①一回戦/令和3年全日本柔道選手権振り返り座談会

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※座談会は2022年1月4日と5日に、オンラインで行われました。

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古田 恒例の「振り返り座談会」、今回も豪華メンバーにお集まりいただきました。松の内から、まことに恐縮です。…ではまず、令和3年全日本選手権を終えて、まずひとこと頂戴出来ればと存じます。もちろん最後に総評という形でもまとめも頂くのですが、まずは率直な感想を。上水先生の方からお願いできるでしょうか。

上水研一朗
東海大学体育学部武道学科教授、男子柔道部監督。2008年の監督就任以来2014年まで同校を全日本学生柔道優勝大会7連覇、2021年まで計12度(2015年より5連覇中)の優勝に導いている名将。斯界きっての理論派として知られる。自身も全日本柔道選手権に3度の出場を誇る。

上水 全日本選手権。一年に一回、この大会がないとやっぱり柔道家としては寂しい。今年も無事開催していただいて本当に良かったというのがまず一番ですね。そして、あらためて無差別の試合は難しいなと感じました。選手を送り出す立場からすると、なかなかこう・・・実力通りの力を発揮するのが非常に難しい大会でもあります。その「まぎれ」があるからこそ面白い大会なのかなと、今回あらためて感じました。

古田 変数の数や方向性が、常の舞台、あるいは体重別大会とはまったく違うということですね。ありがとうございます。朝飛先生、お願いいたします。

朝飛大
朝飛道場館長、慶應義塾大学師範。日本を代表する指導者であり、少年柔道指導の第一人者。自身も昭和60年大会に出場、世界選手権100kg級の覇者羽賀龍之介をはじめ多くの教え子を全日本選手権の場に送り込んでいる。令和2年大会からは全日本柔道連盟LIVE配信の解説にも携わる。

朝飛 はい。今回はあらためて「技」の重要性を感じました。技をしっかり持っている選手は三十歳を超えても、まだ優勝するチャンスが出てくるのだなと。また、そういう「技」がある選手が優勝する大会なんだなとの思いを一層強くした試合でした。きっとこの試合を見た子供たちは、普段稽古している自分の技に思い入れを強くしてくれるのではないか、打ち込みや自分の柔道のスタイルに対しての思いが強くなる大会なのではないかと思いました。

古田 ありがとうございます。たとえば羽賀選手の内股が、自分がいま道場で稽古している技と地続きであるというのは誇りになりますし、垣田選手の背負投が自分が普段繰り返している基本の背負投の打ち込みと繋がっている、というのは凄いことですよね。そして、やっぱり、組み手や戦術も、「技」というゴールがあってこそ。最初から、後からでも伸ばせる組み手や戦術「だけ」ではここまでは来れない。理に適った技を持ち、長い期間その「技」を練り続けることがいかに決定的なことかが、ベテランたちの活躍で骨身に染みた大会でした。では、最後に西森さんお願いします。

西森大
NHK松山拠点放送局・報道番組プロデューサー。業界では希代の柔道マニアとして名高い。NHKスペシャル「日本柔道を救った男~石井慧 金メダルへの執念」、「アスリートの魂 どんなときも真っ向勝負 柔道 大野将平」などを制作。2016年からは全日本柔道連盟広報委員も務める。

西森 はい。去年以上にある意味…全日本選手権という最高峰の場にあっても「二極化」を感じさせる大会だったと思います。たとえば、特に旭化成勢が非常に充実していて、見せる柔道の質も高い。そして戦術、戦略のところでも非常に相手のことをよく研究して臨んでいる。一方で、地方の選手に対してはやっぱり稽古不足を感じました。また今回は、テクニカルな「指導」が早かったわけですが、その「指導」1つの差が終盤に「指導2」対「指導3」の決着という形で出てしまった。その「指導3」を貰ってしまう側の選手に、地方の選手など国際大会と縁が遠い選手たちが多かった印象を受けました。そういう意味で、この大会を勝ち抜くためにどう戦うかというところで、二極化を感じさせられた大会だったと思います。

古田 ありがとうございます。西森さんが「二極化」の例として挙げられた「指導」のお話。今回はテクニカルファウルをかなりきちんと取ってきた。こうなると「指導」は「作り」であるという側面が強くなることはもちろん、試合を終わらせるツールとしての力もいや増します。今回は相手の挙動をコントロールする、状況を作るツールとして「指導」を使えている選手とそうでない選手にかなり差があるなという話は、当日、朝飛先生ともしていたのですが、その差が直接試合を決めるところまで繋がりやすくなっていましたね。普段から国際大会などで揉まれて、解像度高く戦略を組み立てることに慣れている選手は、素早く対応して試合を優位に運んでいました。

司会 古田英毅
eJudo編集長。全日本柔道選手権では令和2年大会から全日本柔道連盟LIVE配信の実況・解説を務める。

一回戦

小林悠輔(東海・渡邉電設)○GS反則[指導3](GS1:05)△小川竜昂(近畿・日本製鉄)

小林悠輔が巧みな組み手で主導権確保、細かく技も積んで小川竜昂を完封。

ともに左組みの相四つ。双方まず引き手で襟を持たんとするところから組み手争いがスタート。駆け引きの上手い小林、今回はフィジカルの強さも際立つ。片手交換、組みなおし、あらゆるきっかけの中に前進を擦り込み、1分10秒小川のみに「取り組まない」咎による「指導」。小川一計を案じまず引き手で袖を絞って足元を蹴り崩し、次いで釣り手で奥襟を狙うという手順に切り替えるが、小林は己の釣り手の袖を抑えられるとすぐさま小川の釣り手の袖を絞り返して挙げさせず、力の掛かる形と距離を決して与えない。小林は釣り手片襟、引き手袖、引き手襟、と形を変えて小川の力を封じながら前へ前へと体を運ぶ。小川左払巻込を見せるも小林弾き返して動ぜず。小林は片袖の大内刈、大内刈崩れの片襟背負落と細かく技を積み、残り19秒には小川に消極的試合姿勢の「指導2」。GS延長戦、小川は引き手で袖を得ると左大外刈に飛び込むが小林力が掛かる前に袖を抑えて止めると、逆に前に出て場外まで相手を押し出す。しかし小林が釣り手一本のみで押し込んだGS34秒、小林に「取り組まない」咎の「指導」。直後、小川は引き手で袖、釣り手で奥襟を持ちつつ思い切った左大外刈。この技はついに届いたかと思われたが、小林時計回りに反転、あっという間に力の圏外に抜け出して効かせず。小林はここで肚を決め、片襟から引き手で袖を持って来た小川の組み合いに応じると、持ち返して引き手で袖、釣り手で奥の一方的な形を作り出す。小川の頭を下げ切ったまま足元を蹴り崩し続けると主審試合を止め、小川に3つ目の「指導」。小林の進退は融通無碍、しかも力強い。まさに完封という様相の一番だった。(戦評・古田英毅)

古田 一回戦、小林悠輔選手と小川竜昂選手の試合です。GS延長戦「指導3」で小林悠輔選手の勝ち。いかがだったでしょうか? それでは西森さんからお願いします。

西森 事前の予想座談会では小林選手が旭化成から所属が変わってどれくらい稽古が積めているのか、そして体重が増えたことがどのように柔道に影響を与えているかというところに注目したのですが。結果から言うと、非常に重厚な選手になりましたね。もともとの組み手の上手さに、体重が増えて前進圧力が加わった。これで相手の小川選手が全く組み手を作れず、いい形になれなかったですね。小林選手に塗りつぶされたような恰好になって、その中で「指導」をどんどん取られてしまった。当日の中継で聞いたところによると、小林選手は筑波大学でコーチもされているということで、練習量もそれほど落ちてないのかもしれないですね。去年とはまた違った形で、小林選手の強さを感じた一回戦でした。

古田 小林選手は筑波大学で稽古をしていたということですが、後に、コロナ禍の中で学生たち全体を引き締めたのが小林選手のコーチングや稽古に向かう姿勢だ、との話も聞こえてきました。この試合はまさしく「塗りつぶした」という印象でしたね。一応片手交換はするのですが、前に出る圧力でもうすべてを塗りつぶしていました。上水先生、いかがでしたでしょうか。

上水 西森さんのおっしゃる通り、落ちているどころか、逆に力を増したのではないかという印象を受けました。私は基本的に控え室にいたので、選手や付き人の声も聞こえて来るんですが、皆、一様に「強くなってるんじゃない?」と話していました。力強さが増した、と。もちろん体重が増えたというのもあると思うのですが、やはりコーチングをすると、これまで見えなかった部分が見えるようになって、自分自身をおさらいできるところはあると思うんです。むしろ逆に、隙のない選手になったイメージがありましたね。去年までも確かに上手い選手だったのですが、プラスアルファでより練り込まれた柔道を完成させているのかなという気はしました。小川選手も強い選手なのですが、ほぼ何もさせなかったですよね。あそこまで圧倒できる力は去年あったのかとなると、そうとは言い切れない。力も技もアップしたのかなと思いました。

古田 ありがとうございます。朝飛先生、一言お願いします。

朝飛 あのー……上水先生の細かい分析の後で言うのが、ちょっと恥ずかしいんですが……美味しいものを食べているのだろうなと思いました。

西森 (笑)

古田 結婚されて。

朝飛 生活も充実して、美味しいものを食べてパワーアップして、気持ちも乗っているなという風に見えました。

西森 小林選手こそ来年以降の一番の「門番候補」じゃないですかね。

古田 間違いないと思いますね。この体格、このパワーの選手に、ここまでの組み手をやられたらちょっとどうしていいかわからない。試合を見ながら戦評メモを書いて、後から見ると感じ入るのですが、小川選手が片方良くすれば必ず片方悪くすることを本当に徹底していました。前はもう少し「俺も投げたいから」みたいな色気があってそこが隙になっていたと思うんですけど。今回の試合を見ていると、小林選手は刃の入れどころが、ちょっとないですよね。

上水 妥協していなかったですよね。

朝飛 試合場に上がってくる顔つきがまた格好良い。

西森 間違いなくベスト8の力ですよね。小林選手に勝てるようだったらベスト8以上が見込める、というぐらいのレベルの高さだと思います。

古田 色んな意味で、まさに門番というところですね。

上水 小林選手が上がって来たトーナメントは、非常にハードルが高い山でした。今回も、もし羽賀選手との対戦でなければさらに上が見込めたというか、大会自体を揺らすレベルまで行った可能性があります。それぐらい充実していました。

古田 全日本、「令和の基準点」出現を感じさせた試合ということになりますね。

山本悠司(九州・旭化成)○優勢[有効・背負投]△田中源大(近畿・日本製鉄)

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