⑦決勝・総評/令和5年全日本柔道選手権大会・振り返り座談会

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座談会参加者。右から朝飛大氏、上水研一朗氏、西森大氏、司会の古田。

⑥準決勝からつづく)
※座談会は2023年5月2日・3日に行われました

決勝

王子谷剛志(九州・旭化成)○GS反則[指導3](GS4:56)△羽賀龍之介(東京・旭化成)

決勝を戦う王子谷と羽賀

決勝は王子谷が右、羽賀が左組みのケンカ四つ。王子谷が引き手で手繰って釣り手を先んじて確保、羽賀が「内股・小内」で剥がすという攻防から試合がスタート。ベースラインは、釣り手を上から持ちたい羽賀に対して王子谷がこれを己が上から持つことで封じておいて前進、しかし羽賀が引き手の掌を合わせて押しとどめつつ、やはり下がりながら組み手を直してしまうという構図。しかしこの試合は王子谷の突進力が優る印象、34秒にはその突進自体で羽賀の両足が一瞬跳ねあがり、場外に弾け打されて「待て」。以後も王子谷の徹底前進の前に羽賀は場外を背負い、横に伝い歩かされる場面が続く。左内股に「内股・小内」でいなし続けるが、王子谷1分20秒からの展開では股中に体落を落として崩し、引き手を求めながら激しく前へ。羽賀が2度コーナーに詰まったところで試合が止まる。裁定は双方に対する消極的試合姿勢の「指導」。

以後も王子谷の徹底前進を羽賀が濃やかな組み手と足技の連動でいなし、チャンスを探る絵が続く。前に出る王子谷、巧さで抗する羽賀という構図のまま試合は進み、いったん互いが離れた3分30秒には双方に消極的試合姿勢の咎で「指導」。息詰まる陣地争いのさなか、王子谷が首を僅かに振って羽賀の釣り手の拘束を外して突進。下げられた羽賀がコーナーで踏みとどまったところで本戦終了のブザーが鳴る。ともに「指導」2つを背負ったまま、試合はGS延長戦へ。

王子谷の突進、羽賀は場外を背負っての攻防が増える。

延長戦も王子谷の突進力が際立つ。しかし羽賀、GS延長戦1分3秒には場外を背負わされたまま横滑り、この釣り手側への横移動を利して左内股で大きく跳ね上げる。技の印象で先を行かれた王子谷すぐさま反撃、組み際にいったん突き放すと袖を抱えて左一本背負投に飛び込む。王子谷の意外な担ぎ技に場内はどよめき。勢いを得た王子谷両手を張って前に出、右内股で崩し、右小外刈で詰めて場外に追いやりと攻勢。しかし続いて片手の右内股を2連発して潰れると疲労が襲い、ペースダウン。ここに至ってついに羽賀が前に出る絵が増え始める。GS延長戦2分46秒には左内股、これは王子谷が透かしたが、消耗で立てぬ王子谷を背に羽賀いちはやく開始線に戻ると再び左内股を連発。「待て」が掛かると王子谷は容易に立てず。

王子谷が左一本背負投を連発、一気に抜け出す。

しかし王子谷は利かぬ体に鞭打って陣地を押し返す。GS延長戦3分50秒には引き手争いから左一本背負投を見せ、続く展開も組み際に再度左一本背負投。今度は袖先を首に抱えこむ内巻込式で羽賀を大きく崩す。さらに片手の内股で頭を下げさせると引き手で後襟、釣り手で横帯を持って場外に引きずり、時計回りの浮技。これは届かず、倒れた王子谷は一瞬大の字になって立ち上がれずも、ついに技数に差が出始めた印象。続いて組み際に左一本背負投崩れの「一本大外」。さらに場外際まで追い込み、膝を着きながら右内股の形で脚を上げ、もろとも崩れる。もはや投げることは難しいという印象だったが、最後の体力を振り絞ったこの技の直後、主審は「服装を正せ」とのゼスチャー。GS延長戦4分56秒、羽賀に消極的試合姿勢の「指導」を宣し、ここで王子谷4度目の全日本選手権制覇が決まった。
(戦評・古田英毅)

古田 というわけで、決勝戦まで参りました。王子谷選手と羽賀龍之介選手の一番です。王子谷選手には上水先生、羽賀選手には上水先生と朝飛先生と、この場に師匠が2人おりますので、またもやで恐縮ですがここは西森さんのほうからお願いします。
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