文責:古田英毅
Text by Hideki Furuta
(総評①からつづく)
というわけで実に素晴らしかった令和4年度大会。同時にこれは全日本選手権どうあるべきかの未来像を強く示唆すした大会でもあった。素晴らしさは再生産されなければならない。これを、たまたますべてのタイミングが揃ったというだけの一過性のイベントで終わらせてはならない。このあと我々は何を為すべきなのか。少し考えてみたい。
開催時期、ルールを再考すべき
つらつら書き連ねてきた通り、全日本の魅力は「多様性」にこそある。間違いなく、これをしっかり担保することこそがこの大会の、そして柔道というジャンル全体の勝ち筋だ。いかにこの豊かさ、多様性を確保すべきか。
まず考えられるのは開催時期の変更である。かつては地区予選制度が選手の多様性を支えていたが、いまやもう1つの大きな柱は「体重別トップ選手の参加」であると断じて間違いない。属性、体格、技術。体重別トップ選手の参加は全日本の妙味である多様性を担保し、かつ大会の価値を高めてくれる。積極的に推し進めたほうがいい。
となれば彼ら世界大会で頂点に立つレベルの選手が参加しやすい環境を整えることが非常に大事になってくる。しかし、現行の4月29日、五輪・世界選手権(例年8月)の代表最終選考会の3週間後、本番まで3か月強というこの日程は、彼らにとってあまりにハードルが高い。ほぼ不可能であると言ってしまってもいい。重量級選手にとっても、代表に近い選手であればあるほど、この大会に集中して調整することが難しくなるという矛盾がある。変更を考えるべきだ。
具体的には、令和2年、3年大会が行われた12月開催を検討すべきと思う。むしろ、あれだけ評判が良かった12月開催の後、あっさり4月開催に戻したことが意外なほどだ。単に「慣例」で進めてしまったのではないかとすら思う。日程の再考はこの素晴らしい大会を維持する上で必須、そして愁眉の急だ。
もう1つ。いますぐにでもルールを考え直すべきだ。現在のルールは国際試合審判規定に「有効」を足したのみの、ほぼ丸々IJFルールである。そしてIJFルールとは言うまでもなく「同じ程度の体格のものが、なるべくわかりやすい形で勝負をつける」ことに特化したもの。そもそもの成り立ちからして体重無差別を全く想定していない。判定がない、足が持てない、がっぷり組み合うことを強制される。軽量級の選手に、それこそ多様な勝利への道筋がほとんど描けない形になっている。
無差別なのに無理やり体重別ルール。この矛盾、多くの関係者が気付いている。こちらも当初は「過渡期だから」「前よりは良くなっているから」と温い視線で見守っていたのだが、これほど何年も本質的な対策が為されないのはさすがに怠慢ではないか。個人的には講道館試合審判規定がもっとも相性が良いのではないかと思うのだが、このルールに現在の感覚から見て厳密性が足りないというのであれば、労を厭わず整えなおせばいい。IJFルールベースを崩したくないのであれば、技術的な幅を広げるという観点から例えば「足取り」を持ち込めばいい。IJFルールがどんどん整備され、洗練されていく中で、実は体重無差別の全日本選手権とIJFワールドツアー大会のポリシーの乖離はさらに大きくなっている。もはや「運用」(たとえば「指導」裁定を遅らせる)でなんとかなるレベルではない。漫然とただ続けていくだけならともかく(その場合は衰退必至)、全日本の勝ち筋は無差別という独自性にあり、と定めてさらなる隆盛を期すのであれば、独自ルールの制定は「必須」である。いますぐ来年度大会に向けた検討を始めて貰いたい。
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