③三回戦/令和3年全日本柔道選手権振り返り座談会

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※座談会は1月4日・5日にオンラインで行われました。
左上より司会の古田、上水研一朗氏、左下より朝飛大氏、西森大氏。

(二回戦からつづく)
→全試合結果 →全試合戦評

三回戦

羽賀龍之介(推薦・旭化成)○GS反則[指導3](GS2:11)△小林悠輔(東海・渡邉電設)

最終盤、組み勝った羽賀龍之介は右への浮落で勝負に出る。

ともに左組みの相四つ。羽賀はまず引き手で腋、足技で蹴り崩して釣り手で奥襟確保という手堅い手順からスタート。しかしこれに対抗する小林の組み手が強い。引き手を内中袖に置いて羽賀の釣り手をブロック、釣り手片襟も交えてとにかく羽賀のやりたいことをやらせない。羽賀は繋がることを優先しながらも小林の片手交換にも対応せざるを得ず、1分8秒両者に消極的試合姿勢の「指導」。以後も羽賀は引き手腋下をベースに様々な手段で組み手の階段を登ろうとするが、小林は少しでも隙を見せるとすぐさま登り返して優位に立たんとする。片手交換の中で時に引き手で袖を掴み、危険な香りを感じるとすぐさま切って全てをやりなおす。試合時間2分になるところで羽賀が釣り手を奥襟に降らせると小林が右一本背負投、待ち構えた羽賀がこれを抱き返さんとするという攻防があったものの、厳しい組み手争いが続いてなかなかお互いこれぞという技は出ない。羽賀は引き手を内中袖に入れるなどさまざま手立てを繰り出しつつ隙を探す。小林の大内刈を羽賀が立ったまま潰した2分48秒、双方に「取り組まない」判断による「指導2」。
このあたりから羽賀が引き手の終着点を袖に定め、アドバンテージを取り始める。3分過ぎには引き手で袖を絞ったまま釣り手を首裏に入れる形を2度。いずれも小林が体を揺すって脱出したが、これで手ごたえを得たか、羽賀は「大内・小内」のエントリーから再び引き手で袖を得てこのまま前へ。危険を感じた小林が切り外したところで本戦4分間が終了、試合はGS延長戦へ。羽賀は種々様々手立てを繰り出し、やはり終着点は「引き手袖」。ここから釣り手の肘を挙げて首裏にアプローチすること2度、3度。いずれも小林が外すと具体的に優位な絵が必要とみたか、GS1分33秒に再びこの形を作るとすぐさま引き落とし、小林を腹ばいに這わせる。どうやらゴールの見え始めた羽賀、引き手で袖を掴むと釣り手で奥襟へのアタックを繰り返し、がっちり首裏を確保。左大外刈様のフェイントを呉れると、両手で首裏を掴んで反時計回り(右)の浮落で激しく捩じる。これは小林なんとか耐えたが、力の圏外に逃れたところで思わず一歩下がり、場外に出でてしまう。主審試合を止め、映像チェックを経て小林に場外の「指導3」。羽賀、苦しい試合を勝ち切ってベスト8入り。小林の強さ、羽賀の出口を探す目の確かさと引き出しの豊かさ、ともに際立つ一番だった。(戦評・古田英毅)

古田 それでは三回戦。第1試合の羽賀龍之介と小林悠輔選手、GS延長戦「指導3」で羽賀選手が勝った試合です。それでは西森さんからお願い致します。

西森 怪我のことを知らないまま見ていると、手の内を知る者同士、組み手が巧みな者同士が見応えある組み手の攻防を繰り広げて、結果羽賀選手が上回った、というふうに見えたのですが。後から怪我していたということを聞くと、二回戦の藤本選手がちょっと実力差のある相手ではあったので、この小林選手との試合が羽賀選手にとっては本当に自分が今日戦えるかどうかを測る試合だったのかなというふうに思えます。その中で得意の内股をほぼ使うことないまま小林選手を完封出来たというのは、その後に向けて光明が見えた一番だったのかな、と感じました。

古田 ありがとうございます。朝飛先生はいかがでしょうか。

朝飛 試合場への階段を上がって来る仕草、「たまり」での動きなど、これは大丈夫かなと思うことばかりでした。今西森さんが仰られた通り、羽賀はすべての試合を通じて彼らしい内股を掛けていないと思うんですよね。それでも試合を作ることが出来た。組み手、そして足技の強さゆえですね。この部分の強さを感じた試合でした。…古田さんは隣の席にいらっしゃいましたが、この試合、どう見られていましたか。

古田 僕が羽賀選手の異変を感じたのは、やはりこの小林選手との一番が最初でした。最後の場面で、完全に首裏を掴んで組み勝ったところで、決め技に右の浮落を選んで捩じったところです。そこまで行っても内股を使わない、今日はいったいどんな縛りがあるのかと。これまでの疑問が閾値に達して、明らかにこれはおかしい、と思った場面でした。とはいえ、「小内・大内」のエントリーや、引き手を袖狙いに改めるなど、展開を見る目や手立ての豊かさ、羽賀選手の奥行きの深さが際立った試合だったと思いました。…失礼しました。上水先生、お願いします。

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