁場が出来上がっていた。実に格調高く、幸せな空間だった。

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