(④三回戦からつづく)
※座談会は2023年5月2日・3日に行われました。
準々決勝
田嶋剛希(東京・パーク24)○GS反則[指導3](GS4:08)△原沢久喜(中国・長府工産)
身長191センチ体重120キロの原沢、同170センチ90キロの田嶋ともに右組みの相四つ。「はじめ」が宣されるなり田嶋猛然とダッシュ。引き手で背中、釣り手で奥襟の「抱き勝負」に打って出る。そのまま引き手で横帯を引っ掴んで左釣腰を呉れると原沢の大きな体が浮き、場内はどよめき。しかし主審冷静に見極め、開始10秒田嶋にベアハグの「指導」。
以後は原沢が巧みに釣り手で奥襟、引き手で襟・袖を掴んで組み勝ち、しかし田嶋が敢えて嫌い過ぎずに組み合いに応じ、引き手で横帯を掴んでの左釣腰で対抗するという展開になる。原沢腋と奥襟を掴んでコーナーまで詰めるも田嶋が左袖釣込腰で切って34秒「待て」。続いて原沢が襟と奥襟を掴んで引き出しながら鋭い右小内刈、田嶋の背を低くすると釣り手で上から後帯を引っ掴み、しかし田嶋がまたも左釣腰で展開を切って1分29秒「待て」。さらに引き手で襟、釣り手で首裏を掴んだ原沢が前に引き出して今度は右内股も、田嶋は脚を高く上げて受け切り、やはり左の釣腰で展開を切って2分27秒「待て」。ここまで組み勝ちながらもなかなか投げることの出来ない原沢、手だてを変えて片手の大内刈を使ってがっぷり奥襟を捕まえると、引き手は袖の内側でポケットを作って厳しく把持。田嶋はこの引き手を切れずにやや窮するも、しかしここから具体的な技が出ない原沢の側が両手を使って引き手の持ち替えを企図。この作業の過程で片襟に差した釣り手を残してしまい、3分11秒片襟の咎で「指導」。ここで累積反則はタイとなる。本戦最終盤、原沢が組み勝つと田嶋が思い切った右大内刈で剥がし、離れたところで両者は暗黙のうちに延長戦突入を合意。離れたまま終了ブザーの鳴動を待ち、試合はGS延長戦へ。
延長開始早々、原沢は組み勝つとまず右大内刈、次いでこの残像を晒して鋭い右小内刈。この連携で崩して釣り手で後帯を掴むと、右釣腰で田嶋を体ごと持ち上げんとする。田嶋も横帯を持ち返して受け切ったが、直後のGS延長戦24秒、田嶋に消極的試合姿勢の「指導2」。以後も原沢は釣り手で奥襟を持ち続けて優位。ここで展望大きく開けたと思われたが、田嶋は苦しい体勢からも左一本背負投に左袖釣込腰と浅いながらも打ち返して組み手を整え、GS延長戦1分24秒には手首を頭上に大きく抜いた左袖釣込腰。ひときわ深く粘ったこの技の直後、原沢にも消極的試合姿勢の「指導2」が与えられてスコアは再びタイとなる。
以後はまさに死闘。田嶋の引っこ抜きの左袖釣込腰を原沢が膝を着いて受け切ったGS延長戦1分47秒には、観客席から大きな拍手。続いて田嶋が右大外刈から右大内刈、これを原沢が浮落で捩じり戻し、田嶋が左一本背負投で展開を切ったGS延長戦2分40秒には田嶋が大の字、原沢が正座したまま立てなくなり、またもや客席から大拍手が沸き上がる。以後も田嶋の左釣腰で展開が切れた同3分3秒、田嶋の大内刈を原沢が胸を合わせての浮落に捉えかけた同3分18秒、抑え込まんとした原沢の「足抜き」を田嶋が正対に戻して「待て」の掛かった同3分43秒と、展開が切れるたび2人は容易に立ち上がれず、その度に観客席からは拍手と声援が沸き起こる。続く展開、原沢が奥を叩くと田嶋は左の内巻込。袖先を深く抱き込んで回旋を強いると、原沢はわずかに飛んで膝から畳に落ちる。そして、正座したまま立てない両者の背後で主審が「服装を正せ」のゼスチャー。GS延長戦4分8秒、原沢に消極的試合姿勢の「指導」が宣されて、試合が終わった。
(戦評・古田英毅)
古田 田嶋選手と原沢選手の試合、西森さんからお願いします。西森 田嶋選手としては持てる力を最大限に出そう、ということでいきなり「ベアハグ」を取られるという、ある意味。
古田 「名誉の指導」ですよね。
西森 微笑ましいぐらいのスタートでしたね。その後は原沢選手がリーチの差を生かして攻勢をとりました。先に田嶋選手が「指導」を貰ったんですけど、そこから原沢選手の側が攻められなくなってしまった。東京オリンピックの準決勝もそうなんですけど、ここぞという場面で「打てなくなる」、ここ数年の原沢選手の課題をあらためて感じました。あとは、田嶋選手の敢闘精神や、左右どちらからも技を出せることの強みを強く感じる試合でした。
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