五輪3連覇のレジェンド・野村忠宏氏が主催する柔道イベント「DaiwaHouse presents 第十回 野村道場」(Nextend主催、大和ハウス工業特別協賛)が9月7日、横浜武道館で開催された。
一流柔道家と子どもたちが、柔道を通して交流を深めるこのイベント、パリオリンピックの熱冷めやらぬ中で行われた今回のゲスト講師はひときわ豪華なメンバーとなった。男子日本代表の鈴木桂治監督に加えて、男子81kg級の永瀬貴規、女子48kg級の角田夏実、同57kg級の出口クリスタと、パリの金メダリストが3人集結。準レギュラー講師の人気Youtuberドンマイ川端氏が「(自分を入れた)6人で金メダル8個!」と表現したこの豪華メンバーを目当てに、この日は柔道未経験者を含めた小中学生約250人が目を輝かせて会場入り。さらに無料開放された観客席には「生で柔道を見ること自体が初めて」というファンも含めた観客約1500人が詰めかけ、立ち見まで出る盛況だった。参加者はもちろんスタンドも巻き込んで、イベントは時間いっぱい、大盛り上がり。オリンピックの熱冷めやらぬ一般ファンの応援を受けて、イベントとしてのスケールも一段上がった感あり。第10回という節目にふさわしい、「野村道場」これまでの集大成的なイベントとなった。
野村氏の「きょうは強くなるための柔道じゃない、楽しむための柔道だよ!」というオープニングトークで始まったイベントは恒例の「礼法指導」、「ランニング」、「サーキットトレーニング」を経て、講師たちの「技披露」(指導)へと移る。
まずは鋭い足技で知られる鈴木桂治監督が、引き手側の「出足払」を披露。「足踏みするつもりで常にステップを切って」「自分の踵の下のプニプニした部分を、アキレス腱のあたりに相手が『痛い!』というくらいぶつける」とコツを語ると、子どもたちは目を輝かせ、その場で足を振り始める。出口は「体が流れない!ピタッと止まっているのが凄い」とその重心コントロールの妙に驚嘆。永瀬も「僕も足技は得意だが、レベルが違う」と脱帽していた。
続いては出口が、得意の大外刈と、アブダビ世界選手権で決めて話題になった伝説の技・山嵐を披露。リクエストを受けて、ケンカ四つの大外刈(斜めから引っ掛け、軸足を寄せて投げる)も見せてくれた。「大外刈が返されてしまう」という子どもたちの声には「体の芯がぶれなければ大丈夫。焼き鳥になったつもりで、体にまっすぐ棒が入ったつもりで掛けよう」と丁寧に答えていた。
3人目は永瀬が登場。「永瀬選手の得意技は?」の声に「(オリンピック決勝で決めた)谷落!」「内股!」などの声が上がる中、長い体を生かした足車と跳腰型の内股の2つを披露した。その鋭さに歓声が上がる中、ドンマイ川端氏が「相四つの足車を見たい!」とリクエストすると、相手が差した引き手を手で払いのけて投げる奥義も開陳。さらにここで「永瀬選手を投げてみる」という突発イベントが発生、内股で金メダリストを投げる栄を得た中学生柔道家は「重みが違う!」と感嘆していた。
ひときわ盛り上がったのが業師・角田の登場。柔道未経験の子どもからも「巴投!」「(腕挫)十字固!」と声が掛かる中、期待に応えて必殺技・巴投を披露した。「相手との引っ張り合いを利用して掛けるので、守ろうと思えば思うほど掛かる」「相手と1つの円になったつもりで掛ける」とその「必殺」の秘密を語り、子どもたちには「まずはここから」と投げるのではなく、「相手を足裏で支えて5秒キープ」のアクティビティを指導。
そしてここで「なぜこんなにも掛かるのかわからない」という野村氏が、自らその巴投を受けてみるという、またもや突発イベントが発生。一撃目を両足着地で受け切った野村氏が2発目で大きく飛んで背中を着くと、場内は大喝采。野村氏は「1回目で蹴り上げて、2つ目の足でコントロールするのがうまい」と絶賛、角田は「うまい選手とやると捌かれるので、1回目だけでは難しい。相手がどちらに避けるか判断して、避けた方向に倒す」とその奥義を語っていた。
技披露の締めには、イベント主宰の野村氏が登場した。もちろん技は背負投。「私の背負投はめちゃくちゃスピードがあって威力がある。普通の人が受けたら骨が折れちゃうくらい」との予告に違わず、今回も「ナマ野村背負投」の説得力は半端なし。披露したのは、残身を利かせた高い背負投、そして相手の上に乗って腰を切る「決め」を利かせた、低い位置から伸びあがる背負投の2種。そのスピード、切れ味、迫力、そしてパリ五輪団体戦を模した「ルーレット」で受けに選ばれたドンマイ氏が悶絶するさまに、子どもたちも観客席も大拍手だった。
続いて、「初心者が野村氏を背負投で投げてみる」段になると、角田・出口が「私たちも投げられたい!」と志願。トレーニングウェアで金メダリストを投げた子どもたちは、マイクを向けられると「楽しい」と「人生初投げ」の感想を語って目を輝かせていた。
イベントは、講師を交えた1分半4本×2セットの乱取りと、講師たちが観客席を巡ってハイタッチで交流するファンサービスタイムを経て、トークショーへと移る。「凄い歓声の中で、楽しく、そして結果も出せた」(永瀬)、「7年越しの目標、内容は納得いかなかったが金メダルを持ち帰れてよかった」(出口)、「初めてのオリンピック。夢をあきらめないでよかった」(角田)と、五輪トークが終わると、恒例の質問コーナーがスタート。「GSで苦しくても前に出る底力はどうつけられますか?」「体力がないので本戦で投げることを意識しています。GSはやるしかないの気持ちです」(出口)、「最後まで技をかけるにはどうすればいいですか?」「稽古から、最後まで掛け続けることを意識すれば試合でも生かせます」(永瀬)、「パリオリンピックは緊張しましたか」「1回試合をすればほぐれる世界選手権とは違い、全試合足が震えるほど緊張していました」(角田)、「今日はブラジャーつけてきていますか?」「大勢の人がいるときはつけません」(川端)など、小中学生の疑問に講師たちは丁寧に回答。出口に「カナダ代表の雰囲気は日本代表と違いますか?」との質問が出ると、鈴木監督が「(ライバルの)クリムカイト選手とは仲いいの?あまり話している姿を見かけないですよね?」と追加質問。出口は「ぶっこみましたね」と苦笑いしながら「彼女は静かで、私に限らずあまり皆とたくさん話すタイプではない。でも普通に仲良しですよ」と応じていた。
恒例の豪華プレゼント企画と、講師たちとの「じゃんけん大会」を経て、3時間近くにわたったプログラムは終了。野村氏の「会場の皆さんも盛り上げてくれて、みんなで作り上げた空間。本当にありがとうございます。帰ったら、身近な人たちに、ぜひ『柔道、良かったよ』と話してあげてください」との言葉でイベントは幕となった。
出演者のコメント、ギャラリー(写真によるレポート)は下記。
講師コメント
野村忠宏氏
「過去最高の盛り上がり。パリ五輪で活躍した選手たちがこんなに協力してくれて、子どもたちはもちろん、柔道を生で見るのが初めてというお客さんもこんなにも集まってくれた。手探りでスタートした野村道場が第10回を迎えて、皆さんのおかげで大盛況で、本当に喜びと感動でいっぱいです。子どもたちが、笑顔、喜び、色々な表情を見せてくれたことが何よりも嬉しかった。自分は柔道に育てられた人間。まだ体も動きますので、どんどんいいイベントにして、柔道に恩返ししていきたい」
鈴木桂治氏
「パリの金メダリストが3名。これってなかなか出来ることじゃない。野村先輩にしか出来ないことってあるなと思いました。ぜひ末永く続けてもらいたいですね。僕が小さいころに山下(泰裕)先生や斉藤(仁)先生に会ってうわっと思ったように、いつまでも『この人に会ったよ!』と言ってもらえる存在でありたいと、あらためて思いました。」
永瀬貴規選手
「こんなにゴールドメダリストが揃うイベントはない。子どもたちがうらやましいですし、私自身もとても楽しかった。これを機にもっと柔道を楽しんでもらえたらと思います。これまであまり普及イベントには参加していなかったんですが、これからは金メダリストの自覚を持って、教室などに参加して普及を盛り上げていけたらと思います」
角田夏実選手
「柔道未経験の子どもたちが巴投を知っていて、みんなオリンピックで柔道を応援してくれていたんだなと実感して、嬉しかったです。他の講師の方々の技を見て、色々な柔道観があるなと勉強させてもらいました。受ければもっとわかると思うので、今度は道場で私にも技を掛けてもらいたいです。野村先生の背負投は、受けたら体が壊れてしまうのではないかと思うほど凄かった」
出口クリスタ選手
「私の幼少期はこんなイベントはなかったので、正直羨ましいですね。こうしてメダリストたちと触れあって、いつか自分があの立場になれたらと思って、頑張ってもらえたらと思います。自分はずっと勝負勝負で来たので、『柔道が好き』という純粋な気持ちに触れて初心に帰れた部分もあります。普及はもちろん、カナダと日本の交流という点でも頑張っていきたい。」
ギャラリー(写真レポート)
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