①一回戦/令和5年全日本柔道選手権大会・振り返り座談会

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座談会参加者。右から朝飛大氏、上水研一朗氏、西森大氏、司会の古田。

※座談会は5月2日・3日に行われました。

令和5年大会を振り返る

古田 今回も「全日本選手権振り返り座談会」のためにお集まりくださり、ありがとうございます。もちろん最後にそれぞれまとめの言葉はいただきますが、まずは今回の大会を見てのインプレッション、終わってみての感想をひと言ずついただいて、そのうえで1回戦から順に試合の振り返りを始めたいと思います。よろしくお願いします。まずは上水先生、率直なインプレッション、どんな大会だったでしょうか。

上水研一朗
上水研一朗 東海大学体育学部武道学科教授、男子柔道部監督。2008年の監督就任以来2014年まで同校を全日本学生柔道優勝大会7連覇、2016年から2022年まで6連覇と、計13度の優勝に導いている名将。斯界きっての理論派として知られる。自身も全日本柔道選手権に3度の出場を誇る。

上水 昨年の「振り返り座談会」で、斉藤立選手が優勝したことを受けて、私、おそらく「新しい時代が切り開かれた」という話をさせて頂いたと思います。今年の全日本は、その新しい時代が切り開かれた後に今度は「まだまだ忘れるなよ」とベテランが奮起した、そういう大会だったと思います。30代同士が決勝を争った全日本というのは、私が記憶するところでは、ない。もちろん大会のすぐ後に世界選手権が組まれて、代表が出ていないことについて皆さん考えたりおっしゃったりするところもあると思うんですが、体重無差別とともに全日本選手権の魅力である、世代を超えた戦いが見られたと評することも出来ますし、本人たちの努力や科学的アプローチがあって全体的に昔よりも競技年齢が確実に上がって来ている、そういうものが垣間見えた大会であったとも思います。七戸龍選手は今回が最後ということですが、34歳まで戦ったわけですから。あとは今回の全日本選手権は「技術」ですね。技術の集約というものが随所に見られた大会だったと思っています。

古田 ありがとうございます。当日、LIVE中継の解説でご一緒した西田優香さんから「今年は復活祭ですね」というコメントがあったのですが、まさにそんな印象を受けましたし、今の上水先生のそれが「全日本選手権らしかった」というのも随所に感じます。かつては柔道家の旬は30代だったという時代もあったそうですし、スポーツ科学の発達という側面はもちろん、そういった、ゆかしい「武道家の全日本」という匂いもしますよね。技術も高かったということで、これは振り返りで存分に語って頂きたいと思います。続いて西森さん、一言いただきたいのですが。

西森大
西森大 NHK高知放送局コンテンツセンター(制作)チーフ・リード。業界では希代の柔道マニアとして名高い。「NHKスペシャル 日本柔道を救った男~石井慧 金メダルへの執念」、「アスリートの魂 どんなときも真っ向勝負 柔道 大野将平」などを制作。2016年からは全日本柔道連盟広報委員も務める。

西森 まず、事前に注目点として過去に優勝経験のある原沢久喜選手、王子谷剛志選手、羽賀龍之介選手の戦いということを挙げさせていただいおりましたが、その点で言うと決勝が王子谷選手と羽賀選手ということで、やっぱり彼らの大会だったな、という印象を持ちました。30歳を越えてなおこの大会を取りたいということで、新たな武器を携えて、自分のピークをここに合わせて勝ちに来る。その覚悟、若い選手とはまだまだ違うなと感じ入りました。次にもうひとつ挙げていた、今後斉藤選手と伍していく重量級の若手選手の活躍について。これは少し寂しかった気がします。中野寛太選手は、ケガがあったのかもしれませんが新井道大選手に敗れ、千野根有我選手もはやばやと消えてしまった。太田彪雅選手は力を発揮してくれたのですけど、全体的にちょっとこの先が心もとないなという印象を受けました。そして全日本選手権らしさ、「無差別での戦い」という文脈で言いますと、田嶋剛毅選手が台風の目になってくれたこと。彼は、いま上水さんがおっしゃられたように、技術のディテールのところで体重別では見られない面白さ、例えば巧みな駆け引きであったり、相手の技術の殺し方であったり、そういったところにも改めて目を向けさせてくれました。

古田 ありがとうございます。全日本男子の鈴木桂治監督も、試合後の囲み取材で、ベテランの活躍について「全体的に重量級選手の技術レベルが上がっている」という話をされていました。私たち、もはや選手の技術が高いことに目が慣れてしまっているのでなかなか立ち止まって考えられないのですが、こうした言葉をきっかけにふと考えると、例えば10年前に比べて重量級の人たち全体の柔道の解像度がものすごく上がっているんですよね。作りの精度など、平均値はかつてのそれとは比べ物にならないんじゃないでしょうか。改めてそういったことを感じた大会でもありました。…ではお待たせしました、朝飛先生お願いいたします。

朝飛大
朝飛大 朝飛道場館長、慶應義塾大学師範。日本を代表する指導者であり、少年柔道指導の第一人者。自身も昭和60年大会に出場、世界選手権100kg級の覇者羽賀龍之介をはじめ多くの教え子を全日本選手権の場に送り込んでいる。

朝飛 言うことがなくなってしまいました(笑)

古田 申し訳ありません(笑)

朝飛 いやいや、もう本当にお二人の言われた通りなのですが。優勝経験がある選手がベスト4中3人。原沢選手を破った田嶋選手がそこに入って4人。年齢は上がっても技術がついてくれば30歳を越えてでも戦えるということをはっきり示してくれたと思います。現役選手は20代後半になるとこの先どうしようかと迷う時が出てくると思うのですが、彼らを勇気づけてくれたり、前進させてくれるような戦いぶりでした。これから柔道選手が引退する年齢が上がってくるのかな、と思わせてくれました。

古田 七戸龍選手が試合が終わったあとの囲み取材で、自分たちベテランの出場を喜んでくれるのは嬉しいんだけども、柔道界にとってはどんどん新しい選手が出てきたほうがいいんだ、という話をされていました。それは確かにその通り、新陳代謝があったほうが面白いし、そうでなくてはならない。ただ、生き残っている選手がことごとく技術が高い選手であることは示唆に富みます。「技術があるから続けられる」というのは、前向きなトピックですよね。ハードルが上がることで若手選手のレベルも上がりますし、いま朝飛先生がおっしゃったように中堅選手に示せるものもあるということで。これは有意義です。のっけに上水先生がおっしゃった通り、昨年は「この後10年は斉藤立選手中心の世界になるのではないか」と思ったものですが、今年、これはこれで非常に今後の柔道界の方向性がよく見える全日本選手権だったなと、今お三方の話を聞いて改めて思いました。…それでは早速、1回戦からまいりたいと思います。

古田英毅
司会 古田英毅 (eJudo編集長)

一回戦

岩尾敬太(関東・京葉ガス)○優勢[有効・大外刈]△安達健太(近畿・作陽高校教)

岩尾敬太(関東・京葉ガス)○優勢[有効・大外刈]△安達健太(近畿・作陽高校教)
岩尾敬太の大外刈が「有効」。
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