準決勝
羽賀龍之介(推薦・旭化成) - 影浦心(推薦・日本中央競馬会)
古田 この試合から参りましょう。昨年は、3回戦で対戦。羽賀選手が影浦選手の組み手を完封。「指導3」で勝利した試合です。
西森 去年敗れた、あの負け方を影浦選手がどれだけ理解して手を打って来るか、ここに尽きると思います。
古田 間違いないですね。
西森 柔道の全体的な実力の前の段階ですよね。お互いの技を発動させるための条件をどう満たすかというところの勝負で、前回上を行けなかったということをどう理解するか。
古田 影浦選手も、普段の戦いではこういう部分も上手い選手なんですけれどもね。「読み合い」というところで言うと、羽賀選手は去年から試合をしてない。影浦選手は世界選手権にも出てたくさん試合をしている。これが経験値という部分でアドバンテージになるのか、研究材料を与えたということになるのか。
林 ただ、先ほどの話で言うと、もともと影浦選手は誰とでも稽古する珍しいタイプなのだそうです。普段から太田選手ともがんがん乱取りをするそうですし、コロナの関係で、国士舘大での練習が多かったそうなのですけど、毎日高橋翼選手と乱取りをしていたそうです。
西森 なんと。高橋選手がガンガン引き付けてくれば、国内にいながらジョージアの選手と稽古しているみたいなものですから、影浦選手にはちょうどいいですね。
古田 さて、仮にでも勝敗を決めなければいけません。どうしましょうか。
西森 ここは前年度優勝者に敬意を表して、羽賀選手上げですかね。やはり去年の影浦選手との一戦は、羽賀選手の柔道への理解度の高さ、柔道IQの高さを物凄く感じました。こうすれば影浦選手は柔道が出来ないというのを完全に理解して、その通りに完封してしまった。あれを見せられると、ですね。影浦選手はまさに真価が問われる試合になると思いますよ。
古田 あの敗戦を糧に影浦選手は世界選手権を獲りましたけれども、現時点で「いや、今度はあれを乗り越えられるはずだ」という試合は、私たちはまだ見せてもらっていない。昨年の試合を補助線にここは羽賀選手を推しておきましょう。影浦選手が良い意味でこれを裏切ってくれるような試合をしてくれることに期待したいと思います。
太田彪雅(推薦・旭化成) ― 小川雄勢(パーク24)
古田 第2試合です。国内でなかなか試合がないので、補助線が少ないのですが。
林 面白いのは、太田選手自身は、小川選手に負け越していると発言しているんですよね。
(高校時代に太田選手が2敗、大学以降は2勝2敗)
朝飛 逆じゃないですか?と思ってしまいます。全日本選抜体重別選手権では内股で綺麗に投げていますし、その前にも内股というか大腰で横にドンと投げて勝っていますよね。
西森 太田選手は小川選手を得意にしている印象です。
朝飛 やりやすそうですよね。
西森 もしかすると、高校時代なども含めると、トータルではまだ小川選手が勝ち越しているのかもしれないですね。参考になるのは、両選手とも力をつけてからの戦いですから、そのイメージをベースに考えるべきかと思います。上水監督が「そろそろ明確な形で勝たないとダメだよ」と送り出し、実際に勝って来た試合が印象に残っています。
古田 来歴でいくと太田選手を推したいところではあります。
朝飛 大きい相手にも良いところで担ぎ技が出るんですよね。ここで欲しいというところで出る。勝負強さもあります。
古田 例えば、小川選手と組み手の取り合いとか圧力合戦になって、嵌るということはあんまりないタイプですよね。
朝飛 羽賀選手などは、太田選手の頭を下げさせるのは本当に難しいと言っていましたね。体幹が強くて、釣り手が上手いのでしょうね。姿勢が良いまま試合を進められます。小川選手は逆に頭を下げさせたいところがあると思うんですけども。過去2回太田選手が勝った試合を見ていると、頭が下がって困ってる場面はなかったですね。
西森 ケンカ四つなので、相四つと比べれば圧を掛けにくい。加えて太田選手が釣り手の使い方がものすごく上手いので、小川選手がなかなか得意のパターンに持ち込めないというところはあります。
朝飛 去年の小川竜昂選手との試合、向翔一郎選手との試合、そしてなんといっても田中源大選手との一番。いずれも釣り手の使い方が抜群でした。完璧に制してしまった。
西森 左組み、ケンカ四つの選手が軒並み太田選手の釣り手に翻弄されてしまった。結局、ここで負けなかったのは羽賀選手だけだった、というところですね。
朝飛 この試合も釣り手の勝負になると思うのですが、ここで太田選手が優位に立って、頭を上げたまま、攻勢を取っていくのではないでしょうか。
古田 そうですね。さきほど太田選手の担ぎ技の話も出ましたけれど。なかなか試合がない中で、10月のグランドスラムパリで小川選手がユール・スパイカースの担ぎ技で一発飛んでしまっているという補助線があります。組み手で押し込まれ、出され、出返したところを担がれてしまった、あの試合を見たばかりのタイミングでは、このレベルの試合で推すことはなかなか難しい。では、太田選手の釣り手の上手さを買って、ここは太田選手の勝利を予想します。
決勝
羽賀龍之介(推薦・旭化成) - 太田彪雅(推薦・旭化成)
古田 いよいよ決勝戦です。昨年と同カード、羽賀龍之介選手と太田彪雅選手ということになりました。
西森 太田選手はこの全日本、いつ以来の試合になります?
古田 4月の全日本選抜体重別以来でしょうか。1回戦、佐藤和哉選手に11分18秒戦った末に「指導3」で敗れています。
西森 このあたりが昨年上水監督が仰っていた「太田は人がいいから上がったと思ったら、すぐまた周りを追いつかせてしまう」という台詞の所以ではあると思います。もしパリを目指して抜け出したいのであれば、もう羽賀選手を倒して優勝するしかないんですよね。太田選手も。
古田 さっきも言いましたけど、何度目かのキャリアの分岐点。壁を乗り越えるチャレンジですね。
西森 そうです。もう影浦選手にとっても太田選手にとっても、まだ若い斉藤選手としても、パリを目指すならまずここでてっぺんを獲るしかない。そういう強い気持ちを持ってやれるか。
古田 羽賀選手も、まだパリを目指す可能性もある。譲れないですね。・・・どう読みましょうね、この決勝。
林 ふたりはいつも一緒に練習しているんですよね。実は。
古田 同じ空間で、という意味ですか?
林 2人は東海大で一緒、しかも旭化成で一緒っていうこともあって、今はトレーニングパートナーみたいな感じだそうです。朝6時半から一緒に走って、トレーニングをして。午後の乱取りも、実際に組んでやることはないようですが、ずっと一緒にやっているそうです。去年も大会前に「決勝でやれたらいいね」と話していて、実際決勝で戦うことになったということのようです。
西森 ここは勝敗を決めなくてもいいんじゃないですか(笑)。
古田 (笑)。
林 去年は決めたのでしたっけ?
古田 影浦選手と飯田健太郎選手が戦うという予想でした。ウルフ選手が欠場したところで、予想としては総崩れの回でしたね(笑)。
林 プラス佐々木選手の大暴れがありましたしね。
古田 今大会最も予想しにくいカードが、「羽賀―影浦」、「羽賀―太田」だと思うのですけど、それが来てしまったということですね。どちらが勝ってもおかしくない、で予想を締めてもいいのですけれども。
西森 本家の「柔道」も、毎回優勝まで決めていましたか?
林 しています。していますけど、毎回外れています(笑)。
一同 (笑)。
古田 私はここは羽賀選手を押しますよ。
西森 強いて言うなら羽賀選手は去年のこの試合のあと、材料なしじゃないですか。太田選手は去年のこの試合のあとに、選抜体重別で味噌をつけていますから。と言うところで、羽賀選手というところが順当ですかね。…何か羽賀君に「日和った」と言われそうな気もします。去年のことがありますから(笑)。
一同 (笑)。
古田 お互いよく知るふたりになると、どうしても嵌め合いになります。去年、まさにその嵌め合いで完璧に獲ったというのは大きいと思います。最後の、いったん外れたところに小外掛、そこに内股、あの流れは太田選手もやりたくないけどやらされてしまった形だったと思うのですけど。
西森 あれは上手かったですね。
古田 羽賀選手引き出しの多さ、そして深さを買ってというところですかね。
西森 文句はないと思います。そこで。
林 本家「柔道」座談会もそうなんですけど、優勝予想すると、意外とその選手は勝たないんですよね。
古田 今までの私たちもそうですよね。
林 それが全日本選手権の良さというか、奥の深さというか、面白さなのかもしれないけど。だから、ここで「優勝予想してくれるな」と思われたりしてね。
おわりに
古田 というわけで今回も一応、決勝まで駆け抜けました。毎回ここでひと言まとめの言葉を頂いているんですけど、皆さま、よろしいでしょうか。
林 斉藤立選手が膝のケガが実はたいしたことがなくて、優勝してほしいと思います。
一同 (笑)。
古田 今まで積み重ねてきたものを、一瞬で覆すこのまとめ!
林 パリのことを考えると、そろそろ彼に出て来て貰わないといけない、とは思います。
古田 まあ、私たちの予想というのは「正シナリオ」を提示して、ここからどう外れるかを楽しんでもらうという形ですから、予想が外れるのは大歓迎だったりするんですが(笑)。西森さんひと言頂いてもよろしいでしょうか。
西森 今年も絶対的な本命は不在の大会だと思うんですよね。だからこそ、とくに優勝を目指す選手には「野心」を持って挑んでほしいと思います。全日本選手権で3位に入ってくる選手は、少し運を味方にすれば優勝を狙える力があるはずなので、チャンスは滅多にない!と思って取りに行って欲しいと思います。
古田 朝飛先生、最後にお願いいたします。
朝飛 毎年同じような話をしてしまうんですが、全日本選手権というものは、本当に技の祭典。その中にものすごい駆け引きがあったり、ものすごい罠があったりという魅力をまた今年も見せて欲しいということと、昨年の佐々木選手のようなそれをすべて打ち破って、自分の技を出して周りを驚かせるような、そういう選手が出てきてくれれば幸せだなと思います。それと、先ほどから名前が出ているのですが、斉藤立選手だったり髙橋翼選手だったり、若い人たちがこの大会で、殻を破って、自分の力を出してくれるような、そういう展開も期待しております。
古田 長い時間、ありがとうございました!
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